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135.道中考える
しおりを挟む「本当に世話になった」
見送りは、族長ハール、嫁リージ、薬師のリセンの三人だけだ。
昨晩、神の使いオロダ様と通訳トートンリートと大事な話をした翌日の早朝。
予定通り、鉄蜘蛛族の集落を発つところである。
ちなみに白蛇族の七人に加え、青猫族も同行することになっている。
どうせ行く場所は一緒だから――あと青猫族の青年との約束もあるから。
そもそも、やはり時期が悪かったようで、彼らもできるだけ早く集落に帰って春の食料集めと、来る戦の季節に備えたいのだとか。
同じ理由で、青猫族だけじゃなく、他の部族も今日か明日には帰るそうだ。
昨日の夜、祭りの後に挨拶だけはしたが、戦士たちの方がよっぽど親しくなっていたようなので、私は軽くで済ませた。
何せ戦士たちはもう全員が呑み友達のようだから。
「レイン、本当にありがとう。おかげで死者が出なかった。どれだけ礼を尽くしてもたりないくらいだ」
「役に立てたならよかったよ。私は白蛇族の族長アーレの代理で来たから、礼ならその内集落の方に頼む」
一応、もう貰うものは貰っているので、あとはハールの気持ち次第だ。
それと、がんばったのは私だけじゃないからな。ほかの部族たちだってわざわざ駆けつけてくれて命を張って戦い抜いたのだ。
だから、あまり私だけ名指しで……まあ若い族長というわけでもない彼なら、若輩の私よりよっぽど道理も通すべき筋もわかっているだろう。
「白蛇族が困った時は、必ず力になろう。約束だ」
そんな有難い言葉を受け、私たちは鉄蜘蛛族の集落を後にした。
一ヵ月くらい世話になった、幻想的な森を抜けた。
やってきた事情が事情だったので、あまりゆっくりはできなかったが、もし次の機会があったらぜひゆっくりしたいところだ。
光る百合、見たことのない虫、植物。
気になるものはたくさんあったが、それらに触れる機会は少なかった。
心残りは多少ある。
来た時同様に、荷車に乗せられて移動する。
そして荷台には私を含めた女性たちと、鉄蜘蛛族に貰った荷物がある。
一番の収穫は、キノコの苗床だろうか。
菌床栽培という製法で育てることができるそうだが、その中でも、暗くじめじめした場所に放置するだけで育つという、簡単な種類の物を譲ってもらってきた。
キノコの人シキララが厳選したらしいので、間違いはないだろう。
少なくとも彼女には需要があるはずだ。
不気味な小躍りで「キーノコっキノコっ! キノコー! キノッキノッキノッキノッ! ヒュー! キッキッキキキキッキッキッキキッキ!」と不可解な歌で喜びを表現していたので、ちょっと幻覚を見たり意識が飛んだり笑いが止まらなくなるような危険なキノコである可能性が……
まあ、たぶん大丈夫か。
鉄蜘蛛族も日常で食べているような物だから。
育て方も簡単で、基本的には日陰に置いて水を与えるだけでいいそうだ。
詳しくは、忙しかった私の代わりにケイラが学び、メモを取っているそうなので、彼女から教わろうと思う。
何にしろ、食料が増えるのは悪いことはあるまい。
――個人的な収穫としては、やはりオロダ様からいろんな話を聞けたことだろうか。
元からあった疑問であるカテナ様からの言葉も、あの方の言葉で解決したと思う。
――忌々しい。
――怒りを鎮めろ。
――まだ語るに値せず。
――邪魔。
――壁。
――我。
――言葉。
――遮る。
――届かない。
――怒り。
――沈めろ。
……と、こんなところか。
知らない内に受けていた空を飛ぶ蜥蜴の加護が邪魔をして、言葉を遮る壁になっていた。
だから届かない、と。
「忌々しい」も、恐らくはこの邪魔な加護のことだろう。
個人的にカテナ様に嫌われていると考えるよりは、よっぽど説得力があるだろう。
さすがに個人的に嫌われるようなことはしていない、はずだ。
そう、カテナ様に嫌われていないかどうか。
私の最も気になる焦点は、本当にそこだけだった。
それが解決したのは本当に大きい。
実は、どうせ帰りに寄って一泊する予定だったので、青猫族の神の使いにも相談しようと思っていたのだ。
初めてオロダ様に会い、言葉を掛けられた。
その時も「怒りを鎮めよ」と言われた。
そこで知ったのは、「ほかの神の使いにも私の謎は伝わっている」ということだ。
というか、カテナ様以外にも言われるのは、かなりの非常事態なんじゃないかと危機感を抱いてしまった。
強いて言わないといけないことなのか、と。
自覚のない私の問題は、よその神の使いまでわざわざ口出しするような話なのか、と。
それって神の使いが無視できないほど大変な問題なんじゃないか、と。
ダメで元々だ。
答えが得られずとも特にデメリットがないので、ならば答えが得られる可能性に掛けてみようと思ったのだ。
が、一応は解決したからな。
行きに寄った時はできなかったから、今度は挨拶をして行きたい。それくらいである。
……青猫族の神の使いは、猫なんだよなぁ。
可愛いよな、猫。
オロダ様はさすがにちょっと見た目が怖かったからアレだが、猫型の神の使いとなると、それはもう触りたくもなるというか。触らずにはいられないというか。
……撫でちゃダメかな? 怒られないかな?
がたがたと激しく揺れる荷車で、できるだけ揺れを意識しないで考えに没頭した。
あまり揺れを意識すると酔うから。
話をしようとすれば舌を噛むし。
それなりに考えはまとまっただろうか?
とりあえず、一番の問題に関しては、安心してよさそうだ。
――そんなこんなで、青猫族の集落に到着したのは、昼を過ぎた頃だった。
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