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16.貴椿千歳と乱刃戒、管理人に怒られる
しおりを挟む「なんだか疲れた」
「俺も疲れた」
今日も、九王荘の前まで送ってきてくれた花雅里と橘と別れて。
外階段を前にして足が止まり。
同調したかのように、同時に溜息が漏れた。
やっと終わった。
今週が、やっと終わった。やっと金曜日が終わった。
これで土日の休日を挟んで、風紀委員の期限はあと……10日以上あるなぁ。先は長い。
俺としても、これで転校してから一週間がすぎたことになる。
島から出てきたこと、新しい環境、ただでさえ慣れないのに例の約束のこともあり、めまぐるしく環境が変化した。
そのせいで、どうにもまだ新生活に慣れた気がしない。
俺の場合は都会の生活自体も初めてだらけだから、学校以外でも戸惑うことは多いが。
乱刃も、今まで敬遠されていたクラスメイトたちが急に話しかけてきたり接触してきたりするので、なんだか気疲れしたようだ。
俺もそう上手い方じゃないと思うが、乱刃は特に口下手そうだもんな。
ちなみに俺と乱刃の関係は、特に変わっていない。
乱刃も相変わらず俺の名前を覚えていないし、俺も話しかけたら損した気分になるのであまり話しかけていない。
つまり、険悪なままである。
「おい、男」
だから、こうして乱刃から声を掛けてきたことは、珍しいと言える。あと名前覚えろ。
「なんつー呼び方だ。……なんだよ?」
「草を取りに行く。付き合え」
「あ? 草?」
草、って……なんだ?
「私の食料だ」
食料……あ、山菜的なこと!? 山菜的な意味!?
「だがきのこは駄目だぞ。あれはあたる」
「俺は何も言ってない」
島暮らしの俺である。山菜くらいはよく摘んだし、食える草も見分けはつくが。
でも、都会でそれはどうなんだ。
遠出しないとないんじゃないか? あと乱刃の言う通り、きのこは確かに同感だ。あれはヤバイ。素人が手を出していいものではない。
「今まで食事は保存食と草を貯めていたのだが、もうなくなった。採りに行かねばならない。自分の食事くらい自分で用意せねばな」
自分のことは自分でやるって気持ちは大切だと思うが、しかし……いや、まあ、仕方ないか。
田舎者の俺でさえ「食料は買え」と言いたいのだが、経済的理由で無理なのかもしれない。自分で調達しないと食べることもままならないのかもしれない。
家庭の事情に軽はずみに口を出すと相手を傷つけるから。
いくら相手が乱刃でも故意に傷つけたいとは思わない。
それと。
例の約束は、「学校内外を問わず」とある。ならば学校だけでなく、私生活でもできるだけ一緒に行動した方がいいだろう――俺が知らないところで、乱刃が魔女とケンカする可能性もあるわけだし。
乱刃も、その辺を考えて俺を誘ったのだろう。
信用できないから一緒に来い、と。自分の預かり知らないところで禁を破るかもしれないから、と。
「わかった。じゃあ行くか」
仕方ないだろう。ここは付き合うか。
俺も少しは山菜の見分けはつくので、二人で集めれば少しは早いだろうしな。
「では動きやすい格好に着替えてここに集合だ。早くしろよ、男」
「貴椿だ」
――そして俺は、自分の考えの甘さに後悔した。
乱刃が山菜のある場所と認識していたのは、片道走って二時間の、隣の隣の隣の町の山である。
俺は島中を走り回っていたので体力はそれなりにあるとは思うが、それでも疲れるハイペースだった。
着いた頃には、辺りは暗くなっていて。
街灯もない一帯は、舗装された道路からはずれた土と草の上で、星明りを遮る木々はかろうじて見えるが、他はほとんど何見えやしない。
俺はまったく見えないが、夜目の利く乱刃は、その状態で目的の草を黙々と探し続けた。
なんだか嫌な予感がした。
こんなに暗く、舗装もされていない山道を、果たしてちゃんと戻ることができるのか、と。
そして、案の定というかお約束というか、嫌な予感が的中して先導してきた乱刃は帰り道に迷い。
来た道を逸れたせいで道がわからなくなった俺も、一緒に迷うことになり。
八時過ぎまでさまよった頃、念のために持ってきていた俺の携帯が鳴った。
相手は管理人さんだった。
『瞬間移動』で迎えに来た管理人さんに怒られ、泥と汗とで汚れた俺たちは、ようやく九王荘前へと帰ってくることができた。
「寮の門限は八時、以降の外出は一言断りを入れてもらわないと認められません。今、風紀委員から罰を受けているのよね? そんな状態で更に校則違反をしたら、有無を言わさず厳罰ですよ」
まったく管理人さんの言う通りである。
「遊びではなく道に迷っていたということで、今日のことは白鳥先生には内緒にしておきます。でも、今後二度と、こんなことはないようお願いします。いいですね?」
「「はい……」」
後悔した。すごく。
怒っている管理人さんを見送ると、今度は俺の怒りがふつふつとこみ上げてきた。
なんだよ道に迷うって。
なんだよ道に迷うって!
「乱刃、おまえのせいだからな」
「……おまえが道を覚えていれば――」
「あ!? 何だ!? 聞こえなかったけど今なんか言ったか!?」
「いや……」
「今なんか言ったよな!? 俺のせいがどうとか言ったよな!? 俺のせいがなんだって!?」
「なんでもない……聞こえているじゃないか……」
さすがの乱刃も、今日はもう反論しなかった。
「あー腹減った……疲れたし腹減った……」
俺の晩飯の時間は七時前後なんだぞ。八時すぎまで引っ張り回しやがって。
とにかく部屋に帰って飯……の前に、やっぱ風呂か……かなり汗かいたしな。いや、今日はもうシャワーで済ませよう。疲れた。学校で疲れて学校終わってから肉体的にも疲れるとか……やれやれ。
何を作ろうか、と考えながら外階段の一段目に足を掛けたところで、思い出した。
いまだ我が家で眠る、鰹節のことを。
引越しの挨拶にと島から持ってきたアレだ。
なんだかんだ揉めたせいで、結局乱刃には渡しそびれている。もちろん料理も作っていない。
「なあ」
すぐ後ろにいる乱刃に声を掛ける。
「おまえの今日の晩飯は?」
「草だ」
だよな。おまえの食料を調達に行っていたんだもんな。
「鰹節の約束は覚えてるか?」
「かつ、お、ぶ……し?」
なんで初めて「鰹節」って名前を聞いた外国人みたいな反応なんだよ。たどたどしくなる意味がわからない。
「武士の親戚か?」
なんの話をしてるんだよ。「ぶし」繋がりでなんの話をしてると思ってるんだよ。
とにかく、乱刃はあの時の約束を憶えていないようだ。人の名前も憶えないような奴だから当然と言えば当然かもしれないが!
「米とうどん、どっちが好きだ?」
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