転生したら悪役令嬢……の影武者になったんですが、もしかして私詰んでますか?

かやかや

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3 ご指名

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1階に下りると、既に整列していた皆に続いて私たちもきっちりと並び、姿勢を正す。施設内の空気がどことなく張り詰め、その場にいる全員が緊張しているのが伝わってくる。貴族と接する機会など多くはないのだから当然だ。
酷く長く感じた張り詰めた沈黙に感化され、肩の辺りが重苦しく思え俯きたくなった頃、ギッと軋んだ音を立てて扉が開かれた。

「この度は……」
「黙って」

施設長が恭しく口を開きかけたところで、凛とした澄んだ声音がぴしゃりと上書きをする。逆光の扉から見えるのは細いシルエット。猫のような金色の目は上品な吊り目。揺れるアプリコットの髪。髪も衣服の丈も、貴族らしく長い。いかにも令嬢といった容姿の女性が品良く立っていた。踵の高い靴が質素な床板を踏みしめ、立ち並んだ私たちの顔の一つ一つを値踏みするように瞳が向く。怒ったような、蔑むような、はたまたなんの興味もないような目だった。
その目がこちらを向いたかと思うと、柳眉がぴくりと動いた。反対に私は肩がぴくりと震える。目を逸らすのも失礼かと思い、少しの間2人の中を微妙な空気が流れ、耐えかねて無意識に内頬を噛んだ。

「貴方、名前と年齢は?」
「へ…っ、え、あっ」
「二度言わせないで」

狼狽した私に対し、容赦なく言い放つ。その声にむしろ背筋が伸び、私の代わりに口を開きかけた施設長を遮るようにはっきりと答えた。

「アンリエッタと申します。今年18を迎えます」

ふん、と相手が鼻を鳴らしたかと思うと、またしても吟味するようにこちらを眺めてくる。目を細めて凝視する様子は、ぱっと見の印象よりも少しだけ幼く思えた。眉間に酔っていた皴が伸び、私から視線がふっと逸れたのと同時に、不愛想に言葉が続く。

「貴方……貴方には近い内に迎えの者を寄越すから」
「……!」

周囲の息を呑む音や、ひそひそと話し合う声が周囲に流れる。本人である私もぽかんと目を見開き、返事をすることができないまま、貴族はすぐにまた他の使用人を見定めるために視線を移動させた。突端にざわつきもなくなり、靴音だけが響き始めた。
それから私の他にも数人が指名され、多くを語らないままに貴族は去った。告げたのはただ、「近い内に迎えの者を寄越す」とだけ。


その日の食事は、いつもより少しだけ豪華だった。
カタン、と隣に食事が乗ったプレートが置かれ、続いて隣に上機嫌そうなリアが座る。

「今日はアンリが主役なんだから、もっと真ん中に座ればよかったのに」
「私は端っこの方が落ち着くの」

肩を竦めて小さく笑うが、心の片隅では彼女の態度に安心していた。
リアとは同い年ということもあり、彼女がこの施設に来た日から仲良くしている。リアは10歳の頃、親を亡くしてこの施設にやってきた。初めて見たときはどこか良い家の子なのだと思う程には身形が整っており、金髪と空色の大きな目はまるでお人形のようだと思ったものだ。
何をするにも一緒だった私たちに訪れた大きな違いが今日。私は貴族から誘いの声がかかり、リアは声がかけられなかった。つまり、数日後には私たちは別れなければいけない。

「迎えの人、いつ来るか教えてもらった?」

食事に手をつけないまま、リアが質問をしてきた。丁度彼女との別れを考えていた私は心内を見透かされたようで、驚きにいくつかまばたきをしてから口を開いた。

「3日後って、施設長が」
「3日かぁ……」

そこで言葉を切り、その先の言葉を遮るように食べ物の咀嚼を始めるリアを横目で眺め、私は口をもごつかせてしまう。

「……私、リアも────、ううん、リアが選ばれると思ってた。だって、見た目で選んでる感じだったし……」

ぽつ、ぽつと遠慮がちに話し出してから、何を言っても嫌味のように聞こえてしまうことを気にして口をつぐんだ。無論、人のいい彼女はそんな風に捉えたりはせず、あはは、と白い喉を見せて笑った。

「じゃあアンリはもっともーっと可愛いってことじゃない?」
「もうっ、褒めすぎだってば」
「あはは、照れてる?」

くすくすと鈴の声が転がる。リアとの間に流れる柔らかい雰囲気に、いつの間にか私の不安は絆されていった。
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