これだから三次元なんて!

星咲ユキノ

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元カノとの対決

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「で?…わざわざ一人で戻ってきて、話って何よ?私はあんたと話す事なんかないんだけど」

先ほどと同じカフェの隅のテーブル席に、向かい合って座る莉愛と舞。

一度は日浦と一緒にカフェを出たが、「トイレに行く」と彼に嘘をついて舞だけここに戻り、中原とコーヒーを飲んでいた莉愛に「話がある」と詰め寄ったのだ。
ちなみに、中原は気を利かせて席をはずしてくれた。

本来ならば、彼氏の元カノなんかとこれ以上は関わりたくない。
高校時代に嫌がらせをされた相手ならば尚更だ。
でも舞には、日浦に嘘をついてカフェに戻ってまで、莉愛に言いたいことがあったのだ。

不機嫌さを隠しもせずに自分の髪をいじる莉愛のペースに飲み込まれないように、舞は姿勢を正して口を開く。

「単刀直入に言います。日浦君をセフレに誘うのはやめてください」
「は?何それ?滉大から聞いたの?」
「日浦君は何も言ってません。私はこれを見ただけなので」

鞄から出したスマホを操作して、とある人物のSNSを表示する。

莉愛の『裏アカ』を見つけたのは偶然だった。
唯奈と理恵子とデート用の服を買いに行ったあの日、理恵子が莉愛のSNSの話をすると、唯奈が「こういうのは裏アカが存在するのが基本なんですよ。ほらあった」とあっさり見つけたのだ。
その存在を無視できなかった理由は、書かれていたのが日浦の事だったからだ。
どうやら莉愛は夫とはレスらしく、寂しくてセフレが欲しいという内容で、その候補として日浦に接触したことが赤裸々に綴られていた。
舞と会った日も、日浦に関係を迫って断られたらしい。
あの日、彼と連絡が取れなかったのは、日浦のスマホを盗み見た莉愛が舞が来る事を知り、電源を切ったからだと判明した。
どうしてここまで莉愛に嫌われているのかと思ったが、おそらく彼女は自分よりも下だと思っている舞が日浦と付き合うのが許せなかったのだろう。

「はぁ?わざわざ調べたの?キモいんですけど!」
「見つけたのはたまたまです。…なんでそこまで日浦君にこだわるんですか?橘さんって結婚したんですよね?」
「したわよ。それが何?…夫とセフレは別物に決まってるでしょ」

(っ、最低)

そうだ、こういう人だった。理解できないけど。

「滉大にこだわる理由?そんなの決まってるじゃない。顔がいいからよ。うちの夫はお金持ちだけど、好みの顔じゃないのよね」

価値観の違う人を無理に理解する必要はない。
これは話し合いではなく、自分の役割を果たすための戦いなのだから。
すうっと大きく息を吸って、彼女にまっすぐと向き直って言った。

「日浦君は私と付き合ってるんです。セフレなら他を当たってください」

両想いだとわかったとはいえ、恋人になってまだ数週間。
もともとネガティブな舞にとって日浦は眩しすぎる存在で、座っているだけで周囲の視線を奪うほど綺麗な顔の彼氏の隣に立っていていいのかと不安になることもある。
だけど…。

『多分、舞ちゃんが思っている以上に日浦君って舞ちゃんが好きだと思うよ。だから自信を持って。それに、大事なのは相手がどう思ってるかじゃなくて、舞ちゃんがどうしたいかだと思うから』

この服を選ぶためにショッピングモールへ行った時に、言ってくれた理恵子の言葉を思い出す。

日浦が自分を大切に思ってくれているのは、今までの彼の態度や今日のデートで充分に伝わっている。
そんな彼のためにも、『私なんか』と後ろを向くのではなく、『私だから』出来ることをしたいと思った。

(そうだ。日浦君が好きな気持ちは、誰にも負けない)

「これ以上、彼には近づかないで下さい」

はっきりした口調で睨みつけながら言った舞に、莉愛はひるむどころか、ハンッと馬鹿にしたように笑った後に言った。

「…『付き合ってる』ねぇ。もう滉大とはえっちしたの?」

ニヤニヤとこちらを見る彼女の視線に、居心地の悪さを感じながらも目を逸らさない。
動揺を見せたら負けだ。
未だにキスすらしていないことを、悟られてはいけない。

「それって、あなたに関係ありますか?」

舞だって元演劇部だ。
理恵子ほどの演技力はないが、内心を悟られない冷静な態度くらいはとれる。
だが、莉愛はまったく動じてないように、ふふんと笑いながら言った。

「滉大。上手いでしょ。私が教えたのよ。だって、私とした時、彼は童貞だったから。…知ってる?男の人にとって、『初めての人』って特別なんだって。だから私は滉大にとって特別な存在なの。わかる?」
「っ」

日浦が童貞ではないことは知っている。
彼は高校の頃からモテていたし、過去のことを責めるつもりもない。
だけど、自分の知らない彼を知っている元カノからその事実を突きつけられると、やはり胸がズキンと痛む。

(動揺しちゃ、だめだ)

この人は舞を怒らせたいだけなのだ。
ここで取り乱したら、彼女の思うつぼだということくらいわかっている。
だから、心に刺さった言葉の棘に気付かないフリをした。
言い返そうと口を開いた時、背後から伸びてきた誰かの腕が体に巻きつき、聞きなれた声が聞こえた。

「随分都合がいいように解釈するんだね、橘さん。俺にとって君は『黒歴史』でしかないんだけど」
「っ、日浦君」

(うそ!いつの間に!)

舞が日浦に黙って莉愛に会いに来た理由は、彼女との会話を聞かれたくなかったからだ。
彼が莉愛の誘いを受けていないことは、莉愛のSNSをみる限りわかったが、これ以上彼に付きまとわれるのは嫌だったからそれを伝えたかった。
こんな醜い『女の嫉妬』という感情を、日浦には見せたくなかったのに。

椅子の背もたれごと後ろから舞を抱きしめた日浦は、耳元で優しく囁いた。

「この人には常識が通じないから、これ以上舞ちゃんが傷つかなくていいよ。俺のために行動してくれてありがとう。嬉しかった。ここからは俺に任せて」

(…お見通し、だったかな)

おそらく、『トイレに行く』と言って離れた時から気付いていたのだろう。
莉愛の元に戻ったとわかっていて何も言わなかったのは、莉愛と正面から向き合いたい舞の気持ちを尊重してのことかもしれない。

そして、彼は莉愛の方を見て怒りを含んだ低い声で言った。

「初めての人が特別?馬鹿らしい。俺にとって特別なのは、今も昔も舞ちゃんだけだよ。一応、仕事の顧客だからと思って優しくしてたけど、これ以上舞ちゃんや俺に絡むようなら、君の旦那に全部報告させてもらうから。念のためと思って、今までの君との会話は録音してあったしね」

日浦が鞄からボイスレコーダーを取り出したのを見て、莉愛の顔色が変わった。

「はぁ?っ、馬鹿じゃないの?もうあんたなんかいらないわよ!キモオタ同士、勝手にやってればいいじゃない!帰る!」

(何か前にもこんな事があったような…)

バタバタと走り去る莉愛の後ろ姿を見ながら、未だに舞に抱きついたままの日浦がぼそっと呟く。

「バラされて困る事ならやらなきゃいいのに。ねぇ?」
「…はは」

その笑顔に黒いものを感じ、舞は乾いた笑いを漏らした。
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