これだから三次元なんて!

星咲ユキノ

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これだから三次元なんて!

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「舞ちゃん歩ける?車の中で待っててもいいよ」
「大丈夫だよ。もう安定期に入ってるんだから。理恵ちゃんこそ、つわり真っ只中でしょ?大丈夫?」
「うん。不思議と菜穂の時よりもひどくないんだよねぇ。ちゃんと食べられてるし」

9月のある晴れた日の午後。
今日は11回目の麦野の命日で、舞と理恵子はお墓参りの為に霊園に来ていた。

舞は2月の34歳の誕生日に入籍と身内だけの式を済ませて、現在は妊娠5か月だ。紺色のマタニティーワンピースのお腹は少しふっくらしている。
ちなみに、5月に草哉と入籍した理恵子も妊娠中で、舞よりも2か月遅い妊娠3か月だ。
舞は第一子、理恵子は第二子だが、親友同士で同じ年に子供を産めるなんて、とお互いに喜んでいる。

「舞ちゃん、理恵ちゃん!そっちは段差があって危ないからこっちからゆっくり行ってね!水を汲んだらすぐに行くから!」

慌てたような滉大の声が後ろから聞こえる。
妊娠してからというもの、滉大は前よりも過保護になった。
何をするにも「危ないから」と先回りしてくれるのは嬉しいが、自分で出来ることも全部やってしまうので、正直ありがた迷惑だ。

「相変わらずだね、日浦君」
「まぁね。でもあれは、理恵ちゃんに対する罪悪感もあるみたいよ」
「ああ。草哉君とのこと?だから私は気にしてないって。むしろきっかけを作ってくれてありがたいって思ってるよ。舞ちゃんもあんまり怒っちゃダメだよ?日浦君は舞ちゃんが好き過ぎるだけなんだから」
「…お互い、腹黒男子が相手だと苦労するってことだね」
「ん?草哉君は腹黒じゃないでしょ?」
「いやいや!あの人こそ、腹黒の極みでしょ!この前なんか、『米田さん。理恵子さんを喘がせすぎじゃないですか?そういうの、俺以外には聞かせたくないんで、直してくれません?』って言われたんだよ!18禁なんだから喘ぐのは当たり前でしょ!お前どんだけ嫉妬深いんだよ!って思ったから!」
「…うん。なんかごめん」

話しているうちに麦野のお墓の前に着き、先に軽くお墓の掃除とお線香をあげる準備をしていると、滉大が桶を持ちながらやってきた。

「もう。二人とも歩くのが早いよ。妊婦さんなんだからゆっくり歩かないと」
「日浦君。草哉君と菜穂は?一緒だったよね?」
「ああ。菜穂ちゃんが喉が乾いたってジュースを飲みたがって、草哉君はそれに付き添ってる。すぐに来るって言ってたよ」
「そっか」
「あれ?ブーケって、2つあったっけ?」

ふと見ると、滉大の手にはブーケが2つある。
1つはオレンジと黄色のガーベラが7本入った、前回と同じもの。もう1つは、ピンクのガーベラ3本とカスミ草が入った小さなブーケ。
すると滉大は、大きなブーケを墓前に置いて、小さなブーケを舞に差し出した。

「はい。こっちは舞ちゃんに」
「え?」
「あげようと思ってこっそり買ってたんだ。俺の気持ちだよ。花言葉は、『あなたを愛しています』」
「っ!?」

(なに言ってんの!この人!理恵ちゃんの前なのに!)

慌てて理恵子を見ると、ニヤニヤしながらスマホのカメラをこちらに向けている姿が目に入った。

「ちょっと理恵ちゃん!何で写真を撮ってるの?」
「写真じゃなくて動画だよ。唯奈ちゃんに『ラブラブ夫婦の動画をお願いします』って頼まれてたから。いやぁ、いいのが録れたなぁ」
「やめて!理恵ちゃんがそうやってバラすからからかわれるの!」

***

「舞ちゃん、日浦君。今日はありがとう。気をつけて帰ってね」
「日浦さん、送ってくれてありがとうございます」
「まいちゃん!こうだいくん!またね!」

滉大の車で、理恵子と草哉と菜穂が暮らすマンションの入り口まで送る。
それからペットホテルに預けていた愛猫を引き取り、入籍してから引っ越したマンションに向かった。

「こら!しーちゃん!ティッシュで遊んじゃ駄目だよ!」

部屋に着いてキャリーバッグから出すなり、イタズラしながらリビングを走り回る子猫を滉大が追いかける。
日浦家にはお腹の赤ちゃんより一足先に家族が増えていて、それが生後3か月の雌猫の『しじみ』だ。
なーさんが茶色なのに対し、『しじみ』は黒と灰色が混ざった毛色をしている。
10歳を過ぎて元気がなくなってきたなーさんを心配して、遊び相手を探しに保護猫カフェに行った時、一目ぼれした可愛い子猫だ。
ちなみに名前の由来は、滉大の好きな味噌汁の具…ではなく、見た目が貝のしじみに似ているから。
唯奈には『味噌汁シリーズですね!』と爆笑された。

「あ、動いた」
「え?触っていい?本当だ。動いてる!」

夕食の後。ソファに座る舞のお腹を、隣に座っていた滉大が優しく触れた。
滉大はどんなに仕事が忙しくても、時間を見つけて検診に付き添ってくれる。
名づけは自分ですると張り切っていて、先日の検診で女の子だとわかってから、ネットや本を見ながら必死で考えているようだ。

「そういえば、名前は決まった?」
「うん。『亜子(あこ)』にしようと思って」
「『亜子』ちゃん?可愛い!いいね!」
「でしょ?麦野先輩の名前から一文字もらったんだ」
「え?」
「麦野亜美でしょ?だから、『亜』って字をもらって、『亜子』。先輩のご両親にも了承をとっているよ。お墓参りの前に電話で話したら、快く『娘も喜ぶから是非』って言ってくれて。…あれ?舞ちゃん、泣いてる?」
「っ、泣いてない!」

嘘だ。油断するとソファまで濡らしてしまうほど、目に涙が溜まっている。

「…ありがとね。こうくん」
「どういたしまして。ちなみに、これもこの子にあげようかなって考えてる」

そう言って彼がポケットから取り出したのは、ガラスのアメジストがついた小さなピンキーリング。
生前、麦野とお揃いで買ったものだ。

「このまま順調にいけば、この子は2月生まれだから。先輩もその方が喜ぶかなって。…嫌だった?」
「…ううん。嫌じゃない。ありがとう」

思わず彼の胸に顔を埋めると、彼は優しく頭を撫でてくれた。

「でもすごい偶然だね。この子も2月生まれだなんて。しかも女の子だからリングも使ってくれるだろうし。なんか嬉しいな」
「えっ?…あ、うん。そう、だね」
「ん?」

その言い方に違和感を覚えて何気なく口にする。

「もしかして2月生まれなのは偶然じゃない?…計算した?」

すると、彼の目が明らかに泳いだのを見て、彼が隠し事をしているとすぐにわかった。

「こうくん?」
「…はい」
「私、前に言ったよね?隠し事は嫌いって。正直に言ったら怒らないから言って」
「…はい」

睨みながら言うと、滉大は観念したように頷く。
ぽつぽつと話し始めた彼の説明を聞くと、ネットで『2月に出産する方法』と検索して、舞の排卵日のタイミングを狙ったらしい。
どうして滉大が舞の排卵日を知っているかというと、入籍した時に妊活と称してお互いのスマホに共有アプリを入れているからだ。
確かに、結婚してすぐに子供が欲しいと言っていたわりに、『残っているのもったいないから使おう』としばらくゴムを使っていたからおかしいとは思っていた。

「もしかして女の子なのも計画的?」
「いや、それは本当に偶然!俺は男でも女でも嬉しいし、何月生まれでもよかったんだけど、2月だったらこのリングを渡せるからいいかなって思っちゃって…」
「他に隠し事はない?」
「…あー。ええっと…」
「言って」
「…舞ちゃん、ここに引っ越す時に寝室は別が良いって言ってたでしょ?シナリオ作りもあるし俺とは帰宅時間が違うからって」
「言ったね。でも引っ越し直前でしじみを飼う事になって、使う予定だった小さい部屋を猫部屋にしちゃったから、結局同じ寝室で…。…ん?まさか…」

気まずそうに視線を反らした滉大に、思い浮かんだ可能性が肯定されたのがわかり、瞬時に怒りがわく。

「もしかして、私と同じ寝室がいいからしじみを飼ったとか言わないよね!?」
「違うよ!それは本当になーさんの遊び相手として…。でも物置より猫部屋って言った方が、舞ちゃんを説得できるかなって思って…」

(呆れた。どんだけ私の事が好きなの?)

「なんか騙された気分だから、今日はこうくんがリビングで寝て」
「えっ!やだ!俺、舞ちゃんの匂いを嗅がないと寝れないし!」
「黙れ変態!…大体こうくんはいつも…んっ!?」

文句が溢れ出る口を塞ぐようにキスされて、そのまま舌が侵入してきた。
くちゅっと唾液が絡まる音が聞こえただけで、体が一瞬で熱くなる。
そして耳元で滉大が色っぽい声で囁いた。

「…一緒に寝ようか。舞」
「っ」

(ああ、もう!これだから三次元の男なんて!)

「…えっちしないって、約束するなら…」

(結局、こうやって丸めこまれちゃうんだよね、私)

嬉しそうに笑う彼を見ながら、三次元の恋愛に振り回される日々も悪くないと思ったことは、滉大には内緒だ。
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