これだから三次元なんて!

星咲ユキノ

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思わぬ再会

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漫画のようなハプニングだらけのお墓参りから、1週間が経った。

『来月の10日の夜。空けておいて。…大事な話があるから』

日浦の言う『来月の10日』が、彼の誕生日だと気づいてしまってから、心がザワザワしている。
自分の誕生日に異性を食事に誘う意味と、大事な話とは何だろうか。

(まさか告白?…いや、それは絶対にない。…だって…)

『勘違いしないでよ!滉大はただ、あんたみたいなボッチが可哀そうなだけなんだから!ね、滉大!』
『…うん。そうだね…』

思い出すのは高校時代に彼とその彼女に言われた言葉。
一時期、日浦とよく話していた時期があったのだが、それが原因で当時の彼女に誤解されて嫌がらせを受け、その時に言われた言葉だ。
読者モデルもやっていた茶髪の美人の彼女だったが、卒業してすぐに別れたと日浦から聞いた。
女の嫉妬が絡まなければ、日浦は話しやすい男なので、そのままズルズルと友人関係を続けていたが。

(もしかして、サークルを辞めたいとか?仕事忙しそうだし。…でも、わざわざ誕生日に言う?あー、もうわかんない!)

考えても答えは出ないので、こういう時は仕事に没頭するに限る。

「舞さん、何かありました?」

手元のカルテを見ながら薬剤名を入力し、処方箋を発行していると、後輩受付の唯奈が唐突に言った。
いつも通りにしていたつもりだが、モヤモヤした気持ちが滲み出ていたのだろうか。

「…何もないよ」
「嘘ですね。私にはわかるんですよ。いつもより色気が3%増してますもん」

(どんな状態だ、それは)

「何もないって。…あ。宮下さん来た。カルテ番号3390番。出しておくね」
「ごまかさないで下さいよ。ってか、相変わらずすごいですね、その特技」

多くの病院がPC上でデータのやり取りをする電子カルテを起用している中、舞の職場は未だに紙のカルテを使用している。
受付で患者が出した診察券の番号を確認し、番号順に並んでいる棚から同じ番号のカルテを取り出し、症状を確認してからカルテを看護師に渡し、最終的に医者の元に届くようにする、というのが一連の受付の流れだ。
そして8年もそんなことを繰り返していると、毎月通院している20人くらいの患者なら、顔を見れば診察券番号がわかるようになった。
患者が自動ドアを開けて下駄箱で靴をスリッパに履き替えている間に、カルテを手元に用意できるのは、ちょっとした特技だ。

「宮下さんの場合は簡単だよ。3390(ササクレ)って覚えればいいの」
「…いつもより饒舌なのも、変ですね。男がらみですか?まさか彼氏でも出来ました?」
「っ」

終わった話を蒸し返されて、言葉に詰まる。
「男」という単語で、日浦の顔を思い浮かべてしまう自分が嫌だ。

「…できるわけないでしょ。二次元しか興味ないし」
「その辺の話も含めて、今日は飲みに行きませんか?明日休みですし!矢野ちゃんも一緒に!」

『矢野ちゃん』とは、舞の職場の病院から徒歩1分の距離にある併設薬局で働いている、薬剤師の女性のことだ。
黒髪ショートで笑顔が可愛い社交性のある人で、唯奈と同じ年ということもあり彼女と一番仲がいいが、舞とも仲良しだ。

「いいよ」
「よかったぁ。楽しみですね!」

この時軽い気持ちで了承したことを、舞は数時間後に後悔することになる。

***

「ちょっと、唯奈ちゃん!3人で飲むんじゃないの?」
「え?私、そんなこと言いましたっけ?」

終業後、私服に着替えて3人で向かったのは職場近くのいつもの居酒屋…ではなく、電車で30分くらいの距離の場所にある、雰囲気のいい居酒屋。
この時点でおかしいと気づくべきだったのだが、唯奈の「たまには別の場所がいいと思って」という言葉に、なんの疑問も抱かずについてきたのが間違いだった。

予約したという個室に向かうと、6人席の片方にはすでに男性が座っているのが見えて、舞はピンときた。

(これってもしかして、合コン?)

