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第一章【終わりの始まり】
第7話 久世に頼る
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宥子が異世界へと出掛けて行ったのを見届け、私はひとまず洗濯機を回し、掃除機をかけ、蛇達——紅白と赤白のケージを整えた。
静まり返ったリビング。
姉がいないと、家は妙に広い。
(……さて)
私はスマホを取り出し、とある人物へ連絡を入れる。
久世師匠。
私の裏稼業の元締めにして、性格最悪の金の亡者。
コール三回で繋がった。
『容子から連絡とは珍しいね。金は貸さんぞ』
「出会い頭に金の話とは、流石だね」
図星である。
私はため息をつきながら本題を切り出す。
「執筆だけじゃ食えない。仕事回して欲しいんだけど」
沈黙。
通話越しでも分かる、“ほう?”という空気。
『あれだけ嫌がっていたのに。どういう風の吹き回し?』
「姉が異世界の自称神とやらに召喚されて職を失った」
『わぁおう』
軽い。
軽いが、信じている。
この男は幽霊退治で生きてきた人種だ。常識の範囲が壊れている。
『その口ぶりだと、宥子はこちらに戻ってきてる?』
「自称神様との取引で、自分の私有物を異世界でも使えるようにして欲しいって願ったらしい。家も半分あいつ名義。頓智が効いたみたいでね」
『誘拐した側が出入り自由を許すとは。傑作だ』
くつくつ笑う声。
『で? その自称神様は何がしたかった?』
「知らん。ただ、姉の固有能力の一部になったらしい。今は行き来可能。時々帰ってきては向こうで活動してる」
イレギュラー続き。
そして金欠。
私は正直に言う。
「正直、危ない橋でも渡らないと金が回らない」
『……それは興味深いな』
声色が変わった。
『容子も異世界へ行けるなら、売れそうな物を持ち帰れ。高値で買い取る』
やっぱり言った。
(同じ穴の狢だな)
「試したけど無理だった。扉は開けない」
『抜け道はある。探せ。もし自力で渡れたら——三百万』
「……本気?」
『報酬だ』
金額が現実味を帯びる。
だが現状は無理だ。
「縁切り関係で内職ない? 危なくないやつ」
『琴陵姉妹は二人で一人。片方だけ動くのは効率が悪い。お守り二百個。売上の三割』
来た。
私の縁切り守り。
悪縁も良縁も断つ、諸刃。
一個六千円。
三割で五万四千円。
材料費込みでも五十万は残る。
「納期は?」
『一週間♡』
ハート付けるな。
私は静かに通話を切った。
(やるしかない)
◇
地獄の一週間が始まった。
執筆。
蛇の世話。
日中の仕事。
そして守り制作。
布を裁ち、糸を通し、祈念を書き込み、封印。
深夜二時。
午前三時。
気付けば夜明け。
完成した二百個を見た時、私は床に崩れ落ちた。
「……寝るか」
ベッドへ倒れ込み、意識は即断絶。
◇
爆睡。
復活。
頭がクリアになった私はお茶を求めてリビングへ向かい——
そこに宥子がいた。
「あ、お早う」
「は? 何でいんの?」
反射。
姉の顔がガーンとなる。
「メール見てないの? 時差七時間差って送ったでしょ?」
……あ。
「寝てた」
「サイエス一時間で、日本七時間経過。だから計算して戻ってきたの!」
一日で一週間。
十二時間で三日半。
(兵站計画、修正必要だな)
「最近忙しくてスマホ放置してた」
「変な事に巻き込まれてないよな?」
「久世師匠に仕事振られた。量がエグい。手——」
「無理!」
即答。
「まだ言い終わってない」
「聞いたら連行される」
「楽だからね」
チッと舌打ち。
「私は邪神相手で手一杯!」
「仕方ないなぁ」
不満顔をしたら、グーパン。
痛い。
◇
時差の詳細が判明。
「サイエス一時間=日本3日と4時間ぐらい」
「法則分かれば利用できる」
「計算面倒!」
姉が頭を抱える。
私は肩を叩いた。
「ドンマイ☆」
親指を立てた瞬間、へし折られそうになった。
回避。
◇
「あ、整形外科の予約すっぽかしたでしょ。電話きてた」
「マジ?」
「熱出して寝込んでるって言っといた。今日行け」
「了解。サクラお願い」
桜色のヒールベビースライム——サクラがぷるんと揺れる。
「可愛いからって頬ずり禁止だからね」
私は既に頬ずり済みだが。
「サクラちゃんは任せなさい!」
姉がシャワーへ。
一人と一匹の水音が響く。
私は台所へ立つ。
ご飯、味噌汁、出汁巻き卵。
三点セット。
(簡素だが完璧)
朝食を平らげ、姉は身支度。
「じゃあ宜しく」
「はいはい」
シッシッと追い払う。
姉が微妙な顔で出ていく。
玄関が閉まる音。
静寂。
私はエプロンを締め直した。
(よし)
守りの納品確認。
洗濯物干し。
サクラの観察。
そして——
異世界へ渡る方法の再考。
三百万。
邪神。
時差七倍。
