私がネズミになって世界の行方を見守ってみた

南野海風

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80.平凡なる超えし者、魔王城跡地へ行く……

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 正直、話を聞いた瞬間から受けようとは思っていた。

 ただ単純に面白そうだと思ったのと、魔王城があった場所と、それが千年以上の時を経てどのような状態になっているのか。
 ぶっちゃけると、全てが気になった。興味を抱いた。

 特に魔王城があった土地ってのが気になる。
 元の立地条件はなんだったのか。
 川が近くにあるとか土地が肥えているとか、すげー普通の理由だったんだろうか。

 その後も気になる。
 きっと魔王城から漏れ出す瘴気だの魔力だのの影響を受け、周辺の生態系はかなり歪んでしまっているだろう。
 もちろん植物もだ。
 というか動物と違って、逃げることもできずただ影響を受け続けるしかなかった植物こそ、どうなっているか気になる。

 百花鼠の力が及ぶか及ばないかも気になるしね。もし通用しないようなら、決して近づいてはいけない地として憶えておけばいい。

 そんな諸々をパッと思いつけるくらい、興味がある話だった。

 だが、こういうのは普通に頷くのはよろしくない。

 今後こういうことを頼まれない程度には渋って見せて、結果的に「仕方ない付き合おう」と結論を出した体で返答するのが好ましい。

 魔王や第五魔将軍辺りには、確実に本心が見抜かれそうだが、執事くんなら大丈夫だろう。

「それで、付き合ったら何してくれるの?」

 良くぞ聞いたとばかりに、執事くんは傲慢さを隠し切れない笑みを浮かべた。

「喜びなさい」

 あ、はい。なんでしょ。

「あなたを第五魔将軍ヘーヴァル様の直属の部下にしてさしあげましょう!」

 ……ガステンにも似たようなこと言われたわ。あんまり言うと魔王軍の人手不足がバレるぞ。

「もちろん僕が第一、あなたが第二。そして僕の部下でもありますがね! 品性の怪しい獣でも僕の下に付けるだなんて、なんて幸運なんだ! さあ僕の足にすがりつくのです!」

「あ、もういいっす。いいっすわ」

 段々盛り上がってきてるところ悪いけど、最初の一方的な条件より更に悪いのを上乗せしてくるなんて思わなかったわ。
 これじゃ普通に魔王とか魔将軍の命令とか言われた方がまだマシだよ。

「あのさ、もうちょい私の心が動くような報酬を用意してくれないかな?」

「だから僕の部下にと」

「ごめんね。私は誰かの傍にはいるかもしれないけど、誰かの下にはいたくないんだよ」

「まさか……西の空を食らい尽くした竜童も、死貴の森を統べた青き魔女も、数多の夜を支配した月禍美神さえ、我らの王の下に付きたいと請いに来たのに、臆病な幻獣ごときが断るなんて……」

 ああうんごめん。千年以上前の有名人並べられても一人もわかんないわ。

「戦乱時代なら、強い人の庇護下にありたいって気持ちもあったかもしれないけどね。今はこの通り、平和な国もあるから」

 ちょいちょい言われているから、百花鼠は臆病な習性なのは間違いないんだろう。
 ただ、臆病だから弱いと思われているなら、それもまた間違っているけどね。このネズミは相当強いぞ。

「それに今は、魔王自身も特に戦おうとは思ってないでしょ? 部下になったって何をすればいいのかって感じじゃない」

「む……むう……」

「そもそも魔王自身は、軍が欲しいとか思ってるの? とてもそうは見えなかったんだけど」

「……やはりそうなのでしょうか……」

 聞けば、執事くんと第五魔将軍は封印される瞬間まで戦争の真っ只中にいたので、いざ封印が解かれた今は、当時の意識と曖昧な封印されていた頃の記憶と、そして今の意識に繋がっているそうだ。
 ちょっと長い眠りから覚めたようなもので、ついこの前まで戦争していたのに、急に平和平和と言われてもあまりピンと来ない、みたいな状態にあるそうだ。

