ラッキーボーイ(?)と日本一の金剛石 【石物語 4月号】 (R-18)(達彦×マリア)

るりあん

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スクープ

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 空港で、出国手続きをキャンセルして、都内に戻ったときには夕方近くになっていた。

 その足で、マリアはまっすぐ事務所へ向かう。
 大女優――松ちぐさと元所属事務所長――柏木達彦の離婚のスクープの件で、事務所の前にはもう少し記者がいるかと思ったが、意外にもそれらしき人物は数名だけだ。別れた夫のほうよりも、認知度の高い本人や、現在付き合っていると噂の有名俳優のほうが記事になるのだろう。
 マリアは、近寄ってきた記者らしき男に気がつかない振りをして声をかけられる前に足早にビルの中へ入った。
 事務所はいつもより電話応対の声が響いていたが、達彦の姿はない。
 マリアは、迷うことなく屋上へ足を向けた。

「よく分かったな」
「なんとなく、ここかなと、思っただけです」
「……サボってるのは、バレバレってか」
 ははっと笑って達彦は白い煙を青い空に向かって吐き出し、見上げたままで「身体、大丈夫なのか?」と訊いた。
 それからゆっくりと達彦は、視線をマリアの腹部に向ける。
 数週間前までは、新しい命が宿っていた場所だ。

「知ってたんですか?」
「あれだけニュースになれば、知らないほうがおかしいさ。『売り出し中のモデルと雑誌で話題のうちカフェ王子 熱愛発覚』だったっけ? ――で、そのユウヤはどうした? 休暇はヤツとバリの予定で、今日発つって聞いていたが――」

 達彦は、扉のほうへ目をむけ、そこにユウヤの姿を探す。
 そのユウヤを、マリアは空港に置いてきた。今頃は、妹と二人で機上の人となっているはずだ。

「よく、ご存知で。――まさか、それも、周知なんです?」
「いや、こっちはおせっかいな写真家が教えてくれた」

 おせっかいな写真家といわれて心当たりはマリアには一人しかいない。――キースだ。なかなかの策略家で、マリアが旅行をキャンセルして今ここにいるのも、すべて彼によって仕組まれたことだ。
 おそらく、あのスポーツ誌に松ちぐさのスクープ写真を持ち込んだのも彼だろうと、マリアは確信していた。
 その策略家キースが、マリアとユウヤのことを達彦に話しているとすれば、マリアがここに来たのは彼の筋書き通りで間違いないということだ。
 問題は、キースがどこまで達彦に話しているのか、ということ。
 達彦の出方をみるために、マリアは「それで?」と短く聞いた。
「……写真を一枚渡されて、どうしたいって聞かれたよ」
 凭れていた鉄柵でタバコの火を揉み消した彼は、いつもの飄々とした表情で曖昧な台詞を吐いた。
 素知らぬ顔をしているが、頭の切れる彼のことだ。マリアが聞きたいことは分かっているはずなのに、あえてそれを避ける達彦の返答に、彼女の気持ちは前のめりになる。
「それで?」
 マリアは焦れるまま同じ台詞を口にした。
 達彦は、まるで「その先を聞きたいのか?」と確かめるかのようにゆっくりと息を吐いて、中空に彷徨わせていた視線をマリアに向ける。
 その視線にマリアの気持ちが少し落ち着いた。
「……言いたくないならいいですけど――」
 くだらない焦りを吐き出すかのようにため息をついた彼女は、達彦の隣に並び、彼の手の中で弄ばれていた箱から、一本抜き出した。唇に軽く咥えると、横から何も言わずに達彦がライターの火を近づけてくる。
 彼女が煙を吸い込み、吐き出したところで、「いいのか?」と彼が聞いた。
 それは、「煙草を吸ってもいいのか」という意味にも取れたし、「その先を言ってもいいのか」という風にも取れた。
 目的語をあえて言わないところに彼の狡さが垣間見える。
 彼女は、無言でもう一度、今度はため息と共に紫煙を吐き出した。その隣で達彦は、呑気そうに次の煙草に火を点けている。
 いい加減で、とらえどころのない男。
 自分でもどこがいいのか疑問に思うけれど――
 もともとの造りがいいから、多少の不精はおしゃれに見えるが、恰好だけ見れば、まるで休職中の中年だ。とてもじゃないが、モデル事務所エージェンシーの所長には見えない。
 だが、それが数日前までは、大物女優――松ちぐさの夫だったというのだから、本当に人は見た目で判断できない。
 その事実を初めてモデル仲間から聞かされたときには、驚くと同時に、落胆と、それを覆い隠すように、何でこんな男がという怒りにも似た感情がこみ上げてきた。
 彼は、いつもなんでもない顔をしてマリアの不意をつき、心を惹き付けさせる。初めて会った12年前の秋の終わり――まだ、マリアがモデルになるなど考えもしていなかったあの頃も――
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