問題は山積みだが。
私は静かに微笑んだ。
「やれる事から、やるだけだ」
家事という名の戦場へ、再出撃。
琴陵家の兵站担当は、今日も忙しい。
静まり返ったリビング。
姉がいないと、家は妙に広い。
(……さて)
私はスマホを取り出し、とある人物へ連絡を入れる。
久世師匠。
私の裏稼業の元締めにして、性格最悪の金の亡者。
コール三回で繋がった。
『容子から連絡とは珍しいね。金は貸さんぞ』
「出会い頭に金の話とは、流石だね」
図星である。
私はため息をつきながら本題を切り出す。
「執筆だけじゃ食えない。仕事回して欲しいんだけど」
沈黙。
通話越しでも分かる、“ほう?”という空気。
『あれだけ嫌がっていたのに。どういう風の吹き回し?』
「姉が異世界の自称神とやらに召喚されて職を失った」
『わぁおう』
軽い。
軽いが、信じている。
この男は幽霊退治で生きてきた人種だ。常識の範囲が壊れている。
『その口ぶりだと、宥子はこちらに戻ってきてる?』
「自称神様との取引で、自分の私有物を異世界でも使えるようにして欲しいって願ったらしい。家も半分あいつ名義。頓智が効いたみたいでね」
『誘拐した側が出入り自由を許すとは。傑作だ』
くつくつ笑う声。
『で? その自称神様は何がしたかった?』
「知らん。ただ、姉の固有能力の一部になったらしい。今は行き来可能。時々帰ってきては向こうで活動してる」
イレギュラー続き。
そして金欠。
私は正直に言う。
「正直、危ない橋でも渡らないと金が回らない」
『……それは興味深いな』
声色が変わった。
『容子も異世界へ行けるなら、売れそうな物を持ち帰れ。高値で買い取る』
やっぱり言った。
(同じ穴の狢だな)
「試したけど無理だった。扉は開けない」
『抜け道はある。探せ。もし自力で渡れたら——三百万』
「……本気?」
『報酬だ』
金額が現実味を帯びる。
だが現状は無理だ。
「縁切り関係で内職ない? 危なくないやつ」
『琴陵姉妹は二人で一人。片方だけ動くのは効率が悪い。お守り二百個。売上の三割』
来た。
私の縁切り守り。
悪縁も良縁も断つ、諸刃。
一個六千円。
三割で五万四千円。
材料費込みでも五十万は残る。
「納期は?」
『一週間♡』
ハート付けるな。
私は静かに通話を切った。
(やるしかない)
◇
地獄の一週間が始まった。
執筆。
蛇の世話。
日中の仕事。
そして守り制作。
布を裁ち、糸を通し、祈念を書き込み、封印。
深夜二時。
午前三時。
気付けば夜明け。
完成した二百個を見た時、私は床に崩れ落ちた。
「……寝るか」
ベッドへ倒れ込み、意識は即断絶。
◇
爆睡。
復活。
頭がクリアになった私はお茶を求めてリビングへ向かい——
そこに宥子がいた。
「あ、お早う」
「は? 何でいんの?」
反射。
姉の顔がガーンとなる。
「メール見てないの? 時差七時間差って送ったでしょ?」
……あ。
「寝てた」
「サイエス一時間で、日本七時間経過。だから計算して戻ってきたの!」
一日で一週間。
十二時間で三日半。
(兵站計画、修正必要だな)
「最近忙しくてスマホ放置してた」
「変な事に巻き込まれてないよな?」
「久世師匠に仕事振られた。量がエグい。手——」
「無理!」
即答。
「まだ言い終わってない」
「聞いたら連行される」
「楽だからね」
チッと舌打ち。
「私は邪神相手で手一杯!」
「仕方ないなぁ」
不満顔をしたら、グーパン。
痛い。
◇
時差の詳細が判明。
「サイエス一時間=日本3日と4時間ぐらい」
「法則分かれば利用できる」
「計算面倒!」
姉が頭を抱える。
私は肩を叩いた。
「ドンマイ☆」
親指を立てた瞬間、へし折られそうになった。
回避。
◇
「あ、整形外科の予約すっぽかしたでしょ。電話きてた」
「マジ?」
「熱出して寝込んでるって言っといた。今日行け」
「了解。サクラお願い」
桜色のヒールベビースライム——サクラがぷるんと揺れる。
「可愛いからって頬ずり禁止だからね」
私は既に頬ずり済みだが。
「サクラちゃんは任せなさい!」
姉がシャワーへ。
一人と一匹の水音が響く。
私は台所へ立つ。
ご飯、味噌汁、出汁巻き卵。
三点セット。
(簡素だが完璧)
朝食を平らげ、姉は身支度。
「じゃあ宜しく」
「はいはい」
シッシッと追い払う。
姉が微妙な顔で出ていく。
玄関が閉まる音。
静寂。
私はエプロンを締め直した。
(よし)
守りの納品確認。
洗濯物干し。
サクラの観察。
そして——
異世界へ渡る方法の再考。
三百万。
邪神。
時差七倍。
問題は山積みだが。
私は静かに微笑んだ。
「やれる事から、やるだけだ」
家事という名の戦場へ、再出撃。
琴陵家の兵站担当は、今日も忙しい。
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