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「お母さん。ゆきくんが転んじゃった」
慌ただしく焼きそばをパックに詰めていると、泣きじゃくる小さな男の子を抱えた菜穂が、困った顔で言った。
トレードマークのポニーテールはそのままに、背がぐんと伸びた菜穂は、もう小学5年生だ。
草哉君と結婚して3年が経ち、蔵上家には新しい家族が増えた。
それが、菜穂が抱き抱えている2歳の男の子で、息子の幸斗だ。
菜穂は9歳差の弟を、「ゆきくん」と呼んで可愛がり、良いお姉ちゃんとして頑張ってくれている。
ずっと一人っ子だと思って甘えていた時期が嘘みたいだ。
息子の泣き顔を見て、私は慌てて仕事の手を止める。
「え!?幸斗どうしたの?パパは?」
少し前に見た時は、菜穂と一緒にいて、幸斗を抱っこしていたはずなのに。
「ひっく…パパ…いっちゃった…」
「田所さんが連れていっちゃったの。ゆきくんは離れたくないって言ってたんだけど、田所さんが無理矢理お父さんを連れていっちゃうから、追いかけて転んじゃったんだよ」
泣いていてうまく喋れない幸斗の代わりに、菜穂が説明する。
幸い、幸斗が転んだのは芝生の上だったらしく、ケガがなくて安心する。びっくりして泣いただけのようだ。
「菜穂、ありがとう。ゆき、パパが戻ってくるまでママと一緒にいよっか?でも、ママはまだお仕事中だから、そこに座って待っててね。はい。綿あめあげるよ。菜穂もね」
そう言うと、幸斗は泣きながらにこっと笑って、小さな綿あめを嬉しそうに両手で受け取る。
菜穂も「ありがと。でもこれ、口がベタベタになるんだよね。美味しいけど」と生意気なことを言いながらも、ちゃんと受け取ってくれた。
私が産休・育休を経て、職場復帰をしたのは数か月前のこと。
妊娠した時、「好きな仕事を辞めたくない」と草哉君に言うと、彼は受け入れてくれた。
職場復帰してから慌ただしい私の為に、幸斗の面倒だけでなく、食事の準備や菜穂の宿題、さらにはPTAの集まりまで行ってくれるほど、彼は育児協力をしてくれている。
信也さんの時は私がやるのが当たり前だったので、草哉君の優しさが本当にありがたい。
今日は職場復帰してから初めてのイベント。
「だんらん祭」は、老人ホームで行われる文化祭のようなもので、入居者だけでなく、その家族を招いて、焼きそばや綿あめの屋台や、催し物をする「秋のお祭り」だ。
毎年、ホーム内のこじんまりした中庭に、出店やステージが設置され、賑やかで楽しい時間を過ごす。
職員も、家族や友人を招待してもいいことになっているので、私は草哉君と菜穂と幸斗を呼んだ。
「わりー。遅れた」
ようやく戻って来た田所君の後ろには、草哉君がいる。
「ごめん、理恵子さん。幸斗の泣き声は聞こえてたんだけど、戻れなくて」
「ううん。大丈夫。転んじゃったみたいだけど、ケガはないから。菜穂が連れてきてくれたの」
「ごめんね、菜穂。俺が田所さんに連れていかれた所為で大変だったよね?ありがとう」
幸斗が産まれてから、草哉君は菜穂を呼び捨てで呼ぶようになった。
自分の子と分け隔てなく接したいという考えらしい。
「弟の面倒を見るのは当然だからいいよ。今度はお父さんがちゃんとみてね。じゃあ私、みーちゃん達と遊んでくるから」
最近ちょっと反抗期気味の菜穂は、幸斗を草哉君に渡すなりすぐに友達と遊びに行ってしまったが、草哉君のことを「お父さん」と呼ぶようになって、信頼関係は良好のようだ。
ステップファミリーとしての不安はあったが、なんとか上手くやっている気がする。
「菜穂ちゃん、すっかりお姉ちゃんだな。心なしか、言動が木山に似てる」
「はは。親子だからね」
「田所さん。『木山』じゃなくて『蔵上』です。間違えないで下さい」
「いいんだよ、俺は。あだ名みたいなもんなんだから」
「妻を旧姓で呼ばれるのは、あまり気分がいいものじゃないので」
「そーか。なら俺は、一生『木山』って呼んでやろー」
なんかこの二人、仲良くなってる?
