176 / 405
175.王国武闘大会予選、本戦から終了まで。そして私の存在意義
しおりを挟むアルトワール王国第十四代目国王ヒュレンツ・アルトワールの挨拶から始まり、そして終わりの挨拶をもって、王国武闘大会が終了した。
終わった。
終わってしまった。
…………
うん、終わったな。うん。
大いに盛り上がり、大いに騒ぎ、大いに話題が生まれた、これまでにない国際規模の大きな武闘大会だったそうだ。
たくさんの強者が参加し、たくさんの名場面があった。
これから一ヵ月くらいは頻繁に、それ以降はじっくりと、魔法映像であらゆる試合の再放送が流されることだろう。
そして、確信した。
――私はたぶん、この女児の身体であっても、この時代の誰よりも強いんだろうな、と。
皆が誰彼を一流だの最強だのと言っているのが、むず痒くてたまらなかった。苦笑いが止まらなかったし、「なぜ?」が止まらなかった。
なぜこの時代の武人はこんなにも弱いのか。
前世で私が育てた弟子たちはどうしたのだ。後世に伝えなかったのか? なんなんだ。何があった。
確かに私は強い。
前世でも異常に強かった。
神と殴り合って勝ったこともある、ような気がする。
なるほど記憶はないがあの頃の感覚と経験があれば、肉体が脆弱な子供であっても、それなりに強者でいられるものかと納得したりもした。
この状態なら、それなりに死合える相手もいるだろうと思っていた。
なのにこれだ。
どいつもこいつも弱い。非常に弱い。弱っちい連中ばかりで、肩書きばかりが大きくて中身がまるで伴っていない。何が剣鬼だ。何が音速だ。
いつだったか天破流が弱いと思ったことがあるが、あれは誤りだった。
天破流が弱いのではなく、すべてが全体的に弱いのだ。
武闘大会は盛り上がった。
間違いなく成功だと言えるだろう。
ただ、私の個人的な希望は、叶わなかった。
――いないのか。強者は。私を唸らせるような豪の者はいないのか。
王国武闘大会は、他国の者も多く関わる大会ということもあり、ルールは厳密に決められていた。
それを少しでも破れば、誰であろうと失格という、厳しい規制が敷かれていた。
要は、殺し合いをさせないための決め事だ。
試合中に相手を殺したら即失格。王様はそういうルールを採用した。
参加者は、名の知れた者、有名な者が多かったからだろう。
彼らが潰し合うのは将来的に不利益しかない。冒険家は冒険家の仕事があるし、武闘家は武闘家の仕事がある。
優秀な人材を娯楽で潰すわけにはいかない。
そんな理由もあったおかげで行き過ぎた試合もなく、死者は出なかった。怪我人はたくさん出たが、それはまあ仕方ないだろう。
そして、部門が分けられていた。
素手の部と、武器ありの部だ。
私としては武闘家など、両手両足はおろか血の一滴に至るまで武器だと思っているが、一般人は当然のように、素手と刃物持ちでは刃物持ちの方が強いと考えるようだ。
その辺の意識から、部門が分けられたのだ。
「――では師匠、音頭をお願いします」
ん?