 一刻も早く軍備や兵隊を揃えて、城を構えて、指揮官を育てて……という「今攻められたらまずい」という意識が強いらしく、封印ではなく転生しているガステンやリアジェイルと認識が思いっきりズレているんだそうだ。

 まあ簡単に言うと、浦島状態ってやつだ。
 竜宮城から帰ってきたら時が過ぎていて知っている人がいなかった、みたいな。まあ知っている人がいただけまだマシだとは思うけど。

「もっとほかになんかないのかよ。呆れるほど気が乗らないんだけど」

「ぶ、無礼な! 最初から破格の条件を出しているのに!」

 はいはい千年以上前はさぞ破格だったんでしょうね。知らんわ。

 つか私だって困ってるんだぞ。
 最初から乗り気だった話なのに、どんどん乗り気を削ぎ落としていくもんだから。いくもんだからっ。やる気と乗り気がどんどん痩せ細って行ったわっ。

「……仕方ありません。あなたのような野蛮な獣は、金銀財宝というわかりやすい物品を好むのでしょう? かつて魔王城で保管していた品々の中から幾つか見繕いましょう」

 ほう。

「そんなこと勝手に約束していいの? 魔王の物なんでしょ?」

 そして執事くんは結構下っ端なんでしょ? そもそもを言えば第五魔将軍の使用人なんでしょ?

「厳密に言うと、魔王城はもうありませんので。だから明確に魔王の物とは、今は言えない状態にあるのです」

 ああ、この話の根本に戻るわけか。

「私に頼みたいことって、魔王城の跡地の整地って言ってたよね?」

「その話は承諾を得てからするべきでしょう」

 うん、それは同感。だからこれまで内容については聞かなかった。

「それで? 願いを聞き入れていただけるのですか?」

「そうだねぇ……全部よこせとは言わないけど、宝の中から私に選ばせてくれるなら、その条件でいいかな」

 これ以上交渉しても、これ以上の条件が出そうにないしね。執事くんの独断で出せる報酬としてはギリギリなんじゃないかと思う。

 ――こうして、魔王城跡地の整地という仕事を請け負ったのだった。




 詳細は現地で聞くとして、簡単な情報だけ入れておく。
 何日か空ける可能性も考え、とりあえず今日一日で中途半端な諸々を片付け、明日出発することにした。クローナにも一言断っておきたいし。嫌がるだろうけど。

 そして翌日。

 朝も早くから、私はクローナの部屋に「しばらく帰らないかも」と意味する置き土産を残すと、図書館へ向かう。
 彼女にはちゃんと言ってあるけど、結局嫌だ嫌だ言っていたから念を押すためにだ。……子供かよ。私より年上のはずなのに。

 茶番なのはわかっているが、形式というのは大事なのだ。

 私が来ることがわかっていた執事くんと、図書館の入り口付近で合流し――

「どうした」

 初めて会ったあの時と同じく、カウンターの椅子に座り本を読んでいる魔王が、私に気づいて本を閉じた。すまんね、読書の邪魔をして。

「彼から聞いたんだけど、魔王城の跡地の整地に手がいるんだって? ぜひ手伝いたいんだけど混ざっていいかな?」

 依頼人の要望通り、あくまでも私から提案しているという形で進言する。でもたぶん一瞬でバレると思うよ。荒事は当然として、交渉事も相当強そうだし。

「……」

 魔王はチラッと、脇に控えて顔を伏せている執事くんを見た。ほら見ろー。君の浅い入れ知恵なんて一瞬でバレたみたいだぞー。

「いいのか?」

 ほらー。真意がバレた上での発言までしてるぞー。

「私が手伝いたいんだから、いいも悪いもないでしょ。まあ個人的な興味も大いにあるから、本当に気にしないで」

「そうか。助かる。前と同じ理由で、貴様のような者にしか頼めない仕事だった。ヘーヴァルだけでは大変だろうしな」

 ああ、瘴気関係の常人だと近づくだけで死ぬやつね。そりゃ気軽に誰にでも頼めるものじゃないよね。

「今すぐ行けるか?」

 私が頷くと、魔王は立ち上がった。

「ではこれより私の大陸へ送る。帰りはヘーヴァルに送ってもらうがいい」




 ――大変革まで、あと10日。




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