「二人は何の話をしてたの?」
そう聞くと、草哉君は少し考えた後に真顔で言った。
「俺がどれだけ理恵子さんのことが大好きかの説明を」
「はぁ?なにそれ!」
「聞かれたので」
「田所君、何を聞いてるの!」
「だってお前。こんな若いイケメンがお前と結婚とか、どう考えてもおかしいだろ。結婚詐欺かホストじゃないかって心配してたんだよ!」
「そ、そんなわけないでしょ!」
(私たち、そんな風に見えていたの?)
その事実にショックを受けていると、ぐいっと引っ張られて後ろから草哉君に抱きしめられた。
「田所さん。人の奥さんを『お前』とか呼ぶのはやめてくれません?…やっぱり『木山』でいいです。『お前』よりかは、マシなんで」
「かー。心狭い男は嫌われるぞー」
「しつこい人には言われたくないですね」
やっぱり仲悪い?
「それより田所君、交代!私もう休憩の時間なんですけど」
「わり。あとはやっとくから休んできていいぞ」
「よろしくね」
エプロンをはずすと、草哉君の腕に抱かれていた幸斗が抱っこを要求してきたので受け取った。
幸斗を抱っこしながら少し歩いて、中庭の端にあるベンチに腰掛ける。
少し離れた場所で、菜穂が友達と鬼ごっこをして遊んでいるのが見えた。
「ごめんね。草哉君。子供たちの面倒、任せっぱなしで」
「全然。楽しいよ。理恵子さんはお仕事お疲れ様。仕事をしている姿は初めて見たけど、かっこよくて惚れ直した」
笑顔で言われて、ボッと顔が赤くなる。
(なんでそういう恥ずかしいことを、サラッと言っちゃうかな、この人は)
草哉君は、幸斗が産まれてから人前では敬語を使わなくなった。
敬語だと夫婦に見られにくいからという理由で、私がお願いしたのだ。
でもえっちの時は相変わらず敬語で攻めてくる。
そのギャップが好きで、より感じやすくなっているのは彼には内緒だが、おそらくバレているだろう。
幸斗に麦茶の入ったストロー付きマグを渡している草哉君を見ていると、その穏やかな光景に思わず笑顔になる。
「ん?なに?」
視線に気づいた彼がこっちを見た。
「んーん。幸せだなって思って。ありがとね。草哉君。大好き」
にっこり笑うと彼は照れたように顔を赤くしたまま視線をそらした。
「あー、もう。外でそんな可愛い事を言ったら駄目って言ったのに…」
「え?なに…んっ!?」
触れるだけの軽いキスをされたことに気づいたのは、周囲から騒がしい声が聞こえた時だ。
視線だけそちらに向けると、職場の仲間たちが好奇の瞳で、菜穂はあきれたようにこちらを見ていた。
(うそ!皆が見てる!)