「私が言うの?」
「他にいませんから。お願いします」
ガンドルフにお願いされてしまった。
……立場はともかくとして一番の年少の私が言うのも変な気もするが、まあ、いいだろう。腹は減っているし、誰かが始めないと始まらないからな。
「それじゃ私が。全員グラスを持って」
弟子たちが、グラスやジョッキを持つ。酒が飲める大人が羨ましい。私は野菜と果物のミックスジュースだ。
ここは高級レストラン「黒百合の香り」の個室である。
もはや定番の溜まり場のようになっている気がするが、人目を避けて会える場所というのは限られるので仕方ない。
武闘大会が終わって、もう一週間が経っている。
あの後もそれぞれ忙しそうだったし私も忙しかったので、大会直後は避けて、今日集まったわけだ。
「――リノキスとアンゼルの優勝を祝って、乾杯」
「「かんぱーい」」
個室とはいえ場所が場所なので大声は出せないが、それなりに元気のいい声で弟子たちが応えた。
というわけで、優勝者は二名。
素手の部優勝は、冒険家リーノ。
大本命がそのまま駆け上ったという形だが、だからこそ、多くの者が素直に納得できたはずだ。
武器ありの部優勝は、姿と名前を偽ってはいたが、アンゼルである。酒場の経営に支障が出そうという理由で、偽名で「ゼル」という名で登録し、出場した。
私的に、これも順当だったと言える。
私の弟子だ、そんじょそこらに溢れる一流だの最強だのに負けるわけがない。
リネットとフレッサは出場しなかった。
ガンドルフはリノキスに負けたので、これは仕方ない。私が唯一ちょっと面白かった試合でもある。何せリノキスの「雷音」をガンドルフはまともに受けたし、ガンドルフの「轟雷」をリノキスもまともに食らったからな。あれは興味深かった。どちらかが死んだと思った。あれはよかった。
……とまあ、私の弟子たちは、こういう結果となったわけだが。
私やヒルデトーラ、レリアレッドなどは、大会予選から本戦まで、インタビューだの取材だのといった魔法映像方面の仕事を行っていた。
さすがののんびりしたリストン領でも、この大掛かりな武闘大会はスルーしなかった。なので私も狩り出された形である。冒険家リーノと一緒に、丸々武闘大会の会場となった浮島へ移動し、それからは別行動で仕事に追われた。
多くの試合を観て、たくさんの出場者に接したが……まあ、色々がっかりしたのはもういいとして。
本当に、大いに盛り上がった。
余裕をもって一万人分の席を用意した武闘大会観戦チケットは、数日で売り切れた。その上、大会直前までチケットの問い合わせが尽きなかったそうだ。
転売などで裏に流れた、行き帰りの送迎と食事宿泊付き観戦ツアーチケットは、最終的に五十万クラム以上まで値が上がったという噂を聞いた。
もちろん試合も撮影された。
そして半日以内という驚異のタイムラグで編集を終えて放送され、魔晶板を設置した店や家には、いろんな人が観戦するために殺到したりしたそうだ。
もちろん、武闘大会効果で魔晶板も売れた。
前もって購入する層もいたし、大会がいよいよ数日に迫ると、駆け込むように客が来て何台も売れたという。
詳しい情報はまだ入っていないが、目的の一つだった魔法映像の普及効果は、かなりあったようだ。
祝勝会という名のささやかな食事会が終わり、解散となった。
アンゼルとフレッサは酒場に。
今日も金を持っていない連中相手に、いつも通り安酒を提供するそうだ。
ガンドルフは、学院とは違う方向へ向かった。
彼の大会の活躍を見たいろんな人に手合わせを頼まれているそうで、最近は街の道場などを回っているとか。
リネットは、港方面へ。
今頃ウィングロード用の単船を乗り回しているだろう兄と一刻も早く合流したいと、足早に行ってしまった。
そして、レストランの前には私とリノキスだけが残された。
このまま留まる理由はないので、ゆっくりと学院方面へ向かって歩き出す。
――武闘大会開催からずっとにぎやかで栄えていた王都は、ようやっと外国からの客も引き、随分落ち着いてきたように見える。
まだ他国の武闘家らしき姿が多かったり、そこかしこで大声で大会について話している者がいたりと余韻は残っているが、それもいずれ姿を消すだろう。
学院の近くまで来ると、だいぶ人気も少なくなった。
「これでリーノともお別れですね」
と、リノキスが話しかけてきた。
