11 / 102
10.平凡なる超えし者、とりあえず切り上げる……
しおりを挟む「――今日はこれくらいにしとくか」
え? 何? 終わり?
「――確かにいきなりすぎる。レンなんかは一緒に経験してきたことが多いから、無理なく徐々に受け入れられたと思うが、アクロディリアからしたら昨日今日からいきなりの新展開で、しかも知らない間に当事者だもんな。そりゃ戸惑いもするよな」
「――別に今更そんなこといいわよ! 早く話しなさいよ! 個人的に気になることも多いし、とっくに聞かずには済ませられない心境よ!」
「――話さないとは言ってないだろ。時間はあるからゆっくりやっていこうって言ってるんだ。どうせおまえが早めに知ったところで、俺がやってきたことがなかったことになるわけじゃないからな」
それが幸か不幸かは問題だと思いますけどねー。
「――つーかおまえ、これ以上新事実を詰め込んだら、たぶん泣くだろ」
「――な、泣かないわよ!」
いや、泣くと思う。
離れてるところから見ている私でも、本物アクロの目がうるうるして見えるし。見ようによってはもう半分泣いてるようなもんだし。カワイイ。
「――それより一つ提案がある。おまえ一回、実家に帰らないか?」
「――実家? なぜ?」
「――おまえの両親が心配してたからだ。さっきは端折ったが、夏の帰省で俺の正体はバレた」
「――はあ!?」
「――正確には、バレてた。俺が何をする間もなくな。つーかおまえが驚くようなことじゃないだろ? あのお父さ、いや、えー……ヘイヴンさん? あの人ヤバいくらいのキレ者だろ。あの人を騙すとか俺にはハードルが高すぎるから」
ヘイヴン? アクロディリアのお父さんの名前か?
ゲームには登場しなかったから、私にとっても目新しい情報だ。まあ私が関わるかどうかはわからないけど。
「――さっきおまえも言った通り、俺はおまえとはかけ離れた生活をしてたからな。その辺から裏も取られてたみたいだ。ただ、言い訳じゃないけど、裏を取られてなくても、直接会えばすぐに見抜かれてたと思う。あの人はすげえ。そして俺はあの人だけは絶対に怒らせたくない」
「――……わたくしの父親なんて、仕事を優先して家庭を顧みない、毎年約束しても子供の誕生日に家にいたことがないような、ただのダメなおじさんだけど?」
「――おま……バカ野郎! バッカ野郎が! あ、お父さんに対する認識ってそういう感じ!? 道理で記憶の中に大した情報も気持ちもないと思えば……おまえバカ! バ……おまえバカだろ!」
「――うるさいわね。何なのよ」
「――うるさいのはおまえだ! お父さんおまえのこと心配してたぞ! 領主の仕事もすげーがんばってたし、あんだけのデカい街を不備なく納めててすげーだろ! 並大抵の仕事じゃねーぞ! なんで俺がこんなこと知ってて実の娘が知らないんだよ!」
「――もういいわよお父様のことは。お金さえ渡しておけば家族のことなんてどうでもいいと思っているような人なんてどうでもいいわ」
ほほう。異世界でも親子ドラマがありますか。……貴族ならさほど珍しくもないか。
「――レン!」
しかし、何がお兄ちゃんをそこまで熱くさせるのか、冷め切った娘に対して義理の兄だか弟は完全に激オコ状態だ。
「――明日こいつ実家連れてって! どの道報告しなきゃいけないだろ、引きずってでも連れてってくれ!」
「――私があなたから離れるのはまずいでしょう。あなたを止める役目は必要ですから」
「――え? ……俺の信用がなかった……!?」
「――ないですよ。なぜそんな意外そうな顔を? だって勝手に行動して私の知らないところで死んだじゃないですか。あの件に関して、まだ何一つ許した覚えはありませんけど」
やっぱりお兄ちゃんは「死に戻り」したのか。
何気に確定事項はまだ語られてなかったんだよな。
死因というか、どんな事情があってそうなったかが気になるが……
「――しかし一度実家に帰るという提案には賛成です。確か二報告もありますから。だから『三人で』帰りましょう」
「――え……いや、俺、ちょっと、お父さんには会いたくないっつーか……借り物の身体で死んだし……」
「――だったら尚の事、元気な姿を見せに行かないといけませんね」
「――…………あ、いててっ、お腹痛いっ、これちょっとお出かけとか無理っぽいっ」
「――大丈夫ですよ。私が担いでいきますから。なんなら意識がない状態でも構いませんが? 寝ている間にお連れしましょうか?」