そして、尋問するために唯奈だけをトイレに連れ出して、今に至るというわけだ。

「私、合コンは嫌だって言ったよね?」
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。これには深い訳があるんです」
「訳?」
「男性席に、七瀬さんが居たのは見えました?うちの病院によく来る、N製薬のMR(製薬会社営業)の」
「…ああ。そういえば居たかも」
「あの人に頼まれたんですよ。矢野ちゃんと飲む機会を作ってほしいって。あの人、矢野ちゃんが好きらしいですよ」
「え?そうなの?」
「ちなみに、他の二人は、七瀬さんの大学時代の友達と先輩だそうです。なので、合コンとか深く考えずに、七瀬さんと矢野ちゃんをくっつける機会だと思って、ちょっとの時間我慢してもらえませんか?」
「んー。それなら」

席に戻ると、既に七瀬と矢野は楽しそうに会話をしていた。
そういえば、矢野の好みは七瀬のような体格のいいスポーツマン系だと思い出す。
この分なら放っておいてもくっつきそうだ、とホッとして食事に手を伸ばすと、向かい側に座る男性に声をかけられた。

「違ってたらごめん。もしかしてO高校の演劇部だった米田さん?」
「え?」

聞こえた母校の名前に、顔を上げて目の前の人物をじっと見る。

長めの前髪に、後ろ部分は短く切りそろえた髪型。
白Tシャツの上に紺色のサマージャケットを羽織り、ジーパンを履いた服装。
少しチャラい印象のその人に、見覚えはない。

「俺だよ!高校2年の時に同じクラスだった楠野くすの洋一郎よういちろう!」
「あ、え?楠野君?」

確かに、高校2年の時に「楠野」という男子生徒はいて、記憶の中の人物と目の前の人物は面影がある。
だが舞が覚えているのは、黒髪眼鏡で大人しく、自分と似たタイプのオタク男子だ。印象が大分違うのですぐにはわからなかった。

「全然気づかなかった。…楠野君もMRなの?」
「ううん。俺はR食品の営業。七瀬は大学の後輩なんだ」
「へぇ。そうなんだ」

世間は狭いな。こんなところで高校の同級生に会うなんて。
食事をしながら、お互いの仕事や高校時代の同級生の話などをしていると、彼が思い出したように言った。

「そういえば、日浦って覚えてる?『入れ食い』とか呼ばれてた派手なやつ」
「っ、げほっ!ごほっ!」

思いがけず出た日浦の名前に動揺して、思わず飲んでいたウーロン茶をむせてしまった。

「大丈夫?」
「だ、大丈夫。変なとこ入っちゃって。…あー、そういえばいたね、そんな人。私はあまり関わったことがないけど。…日浦君がどうかした?」

今も関わっていることを何故か言いたくなくて、嘘をついた。

「この前、ショッピングモールの喫茶店で見かけたんだよね。髪の色は変わってたけど、目立つからすぐにわかったよ。デート中だったみたいだけど、彼女の方、どっかで見たことあるんだよなぁ。…あ、食事を撮ったらたまたま写ってたんだ。見る?」

(デート?彼女はいないって言ってなかった?)

混乱しながらも楠野のスマホを見ると、そこに映っていたのは、ソファ席にピッタリと寄り添うように座る日浦と黒髪の美人。
そして、相手の女性を、舞はよく知っていた。
髪の色が違っても、メイクの仕方が違っても、同じ女だからすぐにわかる。

「っ…橘さん…」

たちばな莉愛りあ
思い出したくもない、日浦の元カノであり、高校時代に自分勝手な理由で舞に嫌がらせをしていた人物だ。

「あ、そっか!橘さんだ!雰囲気違うから気づかなかった。あの2人未だに付き合ってたんだ」

(別れたって言ったくせに。…嘘つき)

楠野の声を遠くに聞きながら、ぐちゃぐちゃの感情を抑えるように、舞はぐっと唇を噛んだ。
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