時を裂く

彩葉 ちよ

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「瞬、あなたAクラスなんだってね」
 全寮制のスピリット魔界学校には、談話室がある。その談話室の暖炉の近くで、凛は瞬の肩を叩いた。校長室からの帰りだった。
「大丈夫? 具合が悪そうだけど」
「問題ない。いつものことさ」
 瞬がなんでもないというように手を振る。暖炉の火がはぜてパチパチという気持ちのよい音を鳴らした。
「……俺はBクラスを志望したんだ」
 ややあって口を開いた瞬が何を言ったか、凛はしばらく理解できなかった。一瞬の静寂のあと、曖昧に返事を返す。
「ああ、へえ、そうだったの」
「それなのにあの校長。なにを考えているのかさっぱりわからない」
 Aクラスなんてついていけないに決まっている、と頭を抱えた瞬の横に回り、ソファへと促す。
「挑戦することもいいことよ。校長だってそれを望んでいるんじゃないかしら」
 ソファに座らせた瞬を凛は見つめる。
「違うんだ。Aクラスとそれ以外のクラスは天地ほど差があるんだ。お前は特別授業だからわからないかもしれないが」
 実際、知らなかった。Aクラスが凄いというのは頭でよく理解していたが。
「翔雲の魔術の習得なんだ」
「なにが?」
 突拍子な話題転化に凛は戸惑う。彼にはこういうところがあったと改めて思う。
「次の課題が」
「まさか。この新学期に?」
 翔雲の魔術とは、文字通り雲で飛翔する技だった。並大抵の魔術士が習得するにはかなりの努力がいる。
「いつまでに習得するの?」
「来週」
「そんな、嘘でしょう?」
 暗炎の魔術と並べられることの多い翔雲の魔術。それをこの兄が習得するにはかなりの年月がかかるだろう。
「お前はもうすでに暗炎の魔術ができるんだろう? 翔雲の魔術もできないか?」
「そんな、無理言わないでよ。あんなの出来ちゃうほうが困るわよ」
 瞬は凛が「時空」の魔術士であることを知らない。それなのに、なぜ特別授業なのか訊いてきたりしないところも、瞬の性格の一部であると凛は思っている。
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