はっと我に返り、慌てて彼から離れて文句を言う。
「ちょっと!草哉君!」
「続きは家に帰ってからね」
「ば、馬鹿っ!」
彼は真っ赤になっている私を見て、楽しそうに笑った。
始まりは金木犀の咲く高校の中庭だった。
過去の私は、その香りを嗅ぐたびに泣きそうになっていたけれど、今は違う。
金木犀は私と草哉君をつなぎ合わせてくれた思い出の花だ。
「俺も幸せですよ、理恵子さん。大好きです」
そう言いながら彼は私の右手を自然に握る。
応えるように指を絡ませながら私は、どこからともなく流れてくる金木犀の香りを、幸せな気持ちで吸い込んだ。
慌ただしく焼きそばをパックに詰めていると、泣きじゃくる小さな男の子を抱えた菜穂が、困った顔で言った。
トレードマークのポニーテールはそのままに、背がぐんと伸びた菜穂は、もう小学5年生だ。
草哉君と結婚して3年が経ち、蔵上家には新しい家族が増えた。
それが、菜穂が抱き抱えている2歳の男の子で、息子の幸斗だ。
菜穂は9歳差の弟を、「ゆきくん」と呼んで可愛がり、良いお姉ちゃんとして頑張ってくれている。
ずっと一人っ子だと思って甘えていた時期が嘘みたいだ。
息子の泣き顔を見て、私は慌てて仕事の手を止める。
「え!?幸斗どうしたの?パパは?」
少し前に見た時は、菜穂と一緒にいて、幸斗を抱っこしていたはずなのに。
「ひっく…パパ…いっちゃった…」
「田所さんが連れていっちゃったの。ゆきくんは離れたくないって言ってたんだけど、田所さんが無理矢理お父さんを連れていっちゃうから、追いかけて転んじゃったんだよ」
泣いていてうまく喋れない幸斗の代わりに、菜穂が説明する。
幸い、幸斗が転んだのは芝生の上だったらしく、ケガがなくて安心する。びっくりして泣いただけのようだ。
「菜穂、ありがとう。ゆき、パパが戻ってくるまでママと一緒にいよっか?でも、ママはまだお仕事中だから、そこに座って待っててね。はい。綿あめあげるよ。菜穂もね」
そう言うと、幸斗は泣きながらにこっと笑って、小さな綿あめを嬉しそうに両手で受け取る。
菜穂も「ありがと。でもこれ、口がベタベタになるんだよね。美味しいけど」と生意気なことを言いながらも、ちゃんと受け取ってくれた。
私が産休・育休を経て、職場復帰をしたのは数か月前のこと。
妊娠した時、「好きな仕事を辞めたくない」と草哉君に言うと、彼は受け入れてくれた。
職場復帰してから慌ただしい私の為に、幸斗の面倒だけでなく、食事の準備や菜穂の宿題、さらにはPTAの集まりまで行ってくれるほど、彼は育児協力をしてくれている。
信也さんの時は私がやるのが当たり前だったので、草哉君の優しさが本当にありがたい。
今日は職場復帰してから初めてのイベント。
「だんらん祭」は、老人ホームで行われる文化祭のようなもので、入居者だけでなく、その家族を招いて、焼きそばや綿あめの屋台や、催し物をする「秋のお祭り」だ。
毎年、ホーム内のこじんまりした中庭に、出店やステージが設置され、賑やかで楽しい時間を過ごす。
職員も、家族や友人を招待してもいいことになっているので、私は草哉君と菜穂と幸斗を呼んだ。
「わりー。遅れた」
ようやく戻って来た田所君の後ろには、草哉君がいる。
「ごめん、理恵子さん。幸斗の泣き声は聞こえてたんだけど、戻れなくて」
「ううん。大丈夫。転んじゃったみたいだけど、ケガはないから。菜穂が連れてきてくれたの」
「ごめんね、菜穂。俺が田所さんに連れていかれた所為で大変だったよね?ありがとう」
幸斗が産まれてから、草哉君は菜穂を呼び捨てで呼ぶようになった。
自分の子と分け隔てなく接したいという考えらしい。
「弟の面倒を見るのは当然だからいいよ。今度はお父さんがちゃんとみてね。じゃあ私、みーちゃん達と遊んでくるから」
最近ちょっと反抗期気味の菜穂は、幸斗を草哉君に渡すなりすぐに友達と遊びに行ってしまったが、草哉君のことを「お父さん」と呼ぶようになって、信頼関係は良好のようだ。
ステップファミリーとしての不安はあったが、なんとか上手くやっている気がする。
「菜穂ちゃん、すっかりお姉ちゃんだな。心なしか、言動が木山に似てる」
「はは。親子だからね」
「田所さん。『木山』じゃなくて『蔵上』です。間違えないで下さい」
「いいんだよ、俺は。あだ名みたいなもんなんだから」
「妻を旧姓で呼ばれるのは、あまり気分がいいものじゃないので」
「そーか。なら俺は、一生『木山』って呼んでやろー」
なんかこの二人、仲良くなってる?
