これだから三次元なんて!

星咲ユキノ

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初デート

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無事にお墓参りを終え、予定通りの時間にショッピングモールに着く。
最近出来たばかりの大型ショッピングモールは、土曜日ということもあって混んでいたけれど、日浦が事前に調べてくれたらしく、駐車場やモール内の移動はスムーズにすることが出来た。

昼食は日浦が見つけた出汁巻き玉子専門店でとったのだが、メニューの多さと好みの味に思わずはしゃいでしまった舞を、嬉しそうに見つめる彼の視線がちょっと恥ずかしかった。

それから本屋で新刊のチェックをしているうちに時間が近づいたので、映画館のあるフロアに向かう。

隣の席に座るのはあのお墓参りの車内以来だけど、その時とは違って恋人同士になった今は、すぐ近くに感じる彼の香りや熱が気になって、あまり映画に集中できなかった気がする。
それでも楠野と飲んだ時のように、会話の不快感は全くなく、終始楽しい時間を過ごすことが出来た。

***

それは、映画を見終わってカフェでひと休みしている時だった。

「あれ?もしかして、滉大?」

テーブルを挟んで向かい合って日浦と話をしていた舞は、聞こえた声に思わず顔を上げた。
そこに立っていたのは、短い茶髪をツーブロックのソフトモヒカンにした、あごひげのある長身の男性。
迷彩柄のパーカーを羽織り、両耳に黒いピアスをつけていて、一人ならば絶対に関わりたくないタイプだが、日浦は普通に笑顔で話している。

「弘斗。偶然だな」
「なんだよ、眼鏡かけてるから一瞬わからなかったじゃん!なに?デート中?」
「まぁね」

日浦の友人だろうか。相変わらず交友関係が広いんだなと思った時、男の視線がこちらを向く。

(あれ?この人、どこかで見たような…)

「滉大の彼女さん?初めまして、滉大の高校からの大親友の中原弘斗です。よろしくね」
「勝手に挨拶するなよ。誰が大親友だ」

(中原って…。中原君!?)

中原なかはら弘斗ひろとは高校の同級生で、日浦と仲が良かった男だ。
勿論、舞とも同級生でクラスメイトだった時期もあるのだが、陰キャと陽キャでグループが違ったので、あまり話したことはない。
確か、日浦と同じバスケ部だった気がする。

(よく見れば確かに面影がある。ひげとファッションのインパクトが強くて気づかなかった。ってか、中原君、初めましてって言ったよね?私が同級生だって気づいてないみたい。どうしよう。初対面のふりをしようかな)

存在感の薄い自分が覚えられていない事には慣れているので怒りは感じないが、自分のような陰キャオタクと付き合ってることが同級生に知られたら、日浦が困るのではないかと思った。
ニコニコとこちらを見る中原に、どう返したらいいか悩んでると、日浦が口を開く。

「弘斗。初めましてじゃないから。高校の同級生だよ。演劇部の部長だった米田舞ちゃん。俺達、今、付き合ってるんだ」

(え?そんなに簡単にバラしちゃっていいの?)

日浦の発言にぎょっとしていると、中原はじっと舞を見たあと、嬉しそうに声をあげた。

「ああ、あの演劇部の子か!覚えてるよ!滉大がずっと好きだった子だろ?…え、付き合い始めたの?何だよ!言えよ、よかったじゃん!」
「え?」

(なに、この反応)

テンションの高さについていけずにポカンと口を開けた舞に、中原は申し訳無さそうに口を開いた。

「今更だけど、あの時はごめんな。莉愛に嫌がらせされてるって気付いてたのに、俺が余計な口出しすると悪化しそうだったから、助けられなくて…」
「い、いえ…」
「でも、あの人は俺の前だといい子ぶるから、弘斗が教えてくれなかったらずっと気付かなかったよ。ありがとう」

どうやら舞が莉愛に嫌がらせをされていたことを日浦に伝えたのは、中原だったらしい。

「しっかし米田さん、雰囲気変わったな。可愛くなってる」
「…はぁ、どうも」

慣れない社交辞令に戸惑っていると、隣にいた日浦が中原を睨みつけた。

「弘斗。舞ちゃんは俺の彼女だから、口説くのはやめてくれる?」
「口説いてねぇよ!俺は嫁さんに一途だっての!あ、米田さん。去年に産まれた俺の天使(娘)の写真を見る?嫁さんに似て、超可愛いの!」
「…あ、うん」

(この見た目で子煩悩とか、ギャップが凄いな…。悪い人じゃないみたいだけど)

なんて思いながら、中原のスマホの写真を見ていた時、その後ろから声がした。

「は?マジで滉大と付き合い始めたの?」

怒りを含んだような女性の声に思わず見ると、鋭い視線で睨み付けてくる人物と目が合った。
お尻まですっぽり隠れる大きめの茶色Vネックセーターに、履いてないのではと一瞬勘違いしてしまうほど短い黒のショートパンツで、足の長さを強調している。
相変わらず露出度の高い服を着ているのは、日浦の元カノの莉愛だ。

(橘さん!何でここに?)

舞の心の疑問に答えるように、中原が日浦に説明する。

「地元友達6人で、ここの中華バイキングに来てたんだよ。莉愛、他の奴らとゲーセンに行ったんじゃなかったの?」
「つまんなかったから、弘斗にコーヒーでも奢ってもらおうと思って来たの。そしたら滉大がいるんだもん。びっくりしちゃった。…ねぇ、滉大。今からでもいいから一緒に遊ばない?私たちと一緒の方が楽しいよ?」

(何言ってんの?この人!?)

どう見てもデート中の彼女の前で言うセリフではない。
しかも日浦の腕に甘えるように絡みつき、まるで舞が見えていないかのようだ。

(こういうの、高校の時にもやられたな。私と日浦君が話してたら、橘さんが割り込んできて連れてっちゃうやつ。…どうしよう。日浦君がまた、橘さんを選んだら…)

日浦は優しいから、デート中でも友人に誘われたら無下には出来ないのではないか。
そんな不安が頭を過ったが、日浦は莉愛の手を振り払った。

「勝手に触らないでくれる?見てわからない?デート中なんだけど」
「え、滉大?」

冷たい拒絶に莉愛が動揺したが、彼はそれを無視して舞に笑顔を向ける。

「舞ちゃん、飲み終わった?そろそろお店を出よっか。…あ。お昼を食べたところで卵サンドのテイクアウトを買っていかない?あそこのだし巻き卵、パンで食べても美味しいんだって」

まるでいないように扱われて莉愛は、一瞬なにが起きたのかわからずにポカンとしたあと、ハッとして慌てて彼に声をかけた。

「っ、ちょっと、滉大!私、この間の返事に納得してないからね!やっぱり滉大以上に相性がいい人なんていないんだから…」

ガタッ!!

莉愛の言葉が止まったのは、日浦が席から立ち上がり、殺気にも似た空気で彼女を睨んだからだ。

「いい加減にしてくれる?これ以上、俺の幸せな時間を邪魔されるのは不愉快なんだけど。この前も言ったけど、俺はもう君と必要以上に関わるつもりはないから黙ってくれる?」
「っ」

その空気に怖気づく莉愛を一瞥してから、日浦はすっと表情を笑顔に戻して今度は中原を見た。

「弘斗。今度は、男友達だけで飲もうね。また連絡するから」
「お、おう。またな」
「行こう。舞ちゃん」
「あ、うん…」

(日浦君があんなに怒った顔、初めて見た…)

二人分のトレイを持って返却口に向かう日浦を慌てて追いかけながら、呆然と立ち竦む莉愛をちらりと振り返った。
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