「別に続けてもいいのよ。せっかく作り上げた人物像なんだし」
大会用に作り上げた冒険家リーノは、もう充分に役目を果たしたと思う。
元々すごかった人気も、大会優勝を経てもっとすごいことになり、本人の許可がないグッズがたくさん作られているのを最近知った。
ここまで人気があるなら、まだまだリーノの名前で何かできそうな気はするが。
「いいえ。私はもう充分です」
しかしリノキスは、もうやる気はなさそうだ。宣言通り「優勝をもって引退する」つもりなのだろう。
まあ、それはリノキスが決めればいいことである。
「……私もそうかも。もう充分。なんだかやり切った気がするわ」
私がニア・リストンになってすぐの頃に、漠然と思っていた「国を挙げての武闘大会を開きたい」という目標は、果たされた。
今日の祝勝会で、完全に終わった気がする。
大きな目標が果たされ、終わり、なくなった。
心に詰まっていた目標がなくなったことで、そこに穴が開いてしまったようで、少しばかり風通しがいい。
その風が、告げている気がする。
――色々と必死で足掻いてやってきたニア・リストンの人生に、一つの区切りがついたのではないか、と。
魔法映像の普及活動も、大会であそこまで盛り上がったのだ。もう充分ではなかろうか。
個人的に気になっていた「私より強い者」は、たぶんこの世には存在しない。
少なくとも、アルトワールや周辺国にはいないだろう。
ここでの私の役目は、もう終わったのではなかろうか。
そんなことを考えながら歩く私の背中は、たぶん、生きくたびれて失意に沈んだ老人のように見えたことだろう。
――前世と一緒だ。生きる目標を失い、戦いの中で死にたいと願ったことも叶わず、ただただ鍛え抜いた肉体と技が衰えていくだけの日々を過ごした、あの頃と。
もう何もないのか。
あの頃と同じで、老衰で逝くのか。
それとも、まだ、何かあるのだろうか。
私がしなければならないことが。
40
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
拾ったメイドゴーレムによって、いつの間にか色々されていた ~何このメイド、ちょっと怖い~
志位斗 茂家波
ファンタジー
ある日、ひょんなことで死亡した僕、シアンは異世界にいつの間にか転生していた。
とは言え、赤子からではなくある程度成長した肉体だったので、のんびり過ごすために自給自足の生活をしていたのだが、そんな生活の最中で、あるメイドゴーレムを拾った。
…‥‥でもね、なんだろうこのメイド、チートすぎるというか、スペックがヤヴァイ。
「これもご主人様のためなのデス」「いや、やり過ぎだからね!?」
これは、そんな大変な毎日を送る羽目になってしまった後悔の話でもある‥‥‥いやまぁ、別に良いんだけどね(諦め)
小説家になろう様でも投稿しています。感想・ご指摘も受け付けますので、どうぞお楽しみに。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
【完結】旦那様、どうぞ王女様とお幸せに!~転生妻は離婚してもふもふライフをエンジョイしようと思います~
魯恒凛
恋愛
地味で気弱なクラリスは夫とは結婚して二年経つのにいまだに触れられることもなく、会話もない。伯爵夫人とは思えないほど使用人たちにいびられ冷遇される日々。魔獣騎士として人気の高い夫と国民の妹として愛される王女の仲を引き裂いたとして、巷では悪女クラリスへの風当たりがきついのだ。
ある日前世の記憶が甦ったクラリスは悟る。若いクラリスにこんな状況はもったいない。白い結婚を理由に円満離婚をして、夫には王女と幸せになってもらおうと決意する。そして、離婚後は田舎でもふもふカフェを開こうと……!
そのためにこっそり仕事を始めたものの、ひょんなことから夫と友達に!?
「好きな相手とどうやったらうまくいくか教えてほしい」
初恋だった夫。胸が痛むけど、お互いの幸せのために王女との仲を応援することに。
でもなんだか様子がおかしくて……?
不器用で一途な夫と前世の記憶が甦ったサバサバ妻の、すれ違い両片思いのラブコメディ。
※5/19〜5/21 HOTランキング1位!たくさんの方にお読みいただきありがとうございます
※他サイトでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる