狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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286.空賊列島潜入作戦 12

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 空賊たちがまずやってくる「玄関の島」は、白い鯱を記した黒塗りの大型船がやってくるのを見て、騒然となっていた。

「――おい、あれ見ろよ!!」

「――白鯱空賊団ホワイトオルカだ!!」

「――フラジャイルが来るぞーーー! 用がねぇ奴はどこかに隠れろーーー!」

 門番を兼ねた荷運びたちが声を上げる。

 さっき赤島に白鯱空賊団ホワイトオルカが帰ってきたのは確認していた。
 前に航海に出た時から数えて、いつもより早い帰りだったな、と誰もが思っていた。

 赤島……四空王が一人・暴走王フラジャイルの島で、空賊狩りを旨とする盗賊が暴れている、という噂は聞いていた。
 帰ってきた理由は恐らくそれだろう――と当たりを付けた頃。

 白鯱空賊団ホワイトオルカの空賊船が、「玄関の島」に飛んで来たのだ。
 
 飛んだな、またどこかへ行くのか、あれこっちに来てないか、まさかこっちに来ないだろう――という期待を裏切るように、まっすぐに「玄関の島」へと舵を取っている。

 四空王とその傘下の空賊は、「玄関の島」には滅多に来ない。
 ここは、いわゆる四空王とは違う派閥……無所属や新興空賊団が占める、いわゆる第五の派閥の島である。

 来てはいけないというルールはないが、来る理由がない。
 ましてや、自分の島を持つフラジャイルが来る理由はもっとない。

 ――フラジャイルが来る理由は?

 それがわからないから警戒するのである。
 暴走王と異名がつくだけあって、あの男は危険である。なんの理由もなく人を襲ったって何一つ不思議じゃないほどに。

「――え、ちょっ……待て! 待てぇ!!」

「――止まれ! 止まれって! 止ま逃げろぉーーー!!」

「――退避! 退避ぃぃぃ!!」


  ゴリゴリゴリゴリバリバリ メキメキメキ

 白鯱空賊団ホワイトオルカの空賊船が、港に突っ込んだ。

 先に停船している空賊船を圧し潰し、なぎ倒し、乗り上げる。
 ギリギリで止まり、建物には突っ込まなかったが――港はめちゃくちゃである。

「俺たちの船がぁ!!」

「ふっ、ふざけんなよおい! ぶっ殺してやる!」

「やめろバカ! 相手が悪い!」

 当然、船を台無しにされた空賊たちは怒る。怒声も怒号も当然上がる。

 相手が四空王でも、船に手を出されれば引くわけにはいかない――荒くれなりの誇りがあるのだ。

「――あ、あのぉ!」

 フラジャイル出てこいやってやる、と濃密な殺気が立ち込める港の中央で。

 乗り上げた船の船首に、見るからにボロく汚い……どう見ても奴隷としか思えない気弱そうな若い男が立ち、声を張り上げた。

「――僕らはぁ!」

 よく見ると、若い男は泣いていた。
 
「――空賊団雪毒鈴蘭スノー・リリーのぉ! 所有物ですぅ!」

 白鯱空賊団ホワイトオルカではない、別の名前の空賊団の名前が出たことで、違う意味でまた騒然となる。

 雪毒鈴蘭スノー・リリー
 最近何かと噂になっている空賊団の名前である。

 ここ「玄関の島」にも、雪毒鈴蘭スノー・リリーに襲われて荷物や武器を奪われた空賊がちらほら出ている。

 特に、向こうから広めろと命じられた「我々は聖女を誘拐した」という事件は、空賊界隈ではここ数年で一番大きな悪事である。

 悪党としては、確実に名を上げる大事。
 新興空賊団を一躍有名にする危険な功績である。

「――今赤島ではぁ! 雪毒鈴蘭スノー・リリーの船員がぁ! 暴走王と戦っていますぅ! 僕らは雪毒鈴蘭スノー・リリーの命令でぇ、白鯱空賊団ホワイトオルカの船を略奪しぃ! ここにやってきましたぁ!」

 雪毒鈴蘭スノー・リリーの船員が、暴走王と戦っている。
 その証拠とばかりに、目の前にはフラジャイルの船がある。

 ここ数年で一番の大事件である。




 空賊団雪毒鈴蘭スノー・リリー
 その名前が空賊列島に聞こえてきたのは、二十日ほど前になる。

 空賊ばかりの島だけに、ここでは常に新興空賊に目を光らせている――ここに名前と存在が聞こえるくらいじゃないと、空賊列島には迎えられないからだ。

 単純に言えば、空賊としての多少の実力と功績がないと、入島させられないということだ。

 四国のほぼ中央に位置する緩衝・物流の要になりうる場所だけに、いつどこの国の討伐隊や空軍がやってきてもおかしくない。
 それゆえの警戒である。

 果たして、その軽快にどれほどの効果があるかはわからない。
 頭の軽い空賊も多いので、一国の本気がどこまで本気なのかを軽視している者が多いのも事実だ。

 頭の回る者は、四国のいずれかもスパイを潜り込ませているだろう――と予想はしているが。
 今のところは健在である。

 やはり、責任者……国で言うなら王や帝といった、トップを押さえればどうにかなるという環境ではないのが、大きいのだろう。
 ここを制圧するには、四空王を含めた多くの空賊たちを、実力で一掃するしかないのだ。

 しかし、それをするのはかなり難しいのである。
 当然空賊たちの抵抗は激しいだろう。空軍だって被害は大きくなる。

 その上、被害を受けて制圧できたところで、今度は四国による領有権の主張が始まる。下手をすれば戦争の引き金になりかねないくらい揉めるはずだ。

 そんな、いろんな偶然と必然と国益が絡んだ上で成立するここは、今日もいつも通り、空賊どもの楽園なのである。

 そして、静かに終わりの時が忍び寄っていることに、誰も気づいていなかった。

 空賊団雪毒鈴蘭スノー・リリー

 その空賊は、商船や空賊船への略奪行為は、順調に数を重ね実績を積んでいるが――

 やはり話題となっているのは、「聖女誘拐」である。
 神聖騎士団が守りを固める聖王国アスターニャの船を襲い、聖女をさらうという神をも恐れぬ悪事は前例がない。

 もうじき空賊列島にやってくるだろうと、野心を胸に灯した連中は新入り空賊団を待っていたのだが――

 すでに雪毒鈴蘭スノー・リリーは空賊列島に潜り込み、赤島でフラジャイルを狙っているという。

 四空王の時代が終わろうとしていた。

 ――否。

 この空賊列島の歴史が終わろうとしていた。

 彼の花の毒は、静かに静かに、空賊列島に広がりつつあったのだ。












 そんな出来事が「玄関の島」であった翌日。

「――ぐわっ! ぐっ、うぅぅ……!」

 赤島の港では、フラジャイルが血まみれで倒れていた。

「――あれ? まだ昨日の疲れが残ってるの?」

 散々ボコボコにしていた黒髪の少女が、笑いながら語り掛ける。

 期待はずれだぞ、と言わんばかりに。

 息切れもなければ、かすり傷一つない。
 暴走王と呼ばれた屈強な大男が満身創痍なのに、少女には乱れなど一つもない。

 狙撃。
 砲撃。
 毒物散布。
 あらゆる武器の投擲行為。
 油を撒いての火責め。

 白鯱空賊団ホワイトオルカの船員たちによるそれらの横槍を全部かわし、その上でフラジャイルをボコボコにしていた。

「もしかしてお腹が痛いの? なんだか今日は調子悪いみたいだから、ここまでにしましょうか」

 黒髪の少女は、倒れたままのフラジャイルに向けて笑いながら、優しく声を掛けた。

「大したことなくてつまんないから、次はちゃんと本気を出して戦ってね」

 倒れたままのフラジャイルは、首だけ動かして黒髪の少女を憎々しげに睨みつける。

「……殺す……てめぇだけは絶対殺す……!」

 少女は頷いた。

「できるといいわね? 応援してるわ。――また明日、今度は万全の状態で戦いましょうね? 暴走王さん」



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