濃い霧が発生した或る日の早朝、東野彩音は、元暴走族の恋人・大矢千秋が運転する改造車の助手席にいた。
視界が悪い上、二日酔いでハンドルを握る千秋にヒヤヒヤさせられっぱなしの彩音。
そのせいか酷く喉が渇き、飲み物を求めて小さな駄菓子屋へ入っていくが、そこは噂に名高い幻の店だ。
極めて不運な人間しか辿り着く事ができず、その不運を解消する不思議な駄菓子を売っていると言う。
しかし、時に奇妙で、時に奇跡とも思える駄菓子の効果には恐るべき副作用があった……
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文字数 9,810
最終更新日 2024.08.19
登録日 2024.08.16
再開発が進む赤羽駅東口界隈に、時代から取り残された古いライブハウスがある。
ある日の夕刻、そこで奇妙なコンサートが行われた。
全身を動物のキグルミに包んだ「ザ・中の人」というパンク・バンドの公演で、パンダ役とウサギ役を演じる二人が夫婦関係にあり、互いの浮気が発覚した為、ステージ中に「離婚式」をやりたいと言うのだ。
クライマックスでは二人の結婚指輪をハンマーで叩き潰す事になっており、ネットの話題を呼んで、会場は若い客層で溢れる。
その中に一人、潜り込む場違いなアラフォー・須藤 史子。
演歌以外の音楽に興味が無い彼女の狙いは指輪を奪う事にあるのだが、ライブの最中にメンバーの対立が表面化、事態は史子が思いもしない方向へ流れていく……
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文字数 27,425
最終更新日 2024.07.21
登録日 2024.07.08
残暑が厳しい9月の初旬、関東の或る避暑地でサオリという名の少女が忠実な執事と共に大木の幹を見つめていた。
あどけない眼差しの先、季節外れで土から出たセミの幼虫が羽化しようとしている。
執事の孫で親友のトオルに、サオリはセミを見せたいと思うが、その時、空に異変が生じた。
映像のノイズに似た奇妙な煌きが無数に生じ、周囲の光景も歪んでいく。
サオリを促して避難しようと試みる執事だが、それは更なる悲劇の始まりに過ぎなかった……
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文字数 5,097
最終更新日 2024.07.02
登録日 2024.07.01
2023年8月、稲垣好幸は瀕死の父・幹雄に病院で付き添っていた。
決して仲の良い親子ではない。
24年前、好幸が反対を押し切って円という女性と学生結婚した際、一度勘当されている。
その経緯を引きずり、幹雄が59才の時に脳溢血で倒れ、障害者になっても好幸は別居し続けていた。
だが一昨年、幹夫が硬膜外血腫で再入院、母・俶子にも老人性鬱の傾向が出て、好幸と円は介護中心の生活に入る。
この時、円は他にも「子供がいない」と言う悩みを抱えていた。
過酷な不妊治療に挑んだ日々が円の心を追い詰め、好幸との溝が深まって、離婚協議を進めざるを得ない状況に陥っている。
そんな最中、父を見舞った叔父の孫自慢をきっかけに、俶子は円へ不用意な一言をぶつけ、円を泣かせてしまう。
やはり離婚を急ぐしかないのか?
家族の絆を保てない己の不甲斐なさに思い悩む好幸だが……
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文字数 18,183
最終更新日 2024.04.23
登録日 2024.04.15
13年前の大地震で放射能に汚染されてしまった或る原子力発電所の第三建屋。
生物には致命的なその場所へ、犬型の多機能ロボットが迫っていく。
公的な大規模調査が行われる数日前、何故か、若きロボット工学の天才・三矢公平が招かれ、深夜の先行調査が行われたのだ。
現場に不慣れな三矢の為、原発古参の従業員・常田充が付き添う事となる。
世代も性格も大きく異なり、いがみ合いながら続く作業の果て、常田は公平が胸に秘める闇とロボットに託された計画を垣間見るのだが……
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文字数 15,034
最終更新日 2024.03.13
登録日 2024.03.06
大寒波により、豪雪にみまわれた或る地方都市で、「引きこもり状態の50代男性が痴呆症の母を探して街を彷徨い、見つけた直後に殺害する」という悲惨な事件が起きた。
被疑者・飛江田輝夫の取り調べを担当する刑事・小杉亮一は、母を殺した後、捕まるまで馴染みのパチンコ屋へ入り浸っていた輝夫に得体の知れぬ異常性を感じるが……
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文字数 7,386
最終更新日 2024.02.16
登録日 2024.02.14
毎日がんばるシングルマザーのユカリさんにとって、何より大事な宝物は一人娘のタマキちゃんです。
毎日、グッスリ眠って、たくさん夢を見るタマキちゃん。
一見、何処にでもいる子供のありふれた姿に思えましたが、実はそれだけではありません。
夢の中でタマキちゃんは、世界を救う救世主の力をふるっていました。
そして、その夢は或る夜、現実の世界に大きな異変を呼び起こしてしまうのです……
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文字数 12,419
最終更新日 2024.01.20
登録日 2024.01.16
憧れの職場へ異動した喜びも束の間、アホな上司に足を引っ張られ、テンションだだ下がりの木下楓は、有休を取り、実家のある町へ足を運んだ。
子供の頃に大好きだった公園のブランコへ座り、リフレッシュする予定だったが、そこに少年の幽霊が出現!
昔、からかった少女を見つけて謝りたい。
そうしないと天国へ行けない、という。
手伝ってくれなきゃ呪っちゃうぞ、との脅迫交じりの懇願を受け、少女探しに奔走する楓だが……
その公園には少年が死んだ事故の経緯、そして少女への秘めた想いにまつわる意外な真実が隠されていたのだ。
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文字数 12,465
最終更新日 2023.12.31
登録日 2023.12.27
とある住宅地の分譲マンションに住む小学生四年生の「ボク」は「パパ」と日曜日にジョギングへ行くのが好きだった。
でもある日のジョギング途中、仕事で多忙な「パパ」が体調を崩しかけているのに気づく。
その朝は「パパ」と「ママ」が些細な誤解から夫婦喧嘩をした翌日だった。
帰宅後、「パパ」は「ボク」を傍らに置き、テレビの音を大きくしたり、小さくしたりする奇妙なやり方で、不機嫌な「ママ」の気持ちをほぐして見せる。
「ボク」は違和感からつい反発してしまうが、その行動には「パパ」が心の奥へ秘めてきた家族へのある思いが隠されていたのだ……
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文字数 9,476
最終更新日 2023.12.05
登録日 2023.12.01
貧乏ヒマ無し。ついでに夢も希望も、彼氏もいない味気ない毎日。
アラサーの派遣OL・猪又有紀は、溜まり続けるその憂さを退社後の小さな道草で紛らわせていた。
猫が集まる路地裏を訪れ、人懐こい縞猫・ピートに愚痴を聞いてもらっていたのだ。
パワハラ、セクハラ、何でもアリの上司・櫛田洋三の横暴で疲れ切った心が癒される貴重な一時。
でも、ある夜、折角の憩いを邪魔する放浪の野良オトコが突如として現れた。
戸川団と名乗り、邪険にするにはちょいとイケメン。
但し、物事の因果を見極めて未来を言い当てる異能者、との自己紹介が胡散臭すぎ、有紀は早々に逃げ出そうとする。
その背中へこれから起きる出来事と、そのせいで軽い怪我をする運命を宣告する団。
予言は全て的中し、翌日、好奇心から路地裏を訪れる有紀へ団は奇妙な頼み事をする。
一見、意味不明で大したリスクも無さそうなので、つい引き受けてしまうものの、彼女はまだ知らなかった。
その安請け合いが彼女と縞猫ピートの運命を大きく変えていく事を……
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文字数 22,699
最終更新日 2023.11.07
登録日 2023.10.30
平凡な公認会計士である「私」は、山奥にある不釣り合いな高級別荘で、ある朝、目を覚ました。
起こしてくれたのは「妻」だ。
三十代後半で未だ若々しい「妻」、その優しい笑顔に癒され、体を起こして部屋のカーテンを開くと眩い日差しが差し込んで来る。
美しく、平和な朝だ。
幸せを感じて良い筈なのに、奇妙な不安が胸を過る。何故か、ここへ来た経緯、ここ数日間の記憶が全く残っていない。
しばらく前の出来事なら覚えているのに、何故、最近の事だけ判らないのだろう?
「私」も「妻」も携帯電話を持っておらず、家の中にはテレビが無い。だから、外の情報は一切入らない。
唯一の情報源、居間に置かれたタブレット端末だけは問題なく起動し、少々胡散臭い「妻」の弟が画面へ現れて、「私」の質問へ答える代りに言った。
「姉さん、夫婦水入らずで楽しく過ごして欲しい。できれば、この世の終わりまで……」
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文字数 9,489
最終更新日 2023.09.28
登録日 2023.09.25
自宅の床に灯油が撒かれ、着火と同時に炎が噴き上がる。
その瞬間、安藤伸二が見上げる妻・清子の顔は、それまで見た事も無い恍惚の笑みを浮かべていた。
還暦間際の伸二が十才以上年下の妻と初めて出会ったのは、高齢の男ばかり目立つ婚活パーティの席上だ。
長年介護していた母を亡くし、彼の心には大きな穴が開いていた。
その孤独を清子の優しい笑顔が癒し、幸福を噛み締めたのも束の間、周囲で異変が起き始める。
密かに妻の経歴を調べると、幾つも嘘が含まれていた。
更にインターネット上で「キヨヒメ」と名乗る奔放な顔を併せ持っていた事も判明する。
問い詰めようとした夜、伸二は非合法の薬を飲まされ、体が痺れた状態で「あなたに大量の保険金を掛けた」と清子から告げられる。
焼死寸前、必死で説得を試みるものの、彼女は単なる金への執着や欲望で動いていたのでは無いらしい。
古い御伽噺を基にする極めて異様な幻想に、清子の心は満たされていたのだ……
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文字数 12,011
最終更新日 2023.09.07
登録日 2023.09.03
ある不動産チェーン店で働く派遣社員の平田尚には、仕事を終えても、気持ちを休める暇が無かった。
大抵、帰り路で悪友・藤巻勝弘につかまり、その仲間達も合流した後、夜の繁華街を引きずり回される羽目になるのだ。
子供の頃から苛められっ子だった癖がついているのか?
尚は、どうしても藤巻達の誘いを断れず、悪習から逃れられない。
或る日、その藤巻が店のデータを盗み、女性の顧客へ誘いのメールを送った事が明らかになる。
尚も協力を疑われ、登録する派遣会社の営業主任・木谷亜津子に詰問された挙句、尾行までされてしまうのだが……
藤巻の真の目的が明らかになった時、逃れられない闇の領域が現出、彼らの身も心も呑み込んでいく。
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文字数 6,969
最終更新日 2023.08.28
登録日 2023.08.25
山を散策し、美しい光景を撮影するのが趣味の「俺」。
つい没頭して時を忘れ、無人の秘境駅へ辿り着いたのは、上りの最終電車が来るまで間の無い午後9時過ぎだ。
乗り遅れると自宅へ帰る道は他に無く、一晩を駅のホームで過さねばならない。
取り敢えずセーフで一息つき、電車を待つ「俺」。
老朽化が酷く、今にも消えそうな灯りの下で心細い思いをしていたら、もう一人、若い男の登山者が現れる。
彼女と一緒だったと言い、二人で撮った写真を男は見せてくれるが、肝心の女性の姿は何処にも無い。
不審な思いを抱えつつ、男が撮影してきたと言う写真の数々を、延々と「俺」は見せられ続ける。
そして、そこには男の狂気を証明する或る異常な光景が残されていたのだ……
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文字数 10,787
最終更新日 2023.08.16
登録日 2023.08.12
九州の南、種ヶ島というロケット打上げ場がある街で、小学三年生のタカシは暮らしています。
タカシのパパとママは一緒に研究する科学者さん。タカシは家に一人でいる事が多いのですが、寂しくはありません。
大好きなライカのお陰です。
六年前、交通事故にあう瀬戸際でタカシを救ってくれた野良犬がライカ。
傷ついたライカは家族の一員となったのですが、年をとり、おばあちゃん犬になったライカは元気がありません。
昔の元気を取り戻してほしくて、タカシは六年前の事故の時、壊れたライカの首輪を探します。
不思議な輝きの金属で作られている首輪は、何故か元通り直っていました。
首を傾げながらタカシが首輪をライカへ付けてやると、辺りは温かい光に包まれ、いつの間にかライカは若返っています。
「ありがとう、タカシ。あなたのおかげ」
信じられない成り行きにタカシが目を丸くすると、何とライカは人の言葉で話しかけ、UFOまで呼び出してしまいます。
さぁ、散歩に行きましょう。
ライカに誘われ、UFOに乗ったタカシは、パパとママの作り上げた探査用ロボットが今、まさに降り立とうとしている月へ向うのですが……
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文字数 11,417
最終更新日 2023.07.28
登録日 2023.07.24
大好きなおばあちゃんが急な病気で亡くなり、明くんへ残してくれたもの。
それは、山奥で代々守られてきたという不思議な鏡でした。
特別なおまじないをし、角度を付けて覗くと、鏡の中には「覗いた人」の、少しだけ違う姿が映し出されます。
人生の様々な場面で、「覗いた人」が現実とは違う選択をし、違う生き方をした場合の姿を見ることが出来るのです。
おばあちゃんは、鏡の中にいる自分と話したり、会ったりしてはいけない、と言い残していました。
でも、ある日、その言いつけを破ってしまった事から、明くんは取り返しのつかないトラブルへ巻き込まれてしまうのです……
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文字数 10,127
最終更新日 2023.07.21
登録日 2023.07.17
文久三年の夏、浦賀港付近を縄張りとするチンピラ博徒・野槌の亥吉は、ある廃寺で巨大な馬の姿を目にする。
マレンゴと言う、その野生馬をつれた武士・多田省吾に話を聞くと、南蛮渡来で極めて高価である、との事。
売れば一儲けできると企んだ亥吉は、得意の博打でマレンゴを勝取る。
貴重な宝を奪われた筈なのに、何故か秘かな笑みを浮かべる多田。
間も無く、秘められた陰謀と狡猾な多田の企てが明らかになり、亥吉はマレンゴを殺して逃走しようかと考え始める。
でも彼の幼少時、亡父が可愛がっていた愛馬の記憶が蘇り、無抵抗な野生馬を殺す気になれない。
ある小屋に追い詰められ、逃避行は終焉を迎えるが、そこで一人と一頭の心は何時しか触合い、奇妙な友情が育まれていく。
それは亥吉にとって、孤独な生涯に嘗て無い安らぎの一時であった。
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文字数 14,294
最終更新日 2023.07.10
登録日 2023.07.03
大手酒造メーカーで定年まで勤め、今はリタイア生活を楽しむ同期の笠森譲二、小杉慎吾、竹ノ内忠。
年に一度、いずれかの自宅でホームバーティを開くのが彼らの習慣だ。
今年は分譲マンションを買ったばかりの小杉慎吾がホスト役。
慎吾は妻・智代の手を煩わせる事無く、30年前のスペイン出張時に覚えたという料理を自らこしらえる。
忠とその妻・友里恵は料理の出来栄えを讃えたが、譲二の表情は今一つ冴えない。明確な理由もなく三下り半をつきつける妻と協議離婚が成立した後だった為だ。
しかし、そんな傷心の譲二だからこそ、慎吾の隣で佇む智代の異変に気付いた。
昔、慎吾がしでかした浮気の傷がまだ智代の中で疼いており、密かな復讐を企てているのではないか?
パーティ進行と並行し、慎吾、智代の仲を修復させようと図る譲二だが、一度穿たれた夫婦の溝は想像以上に深く、秘めた恨みの鋭さを思い知らされていく。
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文字数 16,271
最終更新日 2023.06.18
登録日 2023.06.12
江戸時代の初期、徳川家光が三代将軍となったばかりの頃。
浪人・園部多門は、妻・さきが不治の病を患っている事を知る。
思い悩んだ末、金を稼ぐ為に多門は武士を捨てる決心をするが、それに気付いたさきは怒り、離縁してくれとまで夫へ訴えた。
二十年以上、一途に武士の妻として生きてきた信念や価値観が、死の恐怖より強く彼女を駆り立てているのだ。
共に根は頑固。
言い出すと後に引けない性分同士である。
感情的になった話し合いはこじれにこじれ、時に激しく、時に切なく、時に滑稽なやりとりが続く。
しかし、それらは全て互いに相手を思いやる気持ちの表れ。
己の本心を偽りなく曝け出した時、二人が選ぶ愛の行方は……
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文字数 8,945
最終更新日 2023.05.25
登録日 2023.05.22
岡山の酒造会社を定年退職した今井基弘は町外れの格安一軒家を購入、一人で暮らしている。
趣味は庭いじり。特に花壇中央に聳え立つ皇帝ダリアは端正の賜物だ。
元々、無趣味だった彼が園芸にはまったのは、高齢になってから結ばれた妻の影響である。
既に彼女は癌で他界。
ショックで精神錯乱した時期もあるが、過去の記憶を反芻し、妻の残した花壇に触れていれば辛くない。
とは言え、時には孤独を持て余す。
そんな折、飛び込んできたSNSの『友達申請』……相手は、基弘が三十代の頃につきあった女と似ている。
悪戯の可能性が最初に頭に浮かんだ。
元同僚・三枝は基弘にとって唯一の友人と言える存在だが、人騒がせな男で、何度も手酷くからかわれている。
それに、近頃は独身高齢者を狙い、見知らぬ美女が『友達申請』をしてきた後、金をだまし取られるケースが相次いでいるそうだ。
怪しい。
そう言えば先日、庭いじり中にお隣からと思われる妙な気配を感じ、猫の仕業と思ったけれど、あれも陰謀の一部では?
怖い。
だが、孤独の余り、見知らぬ女の『友達申請』に、つい手が伸び……
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文字数 15,323
最終更新日 2023.05.07
登録日 2023.05.01