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しおりを挟む初めて秋葉原の本屋で働く彼女を見たのは、この夜から半年ほど前でさ。
印象は恐ろしく地味だった。
ほら、知ってるだろ。8階建てのビルが丸ごと本屋……日曜、祭日にラノベやアイドルのイベントを開くブックエンペラーって店。
俺が投稿してるのはマニアしか読まないスニークって写真誌で、18才以下おことわりの上、半ば同人誌の扱いだ。デジタル版は出てないし、置いてる本屋は多くない。
ネットで買うと楽なんだけどね。毎月出るラノベの品定めも兼ね、ブックエンペラーの店内をぶらつくのが好きでさ。
新入りの女子店員がいる、と思いつつ、雑誌をカウンターへ持っていくと、その店員がニコッと笑う訳よ。
あまり愛想振りまくタイプじゃない分、却ってその笑顔が可愛く見えた。
おまけにさり気なく話を振ったら、彼女もスマホで街角のスナップを撮り、時々俺と同じ雑誌へ送ってるって言う。
趣味の一致は恋の大事な要素だもんな。惚れるわ、そりゃ。
それから毎月、彼女がカウンターにいる間に雑誌を買う習慣ができ、たま~に通勤の生き返りを尾行したりした。
従業員用のトイレへ忍び込んだ事もあるしね、勿論、盗撮とかバンバンしましたわ。
あ~、そんなに好きなら、コクりゃ良いって思ってます?
違うんだなぁ、それをやったら俺の神聖な趣味が穢れちまう。
シャイでナイーブな感性が口説きにゃ不向きで、27年の人生を通し、リアル彼女が一人もできなかったのは事実だけど、さ。
それでも何時の日か、俺の写真が雑誌のコンクールで入選した暁には思い切ってコクる意思とか、普通にあった訳よ。
悪い虫のお陰で失恋って羽目になったけど、盗撮の都合だけ考えたら、シャッターチャンスを見逃せない。
月の光程度の明るさでフラッシュを使わなくても撮影は可能。夜撮に特化したアプリのⅠSO感度をいじり、シャッター速度も遅く設定したら、結構きれいに撮れるんだよ。
その内、武骨な指がカーキ色のカーゴパンツへ押し入り、須美の息遣いが乱れた所で、薄い生地のカットソーを脱がせ始めた。
のけぞった滑らかな首筋を男の両腕が撫で……。
吐息を漏らす度、微かに開いた唇の赤い狭間をアップで捉えて、良い絵が撮れたと思った矢先、須美の息遣いが変化した。
荒れ、乱れ、苦し気に掠れていく。
正直、ギョっとしたよ。菅野の指先が須美の喉元へ喰い込み、少しずつ力を込めて、絞め上げているんだ。
「やめて……どうして、こんな?」
須美のか細い声が苦痛に歪む唇から漏れる。
「ふふ、毎度お馴染み、ちょっとしたお仕置きだよ。いつもより今夜は少々重くなりそうだが」
「……私、何かイケナイ事した?」
「ちょっと考えれば判るだろ、伊田君。例えば、今日の販促イベントがぽしゃった理由、とか」
須美の次の言葉は、咳き込んで声にならなかった。
「俺が担当しているラノベの作家、今夜お前を口説いたよな。イベントがはけたら一晩付き合え、と迫った筈だぞ」
「……最初の休憩の時、菅野さん、私達の立ち話を聞いてたんですか?」
「聞くまでもない。俺が口説けって言ったんだから」
「えっ!?」
「あっさり断りやがって。おかげであの先生、途中でイベントを放り出しちまったじゃないか」
「私……そんなの知らないもん」
「俺があいつの担当で、今日のイベントも俺の仕切りなのは知ってるよな。要するにお前、俺の顔を潰したかった訳?」
男の声は怒っていると言うより、凄く楽しそうだった。俺が言うのも何だけど、中々に見事なクズっぷりだ。
ちょい演出過剰なわざとらしさを感じたから、「プレイ」の類なんだろね。よ~するに、俺とはまた一味違う「趣味」の人って事らしい。
須美の方も、店にいる時の地味な姿と別人の色っぽさだわ。
息が詰まって紅潮する須美の頬が艶めかしく映え、めくれたカットソーの腕の辺り、いくつも痣が見えた。異常な性癖の男に弄ばれる最中、繰り返し暴力を受けているのかもしれない。
俺は撮影に没頭しようとした。
ドS男に引っかかった挙句、俺様の純情を踏み躙った馬鹿女なんか今更どうなっても良いと思ったんだけど……。
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