狂乱令嬢ニア・リストン

南野海風

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338.庭園で

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「――こっちだ」

 ジンキョウに導かれ、食堂へ向かう道を逸れ、壁のない外に面した渡り廊下に出た。

「生徒会専用の個室があるから、そっちだ。生徒会のほかにも、申請があったグループには昼食用の専用スペースが貸し出されるんだ」

 ああ、なるほど。
 貴族の子ばかりだから、個々で政治的な派閥の集会や、情報交換を行っているのだろう。専用の個室があるというのは嬉しい、というよりは上位貴族には必須なのかもしれない。

 特に、ジンキョウなどの皇族辺りは、念のために距離を置くという意味もあると思う。
 あまりに生徒たちと近いと毒殺だなんだと、政治的問題も簡単に起こってしまう。距離を取ることがお互いのためになることもあるだろう。

 ……あれ?

 でも、ジンキョウは普通に食堂で食べている姿を見たことあるな。
 何杯もおかわりしていてすごく目立っていた。大食い友達もいるようで、競い合うように一緒に麺を食っていた。

 …………

 まあ、ジンキョウが特殊なんだろう。皇族らしからぬという意味で。

 食堂への道を逸れて特殊教室が並ぶ方面へと進むと、擦れ違う生徒が極端に減った。……よかった。殴ってくれと寄ってくる生徒はさすがにいなくなった。

「――ジン」

 ひと気のない場所を行く途中、年上の女生徒が渡り廊下の外から声を掛けてきた。

「おう、メラン。武客を連れてきたぞ」

「ええ――生徒会副会長メラン・バオです。自己紹介は後程改めてしますので」

 副会長メランは私を見て一礼すると、こう続けた。

「今日は天気もいいし風も穏やかだから、こっちで昼食にすることになったの。庭園の方に用意してあるから」

「庭園か。そっちは久しぶりだな」

「ジンが来ないだけで生徒会ではちょくちょく使ってるけどね。会長が武客様に、鳳凰学舎の庭園の蓮を見てほしいんだって」

 蓮か。
 湖面に浮かぶ皿のような葉が特徴的な、仄かな桃色の花、でいいのかな。私は草花に興味がないので、それくらいしかわからんが。

「今、昇る季節だったか?」

「毎年それ言うわね」

「花は興味ねえからな。食えねえし」

「食べちゃダメってのも何度も言っている気がするけど。……ちょっと早いわね。あれは寒くなる直前だから」

 だから咲いてるだけ、と。
 私にはよくわからないやり取りをつつ、今度はメランの案内で庭に出た。




 校舎などの建物から大きく外れ、よく手入れがされた庭園に入る。

 色とりどりの草花が楽しませてくれるその先に、大きなテーブルに着く六名の生徒がいた。

「――ようこそ、武客ニア・リストン殿。急に呼び立てて申し訳ない」

 今朝、カイマとのケンカを止めに入った時に軽く紹介された生徒会長ランジュウが、椅子を立ってそう述べる。

 と、それに合わせて座っていた五人も立ち上がる。

「お招きいただきありがとうございます」

 私も無難に一礼する。

 そんな挨拶もそこそこに、副会長メランとゲストである私たちもテーブルに着いた。

「ウーハイトンのコース料理を用意してあるんだが、それで構わないか? もちろん好きなものを別途注文してくれてもいいが」

「お気遣いありがとうございます。せっかくなのでコース料理をお願いします」

 ランジュウが手を上げて合図をすると、学校で雇っている使用人が料理を運んでくる。

 植え込みや草木、木々のせいでここからじゃ見えないが、近くに料理をする場所があるようだ。
 まあ、人がいる気配は感知していたが。そうか、給仕だったか。

「改めて名乗ろう。私は鳳凰学舎高等部二年、ランジュウ・カザナだ。こちらが副会長のメランで――」

 と、そんな自己紹介から始まった昼食の席は、終始和やかに進行した。

 ――まあはっきり言うと、腫れ物には触れないどころか気づきもしないとばかりに、当たり障りのない会話しかしなかった、という感じである。

 武闘家ならストレートに来い、とも思うが、初対面ゆえの遠回しなやり方は貴族らしくもある。
 少なくとも、上品なコース料理なのにおかわりしまくったジンキョウよりは、よっぽど皇族らしいと思った。




 麺料理の多い食事が終わり、花を模した菓子で黒茶色のお茶を飲んでいると――ようやく本題らしき話を振られた。

「ニア殿。ちょっといいか?」

 名を呼ばれ、最近噂になっている機馬キバの話から移行しウィングロードの話をしていた生徒会庶務のオレスから、会長ランジュウに視線を向ける。

「今回呼んだのは、我々生徒会との面通しという理由があったのだが……もう一つ、早急に意思を確認したいことがあったのだ」

 やはり呼び出した本題があったか。このタイミングで切り出すのが正解だったかどうかはわからないが。
 オレスはすごく話の続きを聞きたそうにそわそわしているが――まあ、本題を邪魔はできないようでそわそわしながら口を噤んだ。

「君はすでに初等部六年生の学級長になっている。だから交流会をどうするか聞いておきたいのだ」

「交流会?」

「聞いていないか?」

 頷くと、ランジュウが手短に説明した。

「ここ上台に鳳凰学舎があるように、下台にも月光寮という学校があるのだ。……あとはわかるだろう?」

 代表。
 交流。
 なるほど。

 これほどまでに武に満ちている国で、同年代の代表を集めての交流会と言えば、答えは一つだ。
 もはややり合わない理由がないだろう。

 ただ、そうなると、だ。

「私は遠慮した方がいいでしょう」

 子供の交流会に大人が出るようなものだ。顰蹙以外の何物でもないじゃないか。



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