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第一章【終わりの始まり】
第4話 洛陽住藤原国広
しおりを挟む骨董品屋を何件か巡ったものの、決め手に欠けた。
時代物はあれど“縁”がない。
刃は美しいが、私に応える気配がない。
「う~ん……ここは久世師匠に頼むか。」
溜め息混じりに呟く。
丁度、縁切りの依頼も入っている。報酬を刀で、という交渉も悪くない。
咲弥さんなら融通は効くはずだ。無名刀で構わない。実戦向きで、扱いやすく、変に主張しないもの。
私はスマホを取り出し、ポチポチとメッセージを打つ。
――刀を報酬代わりにお願いできませんか。見繕っていただけると助かります。
送信。
……三十秒。
早い。早すぎる。
=======================
件名:|了解しました。
=======================
咲弥です。
刀が報酬承りました。
丁度良く報酬代わりに貰った刀があります。
そちらを譲りますので、ストーカーの件とは別に仕事を二つほど受けて下さい。
=======================
「二つ……増えた。」
思わず天を仰ぐ。
ストーカー案件に追加で二件。
面倒だが、武器は欲しい。
私は観念して了承のメッセージを送り返した。
「縁切り三件、同日処理で行こう。」
別日に分けると移動が地獄だ。精神的にも体力的にも。
効率は正義である。
◇
本日は久世師匠の仕事日。
依頼は東京二件、大阪一件。まずは地元から片付ける。
いつものタクシー会社に乗り込む。久世師匠御用達の契約先だ。請求は直接師匠へ。待機もしてくれる。全国展開。便利すぎる。
「本日もよろしくお願いします。」
「いつも通りで?」
「ええ、少し時間がかかるかもしれません。」
運転手は慣れた様子で頷く。
到着。
ピンポーン。
「デリバリー・シャーマンの琴平です。」
屋号を名乗ると、すぐにオートロックが解除された。
『宜しくお願いします。』
若い女性の声。
そして対面。
――うげ。
思わず内心で呻く。
黛琴美さんの首には、ロープのように絡みつく赤黒い縁糸。重い。粘つく。執着と憎悪がぐちゃぐちゃに混ざっている。
事前情報通り、相手は元彼伊藤敦。
別れてからストーカーへ進化。最悪ルートだ。
しかも念に引き摺られて低級霊まで群がっている。
(質が悪い……)
私はリビングへ案内され、彼女をソファに座らせた。
「黛琴美です。元カレと完全に縁を切りたいんです! まだ家はバレてませんが時間の問題で……何回引っ越しても突き止めてくるんです! もうおかしくなりそうで……!」
涙混じりの訴え。
私は冷静に告げる。
「まず伊藤敦さんとの縁を切ります。その後、除霊を。黛さん、低級霊にも憑かれています。」
「ゆ、幽霊……?」
顔色が一段と悪くなる。
「大丈夫です。まとめて処理します。」
私は指を鋏の形にする。
首元に絡みつく縁糸へ、チョキン。
バチッ!!
火花のような反発。伊藤の執着だ。
「往生際が悪い。」
伸びてくる縁を、細切れに刻む。チョキチョキチョキ。
(宥子がいれば逆に悪縁結びしてやるのに)
あの姉なら質の悪い女と強制マッチングさせるだろう。ある意味天罰。
最後の糸が霧散した。
「縁は切れました。次は除霊です。座っていてください。」
私は部屋を巡る。
2LDK。隅に溜まる低級霊を淡々と払う。
幽霊との縁もまとめて断ち切る。
十五分後。
「除霊も完了です。」
「え? これで?」
疑いの眼差し。
「うちは祝詞も祈祷も演出もありません。結果だけです。」
私は一礼し、次の現場へ向かった。
◇
東京二件も処理完了。
精神的にどっと疲れる。
「ただいま戻りましたー……」
久世師匠の事務所で冷蔵庫からお茶を拝借。
ごくごく。
「お疲れ様です。」
「うわっ!?」
背後に咲弥さん。
「背後取らないでくださいよ!」
「気配は消していませんよ?」
「十分怖いです。」
私は本題へ。
「報酬、受け取りに来ました。」
「ええ。こちらです。」
案内されたのは――第一宝物庫。
六つある中で最も高価な品を保管する場所。
(え、無名刀じゃないの?)
咲弥さんが差し出したのは、一振りの短刀。
鞘から抜く。
キラリ。
刃文が流麗に走る。
「……これ、只者じゃない。」
「刀工堀川国広作洛陽住藤原国広です。」
空気が凍る。
「は?」
「依頼者が現金を払えず、刀で代金を。仕舞うより実用した方が刀も喜ぶでしょう。」
さらっと言うな。
国広。名工。業物。
「これ、高いですよね?」
「相応に。」
にこり。
貸し出しではないらしい。
「……いいんですか?」
「報酬ですから。」
太っ腹すぎる。
「宥子は元気に?」
さらっと探る。
「元気ですよー。」
異世界で冒険中、とは言えない。
「珍しい物が手に入ったら買い取りますので。」
冷や汗。
(持ち帰らせるな、絶対)
私は短刀――洛陽住藤原国広を抱えて帰路へ。
こうして武器は手に入った。
だが。
この刃を振るう未来は、宥子ではない。
私だ。
姉は契約と加護。
私は断ち切る刃。
双子の役割は、既に決まっている。
洛陽住藤原国広の刃が、淡く光った気がした。
神に喧嘩を売る準備は、整いつつある。
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