琴陵姉妹の異世界日記

momo

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第一章【終わりの始まり】

第13話 やっと家ですよ!!

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 自宅リビングのソファにだらしなく寝転がりながら、私は天井を見上げた。

 ――異世界と現実世界を行ったり来たり。

 改めて考えると、とんでもない状況である。

 玄関だけが宙に浮いていたあの光景を思い出して、私は再びニヤけた。あれ絶対、第三者が見たら都市伝説一直線だよね? 「○○市の住宅街に現れる異界の扉!」とかSNSで拡散不可避案件である。

 「笑ってるところ悪いけど、魔物素材の仕分け終わったら風呂入るから。先入る?」

 テーブルいっぱいに広げられたドロップ品を、慣れた手付きで分類していく宥子ひろこは完全に主婦の顔だった。いや、主婦というより熟練の商人か。

 「どうぞどうぞ。私はサクラちゃんと蛇ちゃんズのメンテする」

 ショルダーバッグから取り出されたサクラちゃんは、我が家のラグの上でぷるぷると震え、どこか安心したように光っている。

 <ここぉ、主様の匂いぃ、いっぱいだねぇ>

 「でしょ~? ここが私の城なのだよ」

 虫かごの中でとぐろを巻く赤白せきはく紅白こうはくは、キョロキョロと室内を見回していた。

 <なんや、思ったより普通やな>

 <もっと金ピカの城か思たわ>

 「期待値どうなってんの?」

 庶民派木造二階建てに夢を見るな。

 私は虫かごの蓋を開け、二匹をそっと畳の上に出してやる。すると、するりと移動してテレビ台の裏へ。

 「ちょ、待て待て待て! そこホコリあるから!」

 <ワイら蛇やぞ。ホコリくらい平気や>

 <てか掃除せぇや>

 「ぐはっ」

 まさかの生活指導。

 その時、脱衣所から宥子ひろこの声が飛んできた。

 「容子まさこー! スマホの充電確認しといて! 向こうで電池切れたら洒落にならないから!」

 「はーい」

 返事をしつつ、私は自分のスマホを確認する。通知は山のように溜まっていた。未読メール、LINE、広告、クレカの利用通知……。

 ――ああ、現実だ。

 だがその現実の端末が、異世界でも使えるという事実は革命的である。

 「ふふふ……」

 私はこっそりと机の引き出しから、小さなポーチを取り出した。

 中には、今日くすね……いや、確保しておいた魔石が数個。

 淡く光るそれは、宝石にも似ているが、どこか内側に魔力の渦を抱えている。

 「これを細工師スキルで加工して……指輪とかネックレスにしたら、絶対バカ売れじゃない?」

 <金儲けの匂いがするぅ>

 サクラちゃんがぷるんと揺れる。

 「異世界×現実世界のハイブリッドビジネス……くくく」

 <悪い顔しとるで>

 背後から紅白こうはくが冷静にツッコむ。

 「うるさいな! 軍資金は大事なんだよ!」

 特に、久世師匠くせ せんせいへの報告で三百万をゲットする未来を想像すると、頬が緩むのを止められない。

 異世界渡航成功の証明。

 魔石の現物提示。

 理論の裏付け。

 プレゼン資料作らなきゃ。

 「……忙しくない?」

 ぽつりと呟く。

 異世界ではレベル上げ、スキル取得、モンスター討伐。

 現実では金策、報告、日常生活。

 二重生活どころじゃない。三重四重だ。

 風呂上がりの宥子ひろこが、タオルで髪を拭きながらリビングに戻ってきた。

 「何ニヤニヤしてるの」

 「将来設計」

 「ろくでもなさそう」

 即答やめろ。

 彼女はソファに腰を下ろし、真面目な顔になる。

 「セブール、多分揉める」

 その一言で、空気が少しだけ変わった。

 セブール。

 異世界側の街。

 原付で行くと言っていたが、2~3週間空ける可能性があるということは、それなりの案件だろう。

 「危なくなったら、即帰還してよ」

 「分かってる。最悪、家出して帰る」

 “家出”のスケールがおかしい。

 私は立ち上がり、冷蔵庫からスポーツドリンクを二本取り出し、一本を宥子ひろこに投げた。

 「死なないでね」

 「当たり前でしょ。蜂五百匹生き延びたんだよ?」

 確かに。

 女王蜂含め五百三十四匹。

 あれを越えた私達だ。

 簡単に詰むとは思えない。

 「私はこっちで蛇ちゃんズとレベル上げしとく。あとアクセサリー試作」

 「売る気満々じゃん」

 「当然」

 にやり、と笑い合う。

 サクラちゃんが、二人の間にぴょん、と跳ねた。

 <主様達ぁ、なんかぁ楽しそうぅ>

 「楽しいよ」

 異世界と現実。

 命懸けと日常。

 その境界を自由に行き来できるなんて、きっととんでもない幸運だ。

 ……運ステータスはスライムに負けてるけど。

 その夜、私はベッドに寝転がりながら天井を見つめた。

 明日は別行動。

 少しだけ、不安。

 だけど。

 スマホも、念話も、アイテムボックスもある。

 繋がる手段は、いくらでもある。

 「よし」

 私は小さく拳を握る。

 異世界生活、第二章。

 今度は――私が主役になる番だ。
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