変人博士の発明記録

雫流 漣。

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迷子発見ヘルメット

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「うぬ、これは画期的かつ、実用的な発明だ」
喜びのあまり、大声で叫ぶのはI博士。

「これでわが国の犯罪件数も激減するでしょう。近頃では、未解決の児童誘拐事件が増加の一途をたどり、政府も手をこまねいていましたからね」
美人秘書が爽やかに同意する。



「正式に発表する前に、この試作品を実装して街に出、テスト運転してみるとしよう。君はデータの集積を頼む」
黒いヘルメットをかぶりながら、てきぱきと指示する。


博士の説明によると、この特殊なヘルメットの効果は、半径3Kメートル圏内で有効らしい。
フルフェイスのヘルメットではなく、見たところ工事現場で使われる作業用ヘルメットそっくり。
唯一違う点は、その派手な頭頂部。


まず、迷子になった際に発生する微弱な感情の推移を、センサーが瞬時にキャッチする。
逆探知システムがオンになると、頭頂部に備え付けられた大きなテールランプが回転しながら激しく明滅するのだ。音と光が、迷子の居場所まで誘導してくれるしくみ。


試作品をかぶり、風のように公道に躍り出ると走り出すI博士。
「バイクの運転時に兼用も可能」


I博士と並んで走行している黒塗りのベンツの運転席から「了解」との返事。

車を自動運転に設定し、美人秘書が実験のメモを取っているのだ。


15分ほどして、二人は駅前のデパートに到着した。
駐車場から店内に上がるエレベーターに乗りながら美人秘書が言う。
「迷子と言えばやはりデパート。目の付け所がさすがです、博士」


「誉められると、いささか照れてしまうな。さて…仕事を始めるとするか。センサーが反応するまで売り場をブラブラするとしよう」


平日の午前中なせいか、なかなか迷子が現れない。闇雲に歩き回るのも疲れるので、1階のコーヒーショップで時間を潰すことにしたI博士と美人秘書。

煙草をくゆらせながら、あくびを噛み殺す博士。
新聞でも読むか。
二十分経過。

ふと顔を上げると、美人秘書が向かいのドラッグストアで化粧品を物色しているのが見えた。

「仕方がない。ただ待つのは退屈だからな。にしても、全然気がつかなかった、いつの間にあんな所に…」

部下のサボリに直面しても、頭ごなしに叱ったりはせず、見て見ぬふり。I博士は優しいのだ。
代わりに、手帳にそっと<2%の減給>と書き記した。


どのくらい経ったのか。けたたましいサイレンの音に、I博士が飛び起きる。
どうやら眠ってしまっていたようだ。

ヘルメットは通路の右を照らしている。
博士が慌てて指示に従う。右手に曲がると今度は直進、突き当たるとまた右折…といった具合に、テナントを突き抜けることなく、場の形状に合わせて正確に道を指し示す。

「素晴らしい。実験はほぼ成功だな」

光の導きに従い、7階へ移動する。

「ゲームセンターおよび、特設催事会場でございます」

エレベーター内に機械的なアナウンスが流れ、I博士はにんまりした。子どもはゲームセンターにいるに違いない。ゲームに夢中になるあまり、買い物にきた母親とはぐれたのだろう。

テールランプは真っ直ぐ前を照らしている。視線の先に、矢印の書かれた標識。

ゲームセンター右
特設催事会場左

『目標まであと50メートル、です』

ヘルメットのスピーカーから、目標地点を知らせる音声ガイダンスが流れ始める。あともう少しだ。


…と、ヘルメットが突然に左を指し示すではないか。

「待て、ゲームセンターはそっちじゃないぞ!右だ」

しかしヘルメットは頑固に左の特設催事会場のある方向を照らし続けている…

「どういうことだ」
仕方なしに左へ歩き出す。

『目標まであと20メートル、です』

いぶかしげに周囲を見回す博士。
なんだこの熱気は…

ごったがえしになっているのは…バーゲンセールに群がる女たち。予想外の光景に立ちすくむI博士。

「なんだこの戦場は!こんな場所に子どもがいるはずないだろうに」

実験は失敗か。
諦めかけたものの、せっかくここまで来たのだ、とりあえず最終地点まで行ってみようじゃないか。
気を取り直して歩き始めるI博士。


『目標まであと10メートル、です』

やはり子どもの姿はない。

『目標まであと5メートル、です』

5メートル先に、困惑した様子で座りこんでいる者がいる。 

『目標まであと2メートル、です』

I博士が手帳を取り出して何事か書き込んだあと、迷子に優しく話しかける。

「やっと見つけた。一緒に帰ろうじゃないか」

差し伸べられた手を取って美人秘書が答える。 

「申し訳ありません、迷ってしまいまして」
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