これだから三次元なんて!

星咲ユキノ

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お墓参り

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「え?菜穂ちゃん、熱が出ちゃったの?」
『うん。微熱なんだけど、鼻水も出てるから病院に連れていかないと。悪いけど今日は日浦君と二人で行ってくれる?私は別の日に行くから』
「わかった。…ううん。大丈夫だよ、理恵ちゃん。気にしないで。菜穂ちゃん、お大事にね」

今日は6回目の麦野の命日。

理恵子と日浦と舞の3人でお墓参りに行く予定だったのだが、理恵子の2歳になる娘の菜穂が熱を出したらしい。
理恵子の夫は、多忙なゲームプロデューサーで家にはあまり帰って来ないらしく、必然的に理恵子はワンオペ育児になっている。
毎年この日だけはどうにかして一緒に行ってくれたのだが、小さな子供がいると予定通りにいかないのは仕方がない。

(日浦君にも伝えないと)

麦野のお墓のある霊園は、麦野の実家近くにあって、舞の住んでいる場所からは車で一時間ほどかかる。
舞は免許を持ってはいるが車は持っていない、いわゆるペーパードライバーというやつだ。
霊園は電車では行きづらい場所にあるので、いつもは理恵子に乗せてもらうのだが、今回は日浦の車で行くことになっていた。

(…あれ?ってことは、日浦君と二人きり?)

今まで二人きりになっても何とも思わなかったが、この前、日浦の家に行きたいと言って断られて以来、何だかずっとモヤモヤしている。

理恵子が来ないことをメッセージで伝えると、すぐに返信がきた。
どうやらもう舞の家の前に着いたらしい。

急いで支度をして玄関を出る。
木造アパートの二階から階段で降りていくと、近くにスカイブルーの普通車が停まっているのが見えた。
スポーツカーでも高級外車でもないが、CMでよく見る機能性の高い人気の車。日浦の車だ。

「おはよう、舞ちゃん。助手席にどうぞ」

わざわざ運転席から降りて、助手席のドアを開けるあたり、女慣れしていて怖い。
黒のスキニージーンズ、半そで白シャツの上に大きめのベージュのニットベストを着たシンプルな服装なのに、ファッション誌の撮影を抜け出して来たのかと思うくらい似合っているのが、少し腹立たしい。

対して舞は、履き古したジーパンによれよれの紺色のTシャツを着て、髪はお団子にまとめただけ。
一緒に並ぶのはなんだか恥ずかしい。
戻って着替えてこようかとも思ったが、時間もないし、友人とお墓参りするだけなのにお洒落をするのも変だと考えて、そのまま助手席に乗った。

ぎこちなくシートベルトを締めながら車内を見回す。
ルームミラーの横に取り付けられた最新式のドライブレコーダー。ダッシュボードに置かれた青い香水瓶のような芳香剤。席に敷かれた黒いシートクッション。
余計な物がない、大人っぽい車内だ。

気まずいと思ったのは最初だけで、アニメやゲームの話をきっかけに、いつも通り話せるようになった。
なんだかんだ、9年も友人として一緒にいるので、お互いの好きなものはわかっているし、一緒にいて楽しい。

世間話をしながらドライブしていくと、途中で飲み物を買うためにコンビニに寄ることになった。
舞はお茶のペットボトルを持参していたので、日浦だけ降りてコンビニに行くのを助手席で待っていると、近くの若い女性二人組がこちらをじっと見ていた。
目立つ車だからだろうと思ったが、開けた窓から二人の会話が聞こえてくる。

「ね。さっきの人、超かっこいいよね!隣の人って彼女かなぁ?」
「違うんじゃない?どうみてもデートの服には見えないし」

思わず、車内のミラーを見ると、地味な顔、地味な服の自分が目に入る。
何も考えずに助手席に座ってしまったが、いわゆる「彼女席」に自分が居るのは変な気がしてきた。
さっきまでの楽しい気分から一転、谷底に突き落とされたような気分になった時、日浦がコンビニから戻ってくる。

「お待たせ。舞ちゃん。行こうか?」
「あ…うん」

そのまま何事もなかったように、車はまた走り出す。
目的地まであと30分。
助手席にいると視線が気になるような気がしたので、信号待ちで車が停車したタイミングで、舞は切り出した。

「あ、あの、日浦君。やっぱり私、後ろに座っていい?」
「えっ?何で?」
「何でって…恋人でもない私がここに座るのは日浦君の彼女に悪いし、今なら降りられるから…」

言いながらシートベルトをはずそうとした時、日浦は慌てたように言った。

「ちょっ、ちょっと待って!俺、彼女なんかいないし、危ないからそのまま座って…」

そう言って日浦が舞を席に戻そうと、片手を出した時だった。

ふにっ

「っ!!??」

日浦の左手が舞の左胸を掴むように触れてしまい、彼の顔が一気に赤くなる。

「ごめん!ち、違うんだ!わざとじゃないから!!」
「だ、大丈夫。私こそごめんね。運転中に」
「っ、とにかく、お願いだからそのまま乗ってて」
「…わかった」

ブラと服ごしとはいえ、初めて男性に胸を触られて心臓がドキドキと騒ぐ。

(びっくりした)

舞が大人しく席に座り直したのを確認して、日浦は青信号になった車を発進させた。
ゲームでもして気持ちを落ち着けようかと、バッグからスマホを取り出した時に、充電の残りが少ないことに気づく。

「あ、もしかしてスマホの充電が少ない?」

どうしようかとスマホを持ったまま固まる舞に、察したらしい日浦が言った。

「…うん。昨日、充電するのを忘れちゃって」
「充電ケーブルならグローブボックスの中にあるから使っていいよ」
「え?」
「そこ。目の前のやつ、開けてみて」

(ここ、グローブボックスっていうんだ)

助手席の前。ダッシュボードについている小物入れをぱかっと開けると、中にケーブルが見えた。

「勝手に使ってね」
「…ありがとう」

何か連絡があるかもしれないし、ここはお言葉に甘えて使わせてもらおう。
ケーブルとスマホを繋いでフタを閉めようとした時、奥で何かがキラッと光った気がした。

(ん?なんだろう、これ)

思わず手に取ると、紫色の小さな石がついたシルバーのピンキーリングが出てきた。
それには見覚えがあった。

それは、生前の麦野と一緒に買い物に行った時だった。
『見て、舞ちゃん!最近の子供用の指輪ってこんなにお洒落なんだね!』
『先輩。それはピンキーリングっていって、小指にはめる大人用の指輪です。あ。誕生石がついたのがありますよ』
『お!いいねぇ!せっかくだからおそろいで買おうよ!うちら同じ誕生月だし』
そんな会話をして、2月の誕生石のアメジストがついたおそろいのピンキーリングを買ったのだ。

舞のリングは、なくさないように自宅のアクセサリーボックスに仕舞ってある。
ということは、これは…。

(これ、先輩のだよね?…なんで日浦君が持ってるの?)

「お墓に供える花、買っていくよね?この先の花屋でいい?」
「あ、うん」

正面を見ながら運転中の日浦に声を掛けられ、慌ててリングを戻してフタを閉める。

(もしかして日浦君って、先輩の事…)

生じた疑念に内心動揺しながら、舞は花屋の駐車場に駐車する日浦の横顔をじっと見つめた。
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