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11.平凡なる超えし者、次の行動を起こす……
しおりを挟むいってらっしゃいー。お土産よろー。
朝早くから出掛ける準備をし、貴族用女子寮から出て行く兄アクロ一行を見送る。三人が向かう先は学校の正門なので、あのまま城下町に出るつもりなのだろう。ぜひお土産を買ってきてくれー。美味しいものがいいぞー。
さて。
一応あの三人が動き出したら起きるように注意して夜を過ごしたが、これでなんの憂いもなくなった。
本格的な二度寝に入るとしよう。
どうせまだ朝も早いし、今動いてもすぐに生徒たちの活動時間となってしまって動きづらい。ならば登校時刻をずらすくらいはしとかないと。というわけでおやすみー。
次に起きたのは、昼くらいだった。
あーよく寝た。やっぱり二度寝っていいね。二度寝は文化だね。一日60時間くらいになればいいのに。そうしたら遠慮なく48時間ほど二度寝に費やせるのに。
よし。今日の活動を開始するか。
お兄ちゃんの探索は終了した。本アクロと兄アクロとメイドで一時帰宅したのは、朝見送った通りだ。あとどうでもいいけど本アクロって本マグロみたいな字面で結構好きだ。
早い段階で第一目標が達成できた以上、ここからは第二目標を満たす必要がある。
私に課せられた第二目標は、百花鼠の育成だ。
というか、目標ではなく、私にとっても絶対に必要な要素である。
まだレベル1である。
ある程度の強さがないと、お兄ちゃんの補助が満足にできない。
死因とアルカの因果関係も依然謎のままなので、もしかしたらアルカの終盤イベントにお兄ちゃんも関わっていく可能性も否定できない。
だとすると、私はボス戦の補助をすることも考慮しておくべきだろう。
要するに、ちょっと強くなっとかないと、補助どころか足を引っ張りかねないんだよね。
というか、こんな恵まれた素体を扱う以上、私単独でボス撃破くらいできるようになっとかないと面目躍如とはならんでしょ、って話だ。
最近よくあるラノベで言うなら「チート持ちのネズミになって異世界最強」みたいな、そういう状況にほぼ近いからね。
となると、私がやるべきことは、ただ一つ。
そうだ。
だらだらしながら本をあさり、ぐーたらしながら読みふけ、ほどほどにお菓子を食べたり寝落ちをしながら知識を蓄えることだ。
決して無理せず疲れたらすぐ休み、気晴らしに散歩したりお昼寝したりして、まあ、そんな感じで。
まずやるべきは、知ることだ。
この世界の世界観だの設定だのを見るに、制作スタッフの作り込みはだいぶ甘い。なので私たちが知っている従来の草木や植物が多分にありそうだが、それでもこの世界独自の草木だってたくさんあるだろう。
百花鼠は、植物を司る幻獣。
ならばどんな植物をも駆使してこその存在である。
つまり、この世界にどんな植物があるのかを知ることで、私が使用できる植物も増えるってわけだ。イメージできればきっと使えるからね。
ついでに百花鼠自身のこと、この世界における幻獣についても調べてみたいので、やはり次の行動は「情報収集」で正解だろう。
レベル上げは、その次かな。
どれぐらいの時間的猶予があるのかはっきりしないが、情報収集からある程度のレベル上げまで、1ヶ月くらいを予定しておこうかな。
――よし、三度寝したいけどぐっと我慢して、そろそろ行動開始するか。目指すは図書館だ。
しかし結局、予定は予定のままとなってしまった。
これ以上いけない。
……そうねー。冷静に考えると、まあ、そりゃ「いる」よねー。
図書館らしき建物はすぐに見つけた。ゲームで見た外観と同じだから、誰に聞くでもなく窓から覗くでもなくすぐにわかった。
だが、問題は別にあった。
「いる」のだ。
魔王が。
図書館に。
そうなんだよなぁ。
「純白のアルカ」の魔王って、図書館に常在しているような読書好きだったもんなぁ。そりゃいるわなぁ。
ゲームでは、図書館の本に封じられていた魔王ベルヴェルドは、復活した段階ではまだまだ力を取り戻してないって設定だったはずだ。
そのはずなのに、恐ろしい。
抑えている力の片鱗がほんの少しだけ漏れているのを感じるが……いやこれは本気でヤバいね。そりゃガステンさん瞬殺されるねってレベルでヤバい。私がこれまで遭遇してきた神格から有象無象に至るまでと比べても、五指に入るくらいヤバい。
これでまだ万全じゃないんでしょ? なんなら力の一部しかない、って状態なんでしょ? 全ての力を取り戻したら、確実に神の域に達するだろうね。
うーん……というか、「魔王という肩書きの神」だと思った方が、理解が早いかもな。
だってあんなの神様連中がほっとかないだろう。
生かしといたら、後々は神の敵か邪魔にしかなんないでしょ。厄災になることがわかっているなら対処に躊躇う理由もないでしょ。
だから、元から神と同じ領域にいる存在、って考えた方が自然な気がするわ。
いやー……これは、これ以上近づくのは避けた方が良さそうだ。
向こうはまだ私に気づいてないと思うけど、これ以上近づいたら察知されると思う。魔王の出方によっては捕獲されたり殺されたりされそうだ。
今の私じゃ太刀打ちできそうにない。
弓原結の力は使いたくないし、ここは避ける一択しかないな。
仕方ないので、他を当たることにしよう。
……と言っても、他なんて候補はないんだけど。
…………
ああ、そうか。別にシンプルに考えればよかったのか。
街の本屋を探してみよう。
魔法学校の敷地から飛び出し、城下町にやってきた。
よし、とりあえず店が並んでいる大通りから探してみよう。たぶんあるだろう。問題はこの姿じゃ店に潜り込むのが困難だって点だ。
でもまあそれは本屋を見つけてから考えればいいのだって見つかったよもう。すぐ見つかったわ。
……で、どうすりゃいいんだろうね。
人通りの多い大通りに、オープンな感じの古本屋だ。
通りの向かいの屋根の上から見える分でも、蔵書数はかなりのものだと思う。
入口にも本は溢れているし、店内もきっとびっしりだろう。
あの店の本棚には、確実に私が欲しい情報が眠っているはず。
しかし、無理か。
無理だなー。
さすがにネズミの身で潜り込むのは難しいだろうなー。
しかもアレだよね。
ネズミの姿で本を読むとか、傍目に絶対におかしいよね。物理的に立ち読みもできない身体だし、何よりお金も持ってない。なんなら服さえ着てないし。この世界に来てから真っ裸のままだわ。きゃっ。はずかしい。……うんまあ、どうでもいいか。裸ですけど何か?
人型に、は……なれるのか?
いや、まあ、なれるんだろうね。イメージできることはだいたいできると思う。ただ、まだ魔力が足りない気がする。レベルが足りないっていうか。
……あ、そうだ。なんとなくイメージができてきたぞ。
本ってのは、元は紙……原料は木だ。
だったら「変身能力」に巻き込むことができるかもしれない。大きいものは無理だと思うが、ハードカバーの本くらいなら。
本数冊を「種」に変えて屋根の上まで運べたら、解除すればいい。そうすれば本を確保できる。あとはだらだらしながら本を読めばいい。夜になればこっそり忍び込んで店内で読むのもいいだろう。
――試しにやってみたらできたので、しばらくは知識を、いや、「武器を増やす」ことに専念する。
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