転生したら悪役令嬢……の影武者になったんですが、もしかして私詰んでますか?

かやかや

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2 施設にて、運命の日

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「さあさあ、最後の追い込み!少しの埃も残さないように!」
「はーいっ!」

建物中に散った少女たちの黄色い声が一斉に上がる。その声の内の一つは私だ。バケツに溜めた水で雑巾を濡らし、引き続き窓掃除を続ける。窓ガラスに映った私の隣に、にゅっと同僚の少女、ティナが目をキラキラさせて肩を寄せてくる。

「ね、ね、今日来る人ってどんな人かなぁ。貴族の人なんだよね?コーシャク様?ハクシャク様?」
「あはは……。そんなに楽しみ?」
「そんなに楽しみ!」

お喋りを咎められない程度のひそひそ声を弾ませる。きっと本当に楽しみなんだろう。私は苦笑を返すだけだった。


乙女ゲームの選択肢を割と本気で悩む中、唐突に意識が途切れた。そして次に目が覚めた時、単刀直入に言うと、気付いたら私は“アネキス”の世界の中で生を受けていた。
私はアネキスの舞台であるフェヴァイユ王国の片隅の、とある小さな施設にいた。そこは身寄りのない子供を預かる養護施設で、つまり私は孤児として施設に捨てられていたのだ。
その施設では孤児を預かる傍ら、貴族の屋敷で働けるよう使用人としての訓練もしていた。ちなみにその施設に預かられている子供だけではなく、近辺の平民の子供にも使用人としてのイロハを教えている。今私の隣で浮かれるおしゃべりな彼女は平民で、週に5回この施設に通って使用人になるための勉強をしている。

安定した日本の生活と比べて、最初は少し戸惑ったが、生来そこまで悩む性質でもなかったことと、心の休まらない社会人生活に飽き飽きしていたため今では案外と楽しんでいる。
それから、理由はもう一つ。今の状況とこの世界を鑑みて、もしや自分は主人公なのでは?と小さな希望を抱いている。
そして今、最も期待が高まっている。なぜなら今日の正午過ぎ、どこかの貴族がこの施設にやって来るというのだ。
理由ははっきりとは伝えられていない。だが、ただの屋敷の使用人を雇うためにわざわざ迎えに上がる貴族など聞いたことがない。きっと何か、やんごとなき事情があるはず。ただし不安は────、

「逆に聞くけど、アンリは楽しみじゃないの?貴族様のお屋敷で働けるかもしれないのに」

ティナが窓を拭きながら、不思議そうに首を傾げて聞いてくる。
アンリエッタ、というのがこちらでの私の名前だ。でも、アネキスの主人公のデフォルトネームはそんな名前ではなかったはず。私はゲームをデフォルトネームでプレイしていなかったから、はっきりと名前が思い出せるわけではないけれど……。でも確か、名前に濁点が付いていた、ような。

「楽しみは楽しみだけど、緊張の方が強いかなぁ」
「アンリエッタッ!ティナッ!お喋りする暇があったらお掃除っ!」

私が複雑な表情で返事をしたとき、私たちが雑談に花を咲かせていたことに気付いたらしく、施設長からお怒りの声が飛ぶ。きゃあとおどけた声を上げて私たちは散り、それぞれの掃除に戻った。



「アンリ、ここにいたの!」
「きゃあ!?」

私が1階の屋根に登り2階の窓を外から拭いていると、突然室内からソプラノの甲高い声が掛けられ驚きで体が跳ねる。思わず体勢が崩れ重心が後ろへとかかった。反射的に窓枠を掴もうとするが、その手は空を切る。

「ア、ア、アンリ危ないっ!!」
「ひッ……!」

落ちる!そう確信してぎゅっと目を瞑った途端、私の手は小さく柔らかな手に引っ張られた。落下する感覚はなく、しっかりと足は屋根についている。恐る恐る目を開けると、片手は私の手を掴み、もう片一方は内側の窓枠を掴んで私を支える友人、リアの姿が見えた。
私はぶらりと暇をしていた片腕を上げ、しっかりと窓枠を掴んで体勢を立て直した。やっとリアが安堵したように目を細め、私はうるさい心臓を落ち着けた。

「び、びっくりしたぁ……。もう、もうちょっと優しく声かけてよ」
「ごめんなさいっ!だってアンリだけどこにもいないんだもの!」
「え……?他の皆はもう集まってるの?」

リアは小さく頷くと、私の腕を引いて屋根から廊下へと引っ張る。

「貴族様が予定より早くいらっしゃるそうなの。だから、施設長が全員集まりなさいって」
「もう!?大変、急がなくっちゃ!」
「あとはアンリだけ。ほら、早く───っあ、」

彼女の視線が私の奥へと移り息を呑んだのとほぼ同時に、聞き慣れない小気味良い足音が聞こえてくる。振り向くと窓から見える施設の門のすぐ側に、高級そうな黒い馬車が見えた。
そして、私は思わず身震いしてしまった。そんなわけないのに、馬車の中にいるであろう貴族と、二つの窓を隔てて目が合ったような気がした。こくり、口内に溜まった唾液を飲み込む。

「ほら、アンリ!」

リアの声ではっと我に帰る。そうだ、もう施設前まで来てしまっている。
私たちは急いで、でも施設のどこも汚さないよう慎重に階段を駆け降りた。
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