「――…………」
お兄ちゃんが冷や汗だらだら流しながら沈黙してしまった。そんなに怖いのか。えっと、ヘイヴンさん。
「――あんな顔が悪党ヅラなだけの中年の何が怖いのよ」
娘は平気みたいだけど。
話が終わったようなので、窓から離れて貴族女子寮の屋上へ登ってきた。
ふう……長い立ち聞きになってしまった。疲れてはいないが気疲れがすごい。
私にとっても新事実ばかりだったから、ちゃんと咀嚼しとかないと。
とりあえずお兄ちゃんは見つけた。
ここまでの流れもだいたいわかった。
お兄ちゃんが悪役令嬢になってやってきたことも、表面さらっと撫でた程度には理解した。
そして一番の収穫は、お兄ちゃんがこの世界に戻りたかった理由がはっきりしたことだ。
――お兄ちゃんは、アクロディリアが没落するのを、回避するために来たんだね。
話をしている姿を見て、すぐにわかった。
すごく簡単に言えば、好きになっちゃったんだろう。
気に入ったんだろう。
アクロディリアも、その周囲にいる人も、もしかしたらこの世界も。
だから、卒業間近に起こるだろうバッドエンドを防ぐために、戻ったんだ。
まあ、私はなんでもいいけど。
元からお兄ちゃんの補助をするためについて来たんだし、手が足りないようなら手を貸すだけだし。本物アクロが可愛くて仕方ないし。レンには添い寝してほしいし。惜しみない協力をする気しかないし。
さっきの会話の通り、お兄ちゃんたちはアクロディリアの実家に帰るらしいから、私も時間ができたってことでいいのかな?
実家まで付いて行くのも一つの手だが、生憎他にも気になることはある。
まず、アルカのシナリオだ。
あいつが誰と激しい恋愛をしているのかは、すごく気になる。それによっては私の立ち回りも変わってきそうだから。
それに、因果関係も気になる。
ゲームでは、アクロディリアは死ぬキャラではない。
死ぬシナリオがあるのはアルカだけ、それも魔王ルートかハーレムルートのみに限られる。
ならば、果たして兄の死とアルカは、関係があるのか?
ありそうな気がするんだよな。
だってお兄ちゃん、「死に戻り」した直後だと思しき頃、向こうの世界でいきなり魔王ルートのこと気にし出してたからなぁ。あんだけ露骨なら無関係ってことはない気がするよ。
それに、「戻れた」のであれば、誰かが「アクロディリアの肉体を生き返らせた」のは間違いない。神はよっぽどのことがなければ死者蘇生なんてしないから除外していいだろう。
ゲームでは、その秘術を使うのは魔王だった。
たぶん今回もそうだろう。
だとすれば、やはり因果関係が見えてきそうな気はするが……
…………
でもまあ、今日の本気は売り切れだ。
もう今日はちょっと疲れちゃったし、続きは明日にするか。
……方針も見えてきたし、私もやることはやっとかないとまずいよね。
12
あなたにおすすめの小説
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
親友面した女の巻き添えで死に、転生先は親友?が希望した乙女ゲーム世界!?転生してまでヒロイン(お前)の親友なんかやってられるかっ!!
音無砂月
ファンタジー
親友面してくる金持ちの令嬢マヤに巻き込まれて死んだミキ
生まれ変わった世界はマヤがはまっていた乙女ゲーム『王女アイルはヤンデレ男に溺愛される』の世界
ミキはそこで親友である王女の親友ポジション、レイファ・ミラノ公爵令嬢に転生
一緒に死んだマヤは王女アイルに転生
「また一緒だねミキちゃん♡」
ふざけるなーと絶叫したいミキだけど立ちはだかる身分の差
アイルに転生したマヤに振り回せながら自分の幸せを掴む為にレイファ。極力、乙女ゲームに関わりたくないが、なぜか攻略対象者たちはヒロインであるアイルではなくレイファに好意を寄せてくる。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
俺に王太子の側近なんて無理です!
クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。
そう、ここは剣と魔法の世界!
友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。
ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる