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小学校
第9話 不穏な足音
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学園発表会の成功以降、表面上は穏やかな日々が続いていた。
宮園春香は以前ほど露骨に突っかかってこなくなり、クラスの中でも“良きライバル”のような扱いになっていた。
周囲も「二人で切磋琢磨してるんだよね」などと、勝手に美談に仕立て上げる。
だが。
本当の嵐は、水面下で静かに育っていた。
◇◇◇
最初は些細なことだった。
ある朝、机の中に入れていたはずの算数のノートが消えていた。
「光、私のノート見てない?」
「え?昨日ちゃんと机入れてたよね?」
確かに入れた。
だが見当たらない。
結局、先生に事情を説明し、放課後に職員室前の棚から見つかった。
“落とし物”として置かれていたのだ。
誰が持ち出したのかは分からない。
その翌週。
体育着が見当たらなくなった。
ロッカーを開けた瞬間、妙な胸騒ぎがした。
中身がぐちゃぐちゃに荒らされている。
そして体育着は、女子トイレの個室に押し込まれていた。
偶然?
悪戯?
それとも――
視線を感じて振り向くと、廊下の角から宮園春香がこちらを見ていた。
目が合う。
にこりと微笑む。
だがその笑みは、氷のように冷たい。
◇◇◇
決定的だったのは、音楽の時間。
私は伴奏担当だった。
曲は合唱コンクール用の課題曲。
私は放課後も残って練習し、指使いも完璧に仕上げていた。
本番当日。
ピアノの前に座る。
最初の和音を鳴らす――
……音が濁った。
おかしい。
もう一度。
明らかに狂っている。
調律が微妙にずれている。
ざわめく教室。
「どうしたの?」
「間違えた?」
私は必死に修正しながら弾き続ける。
何とか最後まで弾き切ったが、出来は最悪だった。
終了後。
音楽教師が首を傾げる。
「おかしいわね……昨日まで問題なかったのに。」
その時、背後から小さな声。
「本番に弱いんじゃない?」
宮園春香だった。
囁き声。
だが確実に聞こえる距離。
胸の奥がひやりと冷える。
放課後、私はこっそり音楽室へ戻った。
ピアノを確認する。
……やはりおかしい。
意図的に触らなければ、ここまで狂わない。
鍵盤の蓋の裏に、小さな傷があった。
嫌な予感が確信に変わる。
◇◇◇
次第に、クラスの空気も変わっていった。
「燈由ってさ、最近ちょっと天狗じゃない?」
「撮影忙しいからって偉そうだよね。」
心当たりのない噂が広がる。
光が怒る。
「誰がそんなこと言ってるの!?」
私は首を振る。
「いいよ。」
だが、良くない。
給食の時間、私の席だけぽつんと空くことが増えた。
今まで普通に話していた子達が、微妙に距離を置く。
芸能界では慣れている。
だが学校で、というのは堪える。
ある日の放課後。
廊下で呼び止められた。
「ちょっといい?」
宮園春香。
人気のない階段踊り場。
彼女は腕を組み、私を見下ろす。
「最近、評判悪いみたいね。」
「そうみたいだね。」
「可哀想。」
全く思っていない声色。
「何がしたいの?」
私が問うと、彼女は一歩近づく。
「分からないの?」
小さく笑う。
「私はずっと、あんたのせいで二番手扱いなのよ。」
低い声。
「仕事も、ランキングも、話題も。いつも“秋月の次”。」
拳が震えている。
「私は努力してる!なのに!」
その目は涙で潤んでいた。
怒りと、悔しさと、焦燥。
「……だから?」
「だから、あんたがいなくなればいい。」
はっきりと。
心臓が一瞬止まる。
「引退するんでしょ?なら今でも同じじゃない。」
「今すぐ消えて。」
突き飛ばされた。
階段の壁に背中を打つ。
痛みよりも、冷たさが広がる。
◇◇◇
それから、露骨になった。
私のロッカーに落書き。
「消えろ」
「偽物」
上履きが隠される。
提出物が破られる。
だが決定打は、週刊誌だった。
ある日、マネージャーから連絡が来た。
「学校で問題起こしてないよね?」
ネットニュースに小さな記事。
“人気子役、学校で傲慢態度?”
匿名の“同級生の証言”。
内容は、ほぼ捏造。
だが火種には十分。
私は確信した。
ここまでやれるのは一人しかいない。
◇◇◇
光が泣きそうな顔で言う。
「先生に言おうよ!」
私は静かに首を振る。
「証拠がない。」
宮園春香は頭が良い。
直接的な証拠は残さない。
カメラの死角。
匿名アカウント。
巧妙。
だが――
私は芸能界で生きている。
もっと狡い世界を見てきた。
ある日、私はわざと音楽室に一人で残った。
ピアノの蓋を少しだけ開け、鍵盤を触らずに席を立つ。
数分後。
足音。
そっと扉が開く音。
私はカーテンの陰で息を潜めた。
宮園春香が入ってくる。
周囲を確認し、ピアノへ。
そして――弦に触れる。
わざと音を狂わせる。
その瞬間。
私はスマートフォンの録画を止めた。
決定的証拠。
胸が静かに冷える。
◇◇◇
翌日、私は彼女を屋上に呼び出した。
「何?」
余裕の笑み。
私はスマホを差し出す。
再生。
彼女の顔色が変わる。
「……何これ。」
「昨日の映像。」
沈黙。
風が吹く。
「どうする?」
私は淡々と言う。
「先生に出す?事務所に出す?週刊誌に出す?」
彼女の肩が震える。
「……卑怯。」
「先にやったのはどっち?」
長い沈黙。
やがて彼女は膝をついた。
涙が零れる。
「……怖かったの。」
かすれた声。
「置いていかれるのが。」
胸が少し痛む。
だが私は甘くない。
「もうやらない?」
彼女は頷く。
「……ごめん。」
私は録画データを彼女の前で削除した。
「次はない。」
はっきり告げる。
◇◇◇
その後、嫌がらせは止んだ。
噂も次第に消えていった。
だが、傷は残る。
教室で笑い合いながらも、私はどこか一歩引いている。
芸能界だけじゃない。
学校も、戦場だ。
それでも。
私は前を向く。
引退まで、あと一年。
最後まで、自分を守りながら、立ち続ける。
宮園春香との関係は、修復とは言えない。
だが少なくとも、戦争は終わった。
私は静かに窓の外を見た。
冬の空は、相変わらず高く、冷たかった。
宮園春香は以前ほど露骨に突っかかってこなくなり、クラスの中でも“良きライバル”のような扱いになっていた。
周囲も「二人で切磋琢磨してるんだよね」などと、勝手に美談に仕立て上げる。
だが。
本当の嵐は、水面下で静かに育っていた。
◇◇◇
最初は些細なことだった。
ある朝、机の中に入れていたはずの算数のノートが消えていた。
「光、私のノート見てない?」
「え?昨日ちゃんと机入れてたよね?」
確かに入れた。
だが見当たらない。
結局、先生に事情を説明し、放課後に職員室前の棚から見つかった。
“落とし物”として置かれていたのだ。
誰が持ち出したのかは分からない。
その翌週。
体育着が見当たらなくなった。
ロッカーを開けた瞬間、妙な胸騒ぎがした。
中身がぐちゃぐちゃに荒らされている。
そして体育着は、女子トイレの個室に押し込まれていた。
偶然?
悪戯?
それとも――
視線を感じて振り向くと、廊下の角から宮園春香がこちらを見ていた。
目が合う。
にこりと微笑む。
だがその笑みは、氷のように冷たい。
◇◇◇
決定的だったのは、音楽の時間。
私は伴奏担当だった。
曲は合唱コンクール用の課題曲。
私は放課後も残って練習し、指使いも完璧に仕上げていた。
本番当日。
ピアノの前に座る。
最初の和音を鳴らす――
……音が濁った。
おかしい。
もう一度。
明らかに狂っている。
調律が微妙にずれている。
ざわめく教室。
「どうしたの?」
「間違えた?」
私は必死に修正しながら弾き続ける。
何とか最後まで弾き切ったが、出来は最悪だった。
終了後。
音楽教師が首を傾げる。
「おかしいわね……昨日まで問題なかったのに。」
その時、背後から小さな声。
「本番に弱いんじゃない?」
宮園春香だった。
囁き声。
だが確実に聞こえる距離。
胸の奥がひやりと冷える。
放課後、私はこっそり音楽室へ戻った。
ピアノを確認する。
……やはりおかしい。
意図的に触らなければ、ここまで狂わない。
鍵盤の蓋の裏に、小さな傷があった。
嫌な予感が確信に変わる。
◇◇◇
次第に、クラスの空気も変わっていった。
「燈由ってさ、最近ちょっと天狗じゃない?」
「撮影忙しいからって偉そうだよね。」
心当たりのない噂が広がる。
光が怒る。
「誰がそんなこと言ってるの!?」
私は首を振る。
「いいよ。」
だが、良くない。
給食の時間、私の席だけぽつんと空くことが増えた。
今まで普通に話していた子達が、微妙に距離を置く。
芸能界では慣れている。
だが学校で、というのは堪える。
ある日の放課後。
廊下で呼び止められた。
「ちょっといい?」
宮園春香。
人気のない階段踊り場。
彼女は腕を組み、私を見下ろす。
「最近、評判悪いみたいね。」
「そうみたいだね。」
「可哀想。」
全く思っていない声色。
「何がしたいの?」
私が問うと、彼女は一歩近づく。
「分からないの?」
小さく笑う。
「私はずっと、あんたのせいで二番手扱いなのよ。」
低い声。
「仕事も、ランキングも、話題も。いつも“秋月の次”。」
拳が震えている。
「私は努力してる!なのに!」
その目は涙で潤んでいた。
怒りと、悔しさと、焦燥。
「……だから?」
「だから、あんたがいなくなればいい。」
はっきりと。
心臓が一瞬止まる。
「引退するんでしょ?なら今でも同じじゃない。」
「今すぐ消えて。」
突き飛ばされた。
階段の壁に背中を打つ。
痛みよりも、冷たさが広がる。
◇◇◇
それから、露骨になった。
私のロッカーに落書き。
「消えろ」
「偽物」
上履きが隠される。
提出物が破られる。
だが決定打は、週刊誌だった。
ある日、マネージャーから連絡が来た。
「学校で問題起こしてないよね?」
ネットニュースに小さな記事。
“人気子役、学校で傲慢態度?”
匿名の“同級生の証言”。
内容は、ほぼ捏造。
だが火種には十分。
私は確信した。
ここまでやれるのは一人しかいない。
◇◇◇
光が泣きそうな顔で言う。
「先生に言おうよ!」
私は静かに首を振る。
「証拠がない。」
宮園春香は頭が良い。
直接的な証拠は残さない。
カメラの死角。
匿名アカウント。
巧妙。
だが――
私は芸能界で生きている。
もっと狡い世界を見てきた。
ある日、私はわざと音楽室に一人で残った。
ピアノの蓋を少しだけ開け、鍵盤を触らずに席を立つ。
数分後。
足音。
そっと扉が開く音。
私はカーテンの陰で息を潜めた。
宮園春香が入ってくる。
周囲を確認し、ピアノへ。
そして――弦に触れる。
わざと音を狂わせる。
その瞬間。
私はスマートフォンの録画を止めた。
決定的証拠。
胸が静かに冷える。
◇◇◇
翌日、私は彼女を屋上に呼び出した。
「何?」
余裕の笑み。
私はスマホを差し出す。
再生。
彼女の顔色が変わる。
「……何これ。」
「昨日の映像。」
沈黙。
風が吹く。
「どうする?」
私は淡々と言う。
「先生に出す?事務所に出す?週刊誌に出す?」
彼女の肩が震える。
「……卑怯。」
「先にやったのはどっち?」
長い沈黙。
やがて彼女は膝をついた。
涙が零れる。
「……怖かったの。」
かすれた声。
「置いていかれるのが。」
胸が少し痛む。
だが私は甘くない。
「もうやらない?」
彼女は頷く。
「……ごめん。」
私は録画データを彼女の前で削除した。
「次はない。」
はっきり告げる。
◇◇◇
その後、嫌がらせは止んだ。
噂も次第に消えていった。
だが、傷は残る。
教室で笑い合いながらも、私はどこか一歩引いている。
芸能界だけじゃない。
学校も、戦場だ。
それでも。
私は前を向く。
引退まで、あと一年。
最後まで、自分を守りながら、立ち続ける。
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