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22.六日目の終わりと七日目の始まり
しおりを挟む陽が暮れた。
夜の帳が降りた頃、ようやく六日目が終了した。
いや、終了したのは王宮錬金術師たちだけだが。
護衛に着いている六番隊と訓練生三人は、夜も交代制での見張りの任がある。
隙あらば森に行こう、隙あらば騎士の目の届かないところに行こうとしていた王宮錬金術師たちは、騎士たちが建てたテントへと消えていく。
まるで遊び疲れた子供が家に帰るかのように。
「……思ったより大変ね」
アンリ・ロンの溜息に、フレイオージュとエッタ・ガルドも頷く。
彼らは目の前の魔材に目を奪われすぎなのである。森の奥に行くなと何度も言っているのに聞きやしない。
それこそ遊びに夢中な子供のようだ。
――「危ぃ険ん? すぉのための護ぉぅ衛ぃでしょぉお?」とか言われた時は、フレイオージュは反射的に殴りそうになったほどだ。ちょっと回想に厭味ったらしい感の悪意が入ってしまうくらい腹が立った。
護衛はあくまでも護衛。
守るために存在している盾であって、危険な場所に向かうための剣ではないのだ。
自分から危険に飛び込むような護衛対象は、護衛の対象外だろうと思う。
そんな輩には「こんな場所でふらふらしていたら危険な目に遭いますよーほら危険な遭ったぁー」とか言いながら、ふざけた尻に蹴りの一つでも入れてやりたいくらいである。
「――気負い過ぎだよ、君たち」
テントに去っていった問題児たちを見送り、疲れた顔で揃って溜息を吐いていると――六番隊隊長セレアルドがいやらしく声を掛けてきた。
「結界で外敵は察知できるんだ。君たちの警戒のしかたは、今まさに不意打ちでも仕掛けられるんじゃないというくらい気を張っている。
もう少し肩の力を抜いて、広く見てくれ。本番は明日だしね。今から疲れていては――」
バチン
「身が持たないよ?」
…………
「…?」
「…?」
「……」
もったいぶった挙句に「身が持たない」とか言ったセレアルドが、バチンと右目を瞑った。
ウインクというやつだ。
エッタとフレイオージュは「今のはなんだ」と首を傾げるが、アンリには結構効いていた。軽薄さといやらしさが際立つ男ではあるが、王子様然とした顔とルックスだけに、通用する者には効果てきめんなのである。
バチーンとキメたセレアルドが、そのままバチーンと立ち去ろうとして――「ああそうだ」といやらしい流し目で振り返る。
「――フレイオージュ・オートミール。君は明日、僕に同行してくれ。ライフォーと共に森の奥へ魔材採取に行く予定だから」
「……っ」
敬礼で答えたフレイオージュに、「ふふ、頼んだよ」といかがわしい含み笑いを漏らして、今度こそ行ってしまった。
「かっこいいなぁ、隊長……ねえフレイ様! かっこいいよね!」
「……」
ぐいぐい腕を引っ張られて同意を求められるが、ゆらゆら揺らされているフレイオージュとしてはなんとも言えない。妹が好きそうだな、としか思わない。
強いて言うことがあるなら、セレアルドの行動の全てがフレイオージュではなく、妖精のおっさんに響いていることくらいだ。今はバッチンバッチンとウインクしまくっている。あれも気に入ったようだ。
「森の奥か……大変そうですね……」
同情するようにエッタが言う。当然、森の奥へ――アテマス山に近づけば近づくほど、魔物と遭遇する可能性は高くなる。
だが、任務なら仕方ない。
――いやらしいセレアルドが、隊長権限を使って共に行動するつもりであることを知らないフレイオージュは、素直に命令に従うのだった。
夜間、交代で見張りの仕事をし、特に外敵に襲われることなく夜が明けた。
「――ああ、がっつり負けたなぁ……」
「――何度も言ってるのになぜ接待を覚えない……」
「――なんでこんなに強い……今月どころか来月までおかずなしのパン生活かよ……」
どうやら終わりのようである。
フレイオージュは持っていたカードを、テーブル代わりにしていた荷を詰める木箱の上に置き、立ち上がった。
「……」
敬礼して、自分の勝ち分を回収して、その場を離れた。
――見張りを交代してからの明け方から朝までのカード勝負で、フレイオージュは容赦なく圧勝した。先輩魔法騎士たちからがっぽりと巻き上げていた。
やりたくないと遠慮したのに、無理にテーブルに着かせたのは彼らである。自業自得だと思う。
ほかの騎士たちや、王宮錬金術師たちも起きてきたようで、テントから出てき始めている。
――予定では今日で撤収となる、七日目の魔材採取が始まろうとしていた。
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