俺が悪役令嬢になって汚名を返上するまで (旧タイトル・男版 乙女ゲーの悪役令嬢になったよくある話)

南野海風

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40.ある王子の洞察  一

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「奉仕活動……ですか」

 突然、学校長室まで呼ばれて何事かと思えば、問題児の話だった。

 二年前から生徒会長を務めているキルフェコルト――キルフェコルト・タットファウス第一王子は、正直な気持ちを述べるのであれば、二年前から面倒なことを押し付けられたと思っている。
 生徒会長なんて、キルフェコルトに言わせればただの雑用係である。たかが学校という小さな世界だけの生徒の代表に何か大きなことができるわけでなし、学校経営に口出しできるほどの権力があるわけでなし。そんなものを無理やり握らされたところで、手が埋まるだけの話だ。
 実際、手が埋まってしまっただけで、好きに使えるはずの時間を随分手放したと思っている。生徒会長の雑務に追われたあの時間を別のことに当てていたら、それこそ何か大きな成果を上げられたかもしれない。

 ――いや、仕方ないのは、自分でもわかっているのだが。

 もし使える時間が多かったら、自分はきっと冒険に明け暮れただろう、と。
 身分を弁えれば、己から危険に飛び込むようなことは絶対に避けなければならない。が、監視の目がゆるく大抵のことは自由にできるこの現状で、果たして自制できたかどうかは自分でも怪しいところだと思う。

 王宮から離れた学校生活は、自由に満ちていた。
 故に自分がしたいことを率先してそこそこの無茶はしてきたし、命に関わりそうな危機にも何度か対面してきた。
 こうして無事に、五体満足で学校生活最後の年を迎えられたのは、周囲の助力があったからだ。決して己の力のみでやってこれたとは思わない。

 生徒会長などという雑用を引き受けてもいいと思えるくらいに、キルフェコルトはこの学校の存在が好きになり、感謝しているのだ。

 そして、キルフェコルトが生徒会長役を押し付けられた理由は、もう一つある。

「すまんが頼めんかね?」

 疲れた顔を隠そうともしない中年……学校長は、今抱えている問題を全て吐露した上で、また面倒事を押し付けてきた。

「確認しますが、本当にフロントフロン辺境伯令嬢が、奉仕活動をすると? そしてその内容は、学校の敷地内に全生徒対応の浴場を作ることだ、と?」

 一切顔には出さないものの、キルフェコルトは半信半疑どころか、最初から最後まで信じがたい話を聞かされたと思っている。
 あの女が誰かのために何かを成すなど、決して有り得る話ではない。強いてそんな相手がいるとすれば、異国の王子へ当てた恩着せがましい余計なお世話くらいのものだ。

 もちろん、冗談で呼び出されたわけでもなければ、面倒事を押し付けられそうになっているわけでもないのは、よくわかっている。

 ――キルフェコルトが生徒会長を任された理由は、家格にある。

 学校内ではあまり身分にこだわらないようにと再三言われるのだが、その程度で統制できるならこの国に貴族など存在しなくなるだろう。
 それは仕方ないことだとして。
 身分差のせいで、あの光の問題児・・・・・を諌めることができる人物が、極端に少ないせいだ。貴族でもないと声を掛けるのは不可能、貴族であっても爵位が低ければ声をかけることに躊躇するだろう。王族くらいの身でないと、正面切って文句を言ったり注意したりできるものではない。
 それは学校長も例外ではない。この代の教師たちではあの女に注意はできても、家格の差のせいで聞き入れられる可能性はまずない。いや、むしろあの女なら注意されたことに腹を立てて報復を考えるだろう。自分が悪いのに。

 あの光の問題児・・・・・の我侭と騒動と対人問題などなどの対応にほとほと困り果てた学校側が打ち立てた対抗策こそ、キルフェコルトなのである。
 この国の第一王子であるキルフェコルトならば、たとえ相手が辺境伯令嬢でも、直接物申すことができる。諌めることもできる。何なら口喧嘩になって罵り合ったところで一向に困らない。

 そして、生徒会長という立場を与えることで、注意する者として正当性を与えられた。迷惑がられようが煙たがられようが「生徒会長だから」で押し切ることができる。

 ――まあ、やはり、どう考えても面倒なことを押し付けられたとしか思えないわけだが。

 しかしこれもある意味王族の仕事だろうと思えば、まだ納得はできる。
 この学校は国営なのだから、経営者の息子が経営に協力すると考えれば、そう不自然な流れだとは思えない。

 こうして呼び出された上で問題を押し付けられる体の良い雑用係だと思うと、かなり複雑ではあるが。

「うむ、すべて彼女から聞かされたことだよ。頼めんかね?」
「…………」

 キルフェコルトは考える。
 いつもならさっさと注意して、あの女も自分も不愉快になって後味悪く終わるだけなのだが、今回の我侭・・は毛色が全く違う。

 ――浴場を、作る?

 あの女なら興味を示すことさえないだろうと思っていた単位査定に、あの女が浴場建設を選んだというのも驚いたが。
 学校長の話では、その作った浴場を生徒たちに開放するそうだ。あの女が。それにも驚いた。

 そのため、あの女がここを訪れた理由は、敷地内の土地の使用許可を求めてのことだったとか。
 「あの女が」と付け加えるだけで全てが嘘だとしか思えないのだが、学校長がこんなわけのわからない嘘だか冗談だかを吐く理由がないので、本当なのだろう。

「もし本気なら、それは悪くないですね。許可してもいいと思いますが」

 本当に風呂場を作るだけなら別にいいと思う。何なら個人用でも文句を言う筋合いはない。なのに全生徒に開放すると言うなら、なるほど奉仕活動と言う名目にも多少当てはまる。……やはり若干違う気もするが。

「だから困ってのう」

 困る。わからなくもない。
 これまで散々問題を起こしてきたあの女のこと、言葉通り受け入れるのは不安があるのだろう。キルフェコルト自身も何やら言いようのない不安が沸き起こっている。

 あまりにも不自然なのだ。
 誰かのためになることをする、と言われると。
 「あの女が」と付け加えるだけで。

 学校長の話では、フロントフロン家から注意を受けたからだという話だが……社交界であの女が問題視などされていただろうか? キルフェコルトは聞いたことがないのだが。

「君に全て任せる。全権利を任せる。作っても構わん。ただ、もし君の目から見て何かがダメだと思ったなら止めてほしいのじゃよ」
「――わかりました。引き受けます」

 あの女の、いつもと違う我侭に少しだけ興味が湧いた。
 いつも後味悪くなるだけのあの女との付き合いだが、今回は少しだけ違うものを感じることができそうだ。

 ――何なら本当に作ればいいしな。

 あの女の言動にはまるで期待していないが、浴場があれば自分も嬉しい。城ではちょくちょく入っていたが、寮生活では滅多に入れる機会がなかった。
 最初は疑問しかなかったが、考えれば考えるほど、なかなか合理的に思えてきた。
 浴場建設は、この学校に成果を残すことも、この学校や自分に関わった教師や生徒たちへの恩返しにもなる。しっかりした物を作ればこの代のみではなく何年も使えるのだ。

 どういうつもりであの女がそんなことを言い出したのかはわからないが、言い出した以上はその言の責任を取らせればいい。

 こうなったら、とことんこの企画に付き合って、是が非でも浴場を作らせるのだ。




「クローナ」

 学校長室を出たところで、そこに佇む己の侍女に命じる。

「学校の敷地内に風呂場を作るぞ。今俺が幾ら使えるのか、そして建設に幾ら掛かるか調べてこい」
「承りました」

 根っからのリーダー気質であるキルフェコルトは、この時点から、すでに企画を乗っ取るつもりで動いていた。
 あの女にそんな大それたことができるわけがないから、それとなく先導しつつ完成までこぎつけてやろう、と。名ばかりのリーダーはあの女にやらせて、実働は全てこなしてやろう、と。

 ――結果的にその通りにはなるのだが、それでも最後まであの女とリーダー役を奪い合うことになるなど、この時は予想さえしていなかった。








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