「二人は何の話をしてたの?」
そう聞くと、草哉君は少し考えた後に真顔で言った。
「俺がどれだけ理恵子さんのことが大好きかの説明を」
「はぁ?なにそれ!」
「聞かれたので」
「田所君、何を聞いてるの!」
「だってお前。こんな若いイケメンがお前と結婚とか、どう考えてもおかしいだろ。結婚詐欺かホストじゃないかって心配してたんだよ!」
「そ、そんなわけないでしょ!」
(私たち、そんな風に見えていたの?)
その事実にショックを受けていると、ぐいっと引っ張られて後ろから草哉君に抱きしめられた。
「田所さん。人の奥さんを『お前』とか呼ぶのはやめてくれません?…やっぱり『木山』でいいです。『お前』よりかは、マシなんで」
「かー。心狭い男は嫌われるぞー」
「しつこい人には言われたくないですね」
やっぱり仲悪い?
「それより田所君、交代!私もう休憩の時間なんですけど」
「わり。あとはやっとくから休んできていいぞ」
「よろしくね」
エプロンをはずすと、草哉君の腕に抱かれていた幸斗が抱っこを要求してきたので受け取った。
幸斗を抱っこしながら少し歩いて、中庭の端にあるベンチに腰掛ける。
少し離れた場所で、菜穂が友達と鬼ごっこをして遊んでいるのが見えた。
「ごめんね。草哉君。子供たちの面倒、任せっぱなしで」
「全然。楽しいよ。理恵子さんはお仕事お疲れ様。仕事をしている姿は初めて見たけど、かっこよくて惚れ直した」
笑顔で言われて、ボッと顔が赤くなる。
(なんでそういう恥ずかしいことを、サラッと言っちゃうかな、この人は)
草哉君は、幸斗が産まれてから人前では敬語を使わなくなった。
敬語だと夫婦に見られにくいからという理由で、私がお願いしたのだ。
でもえっちの時は相変わらず敬語で攻めてくる。
そのギャップが好きで、より感じやすくなっているのは彼には内緒だが、おそらくバレているだろう。
幸斗に麦茶の入ったストロー付きマグを渡している草哉君を見ていると、その穏やかな光景に思わず笑顔になる。
「ん?なに?」
視線に気づいた彼がこっちを見た。
「んーん。幸せだなって思って。ありがとね。草哉君。大好き」
にっこり笑うと彼は照れたように顔を赤くしたまま視線をそらした。
「あー、もう。外でそんな可愛い事を言ったら駄目って言ったのに…」
「え?なに…んっ!?」
触れるだけの軽いキスをされたことに気づいたのは、周囲から騒がしい声が聞こえた時だ。
視線だけそちらに向けると、職場の仲間たちが好奇の瞳で、菜穂はあきれたようにこちらを見ていた。
(うそ!皆が見てる!)
はっと我に返り、慌てて彼から離れて文句を言う。
「ちょっと!草哉君!」
「続きは家に帰ってからね」
「ば、馬鹿っ!」
彼は真っ赤になっている私を見て、楽しそうに笑った。
始まりは金木犀の咲く高校の中庭だった。
過去の私は、その香りを嗅ぐたびに泣きそうになっていたけれど、今は違う。
金木犀は私と草哉君をつなぎ合わせてくれた思い出の花だ。
「俺も幸せですよ、理恵子さん。大好きです」
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