アロハシャツ屋の私の叔母さん

彩葉 ちよ

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アロハシャツ屋の私の叔母さん

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私の叔母は、アロハシャツを作ってそれを売ることを生業としていた人だった。

叔母はちょっと変わり者で、シャツを作っているところを誰にも見せないし、でも作り上げた新しいデザインのアロハシャツは真っ先に家族に着せてくれた。

やさしいのか頑固なのかよくわからなくて、母はそんな叔母をどこか遠ざけているようだった。



私は小さいころ、父は仕事で母がパートに行っている時、よく近所の叔母さんの店に歩いて通っていた。

私が来ると、叔母は人懐っこい笑みを浮かべて必ずお菓子やアイスを私にくれた。

そんなときは必ず、
「お母さんには内緒だからね」
 なんて口に指をあててウインクするのだった。私もそれに応えて、両目をつぶるウインクもどきをしていた。



少々大人になりかけた私が家出したとき、行く先がなくて困っていた私を店に入れてくれたのも叔母だった。

「どうして家出したの」
 
 叔母が見据えてくる視線が、真っ直ぐだったのをよく覚えている。

「お母さんが、私のことよくわかってくれないから」
 
 とかそんなようなことをたぶん言ったと思う。そんなときいつも、

「ああ、姉ちゃんが原因かあ……。私もねえ、」
 
 なんて相槌をうってから、昔の話をおもしろおかしく話してくれる。それで必ず、昔の母や叔母の話に笑ってしまい、なんだか家出したことがバカバカしくなって帰るのだ。





「叔母さん、なんでアロハシャツ作ってるの?」
 
と一度聞いたことがある。

叔母は、「そうねえ」と言って顎に手を当てると、試作中だという青色のアロハシャツを店の奥から出してきた。

「世の中、必要なものばっかりじゃないでしょ?」
 
私は頷いた。

「アロハシャツ、必要としている人はホントに一握りだと思うのよね」
 
叔母の指がアロハシャツの上のハイビスカスをなぞっていく。

「でもね」

と叔母は続ける。

「お金とか、家とか、みんなが必要なものをつくるのってなんかつまんないじゃない」
 
叔母はそう言って、試作中の青アロハシャツを膝に置いた。

「私は、面白いことが好きなの。みんながしてることはしたくないんだよねえ」
 
そしてまた、アイスをくれるときのような人懐っこい笑顔で、「さ、夕立が来る前に帰りな」と私の背中を押してくれた。



今、3年前に上京した私は叔母に会う機会は極端に少なくなった。それでも、年賀状のやりとりは欠かさないし、たまに電話もしたりしている。




来月、叔母の誕生日がくる。そのときに一度、故郷に帰ってみるのもいいのかもしれない。

あのとき叔母がくれた、青いアロハシャツを持って……
 





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