琴陵姉妹の異世界日記

momo

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第一章【終わりの始まり】

第12話 蛇ちゃんズのギャップに泣きました

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 ――世知辛い。実に世知辛い。

 異世界に来てからというもの、女王蜂率いる五百超の大群を撃破したり、ステータスがインフレしたり、スライムに精神的マウントを取られたりと、心が休まる暇がない。

 だが、真の地獄はここからだった。

 「……あんた達、主に向かってその口の利き方は何?」

 ドスの利いた声で呟いたのは宥子ひろこ。その手には、左右それぞれに鷲掴みされた赤白せきはく紅白こうはくがぶら下がっている。まるで干物のように。

 <ちょ、ちょい待てや。首締まっとる締まっとる>

 <暴力反対やで、主様ぁ>

 念話越しに届くのは、相変わらずの関西系おっさんボイス。見た目は愛らしい双色の蛇だというのに、内面が居酒屋の常連客なのはなぜなのか。神様、設計ミスでは?

 「キレイキレイしてあげるねぇ?」

 にこり、と笑った宥子ひろこの背後に、般若の幻影が見えた気がした。

 生活魔法が発動し、透明な水球が蛇ちゃんズを包み込む。泡立つ水の中で二匹はぐるぐると回転し――数秒後、ぴっかぴかに艶を取り戻した。

 「……なんか、光ってない?」

 「鱗の艶が増したね。ついでに消臭もした」

 <おい待てや。ワイらの漢《おとこ》の匂い消すなや>

 <香水くらい用意せぇや。ムスク系な>

 「黙れ」

 ゴン、と鈍い音が響いた。どうやら地面に軽く叩きつけられたらしい。南無。

 私はというと、少し離れた位置でサクラちゃんと並んで正座していた。

 <主様ぁ、蛇さん達ぃ、ちょっとぉ反省した方がぁいいかもぉ?>

 「サクラちゃんだけが癒しだよ……」

 ぷるん、と震えるヒールスライム。そのステータスは私より上。世の理不尽を噛み締めつつ、私は餌袋を取り出した。

 「ほら、ご飯だよ。ミネラルウォーターもあるから」

 <お、マジか。やればできるやん>

 <常温か?キンキンがええで>

 「贅沢言うな!」

 再びゴンッ。

 ……なんだろう。主従関係が逆転してない?

 それでも餌を前にすれば蛇は蛇。二匹はぴたりと大人しくなり、ちろちろと舌を出しながら器用に食事を始めた。

 その様子を見て、私はふと気付く。

 「……あれ? なんか魔力の流れ、変わってない?」

 赤白せきはくの体表を淡い光が走る。次の瞬間、周囲の空気がぴん、と張り詰めた。

 <腹八分やと本気出せへんけどな>

 <まぁ見とけや、たぬ――ぐえっ>

 またもや制裁。

 しかしその直後、森の奥から唸り声が響いた。

 グルルルル……。

 木々を揺らし現れたのは、全長三メートルはあろうかという灰色の狼型モンスター。目は赤く、牙は剥き出し。明らかに今まで轢き殺してきた雑魚とは格が違う。

 「……ボス級?」

 「たぶん中位種。面倒だね」

 私は銃に手を伸ばしかけ――その前に、蛇ちゃんズがするりと前に出た。

 <主様、見とき。ワイらの真価>

 次の瞬間、紅白こうはくの体が一瞬で巨大化した。細い体躯が膨れ上がり、まるで龍の幼体のような姿へと変貌する。

 「は?」

 赤白せきはくも同様に巨大化。双頭のように並び立ち、狼を見下ろす。

 魔力が嵐のように渦巻いた。

 <舐めとったらアカンで>

 閃光。

 次の瞬間、狼は地面に伏していた。焦げた匂いが漂い、ドロップアイテムがぽとりと落ちる。

 ……一瞬。

 本当に、一瞬だった。

 「え、なに今の」

 「チートじゃん」

 私と宥子ひろこは呆然。

 巨大化はすぐに解け、元のサイズに戻った蛇ちゃんズは、さも当然のように餌の続きを始めた。

 <まぁこんなもんや>

 <褒めてもええんやで>

 私はゆっくりと地面に膝をついた。

 「……さっきまで罵倒してたのに」

 「ツンデレにも程がある」

 サクラちゃんがぷるんと震える。

 <主様ぁ、頼もしい仲間ぁ、増えてぇよかったねぇ?>

 ……うん。そうだね。性格はアレだけど、強い。

 私は立ち上がり、蛇ちゃんズを見据えた。

 「今後もその力、ちゃんと使ってよね」

 <報酬次第や>

 <ミネラルウォーター常備な>

 「……はいはい」

 なんだかんだで、私達のパーティーは確実に強くなっている。

 蜂の大群を越え、ステータスを盛り、念話でSAN値を削られ、それでも前に進む。

 数日先の街までの道のりは、まだ長い。

 だけど――。

 電動スクーターにまたがりながら、私は小さく笑った。

 「ま、退屈はしなさそうだよね」

 バイクのエンジン音が唸りを上げる。サクラちゃんは私の肩でぷるぷるし、蛇ちゃんズはハンドルに巻き付いた。

 <スピード出し過ぎんなよ>

 <事故ったら笑うで>

 「縁起でもないこと言うな!」

 青空の下、私達は再び走り出す。

 ――この先に何が待っていようとも。

 少なくとも今は。

 チートで口の悪い仲間達と一緒なら、きっと笑って進める気がしたのだった。
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