21 / 21
20.貴椿千歳、乱刃戒の目的を探る
しおりを挟む「おい男」
「本当にいいかげん名前を覚えろ」
「……はなつまみ?」
「嫌われ者みたいに言うな! 貴椿だ、貴椿!」
つか何度も何度も言ってるのに一文字も合ってないってどういうことだ! 語感だけじゃないか! もう語感がちょっと似てるだけって感じじゃないか!
もう、本当に、絶対に、憶えるまで諦めないからな! 何度でも繰り返してやるからな!
「それより今日の夕飯はなんだ?」
「……慎みと遠慮って言葉、知ってる?」
「おい、肉が安いぞ。あれはお買い得ではないか?」
「俺の話、聞いてた?」
「細かいことは後だ。今は肉だ。あの肉をかごに入れるのだ。鮮度が落ちる前に。肉を」
……なんかすげー凛々しい顔で肉を勧めている。俺の手を取って、肉に導いている。……やめろっ、力ずくでっ、肉を……そんなっ……
「ってほんとにやめんか」
腕を振り払うと、……俺を見上げていた乱刃の凛々しい表情が、夢を壊された子供のような、絶望に満たされたそれへと変わった。
ええー……何その罪悪感を煽り立てる顔……むしろ俺の方が被害者だろ……
どうしてこうなった。
いや、どうしてもこうしてもない。
俺は野生の乱刃の餌付けに成功した。ただそれだけのことだ。
放課後、ボディガードの花雅里と橘を連れて、俺と乱刃は帰宅した。
最近はずっと帰りはこの四人である。
そういえば、花雅里と橘の家はどの辺なんだろう? 聞いていないが、いつも二人は九王荘まで送ってくれる。
案外地元なんだろうか? 多くの魔女が学生寮か、俺たちと同じように九王院学園が提供するアパートなどに入っていると思うが……
まあそれは後日聞いてみるとして。
今日は、冷蔵庫の中身が少なくなってきた俺の食料調達のために、九王荘ではなく、主婦の強い味方である地元密着型の大型スーパーの前で別れた。
一応乱刃には「先に帰るか?」と聞いたのだが、この通り付いてきている。
「一緒にいた方がいいだろう」と言って。
乱刃が買い物に付いてきたのはこれが初めてだ。
というか先週金曜日以降、外出はしても買い物には出なかったのだが。
やはりあの日が決定的だったのだろう。
四日前、カレーを食わせたあの日から、乱刃はなんだかんだ理由を付けて、夕飯はうちに来るようになっていた。
そして今、この有様である。
たぶん今日も来るつもりなのだろう。
まあ、乱刃は見ての通りかなり小柄なので、大して食べるわけでもない。別に一人分作るのも二人分作るのも大差ないのでそれはいい。
いや、正直に言えば、嬉しいのだ。
歓迎さえしている。
だから俺は強く断らない。
島にいた頃はいつも誰かしらと飯を食っていた。島の人間みんなが家族みたいなものだったから。
そんな俺には、部屋で一人で食事というのが、すごく寂しかった。
一人でいる時間を埋めるようにして島のみんなに電話をしたりして……たぶん本当にホームシックになっていたんだと思う。いや、案外現在進行形かもしれない。
そんな状態だった俺は、たとえ乱刃でも、一緒に飯食ってくれる相手がいることが嬉しかった。
来るなら来ればいい。別に迷惑ではないから。
ただ、問題は管理人さんである。
乱刃の来る日は、管理人さんも呼ぶことにしている。要らない誤解をされるのを防ぐためである。
全然意識したことはないが、乱刃は女で、俺は男だから。だから夜、部屋に二人きりになるのは避けているのだ。
しかし管理人さんも、連日のように夕飯に呼ばれるんじゃ迷惑だろう。
一度、乱刃とはちゃんと話し合った方がいいとは思うんだが……しかし聞きづらい。
もし乱刃の家が超極貧で、食費にも困るような経済状況だった場合……というか、山菜を主食にしていたような奴なので、その可能性は極めて高い。
だからこそ、乱刃は俺を本当の意味での食料源として見ている可能性もあるのだ。
困ってる女の子は助けろ、ってのが、俺が島で年寄りたちに教わったことだ。
今や世界には女性の方が多いし、魔女ならまず男より強いので守る必要もないとは思う。
が、それでも俺はそう教わってきたのだ。古臭くても構わない。どうせ俺はこの歳までまともな学生生活を送ったことのない田舎者だ。都会の常識を知らない田舎者だ。俺はそれでいい。
無理なことは無理だが、できることはしたいと思う。
第一、食べに来るのは迷惑じゃないし。
「なぜ肉を買わなかった?」
会計を済ませてスーパーを出るまで絶望感丸出しの顔をしていた乱刃が、ついに口を開いた。
「今日の夕飯はどうするつもりだ。肉のない夜などありえないだろう」
言っている意味がよくわかないが、とにかく、乱刃は肉を好んで食べる習性があることはわかった。
食肉といえば主に牛、豚、鳥の三種類がある。どれも身近で買えるものだが、乱刃はどれが好きなのだろう? どれでもいいのだろうか?
調査の必要があるな……俺はまだ乱刃の生態を知らなすぎる。
「麺があるんだよ。今日はうどんだ」
まあ肉うどんでもよかった気はするが……いやいや、残り物を消化しないとな。鰹節も残っているし。
「うどんか……」
「嫌いか?」
「……あるならあると先に言え」
あ、嫌いじゃないのか。――うどんも好き、と。
「ところで、ものすごく根本的なことを聞きたいんだけど」
「なんだ」
「今晩、来るの? 飯食いに」
「一緒にいた方がいいだろう」
「俺が約束破るかもしれないから?」
「身に染み付いたものは咄嗟に出るのだ。反射的にな。そこには故意も意図もない」
まあ、それはわかるが。
咄嗟に抗魔法ができなかったら、俺は転入初日に学園長に殺されていたかもしれないからな。
「私は言葉が苦手だ。ちゃんと気持ちを伝えることができない。だから相手に不快な想いをさせることも多いようだ」
「自覚あったのか」
「つい最近だ。橘と恋ヶ崎が教えてくれた。ちゃんと言葉を選ばないと真意が伝わらない、と」
ポツポツと語る乱刃の境遇に、驚いた。――ちなみに恋ヶ崎咲夜は、いつも輝いているので有名なクラスメイトだ。
物心ついた頃から「点拳」という拳法の修行をしていて、森の中にあるような田舎の過疎村で過ごしていたこと。
同年代の子供がいない小、中学校を経て、高校から九王町にやってきたこと。
ほとんど拳の師匠としか人と交流したことがなく、いきなり同い年が多く集う高校生活に放り込まれ、ずっと戸惑ってばかりだったこと。
――その境遇は、俺と似ている。
というかこんな身近に俺より田舎者がいたもんだ。
だが、この流れなら聞ける!
「乱刃、なんで九王院に来たんだ? 魔女じゃないし、騎士志望でもないんだよな?」
一瞬、綾辺先輩の言っていた「約束の期間が終わるまで聞かない方がいい」という忠告が頭をよぎった。
だがクラスの連中と特に揉めることなく過ごせているのだから、魔女狩りをしに来たという可能性は相当低いだろうと推測した。
何より、目的がわからないというのが気持ち悪いのだ。不気味なのだ。
そこを知らないと、俺はこれ以上乱刃と仲良くなれないどころか、信用さえできない気がする。
踏み込んだ俺の問いに、乱刃はまっすぐ前を見たまま、いつも通り答えた。
「兄弟子を殺しに来た」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる