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第24話 元聖女、パーティーに入る
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少し早く来すぎたかもしれない、などと思いながら、セーナは早朝の冒険者ギルドを眺めた。
いつも以上に人の気配は乏しく、周囲にすら人影は少ない。
まだ多くの人が活動する前の時間帯であることを考えれば、当然のことではあるが。
さすがにエルザもまだ来てはいないだろう。
それを理解していながらも早く来てしまったのは、単に早くに目が覚めてしまったのと……目が冴えてしまい、それ以上寝ていられなかったからだ。
どうやら自分で思っていた以上に、誰かと共に行動するということに飢えていたらしい。
だがそのことを自覚しているからこそ、セーナは一度大きく深呼吸をした。
これから遊びに行くわけではないのだ。
失望させるわけにはいくまいと、気を引き締める。
「まあとはいえ、気を引き締めたところでしばらく待機なんですが」
エルザはどのぐらいの時間に来るつもりだろうか、と考えながら一先ずギルドの中に入って待つべく扉を開け――視界に映った光景に目を瞬いた。
ギルド職員以外にいないだろうと思っていたそこに、他の人影があったからだ。
自分と同じ年頃に見える少女が二人に、ローブを纏いフードを目深に被った人物が一人。
顔が見えないので断言は出来ないものの、おそらくはエルザであった。
しかしそこで首を傾げたのは、もう来ているとは思っていなかったということもあるが、それ以上にそのすぐ近くにいる二人の少女は誰だろうと思ったからだ。
距離の取り方や立ち位置などから考えるに、まさか偶然同じ場所にいるということはあるまい。
まあ、考えても分かることではないし、本人に聞けばいい話だ。
そのまま近寄っていくと、セーナは口を開いた。
「おはようございます、エルザさん。すみません、お待たせしてしまったみたいで」
「……ええ、おはよう。別にいいわよ、単にあたし達が早く来すぎただけだし。っていうか、あんたも十分早いじゃない」
「えっと、まあ、偶然早くに目が覚めてしまいまして。それよりも、今、達、と言いましたよね?」
ということは、やはり偶然一緒にいるわけではなく、しかも文脈から判断するに意図があって共に来たということだ。
まあ何となく関係性の予想は付くものの――
「……まあ、多分大体考えてる通りでしょうね。紹介するわ。あたしのパーティーメンバーのユリアとヘレーネよ」
予想通りの相手にやはりと思いつつも、紹介と言われながらも、その二人からの挨拶はなかった。
というか、二人がセーナに向けてきている目は、どう見ても友好的とは言い難いものである。
いや、それどころか、まるで敵を見ているかのような冷たい目であった。
エルザのパーティーメンバーということは、セーナともパーティーメンバーとなる可能性のある人達だということで、それを考えれば見定めようとしているのかもしれないが……それにしては、少し負の方向に傾きすぎているような気がする。
とはいえ、この二人とは会うのは初めてだ。
街中ですれ違ったことすらないだろう。
そう言ってしまえるのは、二人が纏っている雰囲気が独特のものだからであった。
二人はエルザを挟んで左右に立っているのだが、そのうちの右隣の方はそこにいるだけで目を引くほどの存在感を放っている。
黒髪が印象的なその姿は、見た目だけはセーナと同年代のように見えるのに、纏っている雰囲気が熟練のそれだ。
セーナの知っている中で最も近いのは、上の姉であるアルマだが……それも、あくまでも近いだけである。
おそらく並べば、姉ですらその存在感を塗り潰されてしまうだろう。
それほどの存在感を持つ人物であった。
そしてエルザの左隣に立つ人物は、それとは真逆だ。
水色の髪を持ち平坦な表情を浮かべているその姿は、奇妙なほどに印象が薄いのである。
まるでそこに誰もいないようであり……だがだからこそ、目立つ。
あまりにも希薄すぎて、逆に浮いてしまうのだ。
こんな二人を目にしたら忘れるわけがなく……必然的に恨みなども買っていないはずである。
いや、巡り巡ってということであれば有り得なくはないが……まあ、どんな目で見られていようとも、とりあえずは挨拶をすべきだろう。
「えっと……初めて、セーナです。……その?」
こちらから挨拶しても当然のように反応はなく、どうしたものか迷った末にエルザへと視線を向けた。
それで、結局のところこれはどういう意図があることなのか。
向けた視線からそんなセーナの心中を察したのか、エルザは小さく息を吐き出すとその口を開いた。
「予定を変更して、パーティーでの行動を見て……いえ、一緒に行動してもらおうと思ったのよ。二人に来てもらったのは、そういうわけ。あんたも早めにこっちのパーティーがどういうものか確認が出来て、一石二鳥でしょ」
「……昨日の予定では、それはエルザさんがいつもやってることを確認した後で、という話ではありませんでしたか?」
「そうなんだけど……考えてみたら、あたしのいつもってのは、パーティーでの行動になるのよね。あたし一人で何をしたところで、逆にそれはいつも通りにはならない気がしたのよ」
「……なるほど?」
一理あると言えば一理ある話ではあった。
少なくとも、矛盾などはない。
だが何となく取り繕っているように見えるのは気のせいだろうか。
というか、昨日よりもエルザの声と態度が硬い気もするのだが……昨日の話をパーティーの間でしたら何かがあったのかもしれない。
まあ何にせよ、問題があるかと言えば特にはない。
昨日少しの間とはいえ一緒にいて、少なくともエルザは悪い人ではないのだろうと思っているからだ。
猫被りをされていたら分からないが、その疑念は何をしたところで一日や二日程度で消えてなくなることはないだろう。
である以上は、断る理由はなかった。
「分かりました。わたしは構いませんから、問題ないかと思います」
「……そ。ってわけだけど?」
「ボクの意見は既に言った通りだよ。それで良いっていうなら、ボクは異論はないさ。その方が手っ取り早いのは確かだしね」
「同感。早く終わらせるべき」
どちらがユリアでどちらがヘレーネなのかは分からないが、とりあえず二人とも異論はないようだ。
もっとも、異論があるのならば最初から付いてきていないとは思うのだが……不思議なやり取りに首を傾げていると、エルザが言葉を続けた。
「じゃ、そういうわけで、これからあたし達と一緒に行動してもらうわけだけど……ところであんた、迷宮って知ってる?」
「え? それはもちろん知っていますが……」
迷宮とは、何時如何なる者が作ったのかは判明していない、不可思議な遺跡のことである。
そこでしか手に入れることの出来ない物も多く、その最たる物が魔石だろう。
迷宮には魔物も出てくるのだが、その魔物を上手く倒すと魔石と呼ばれるものを落とすのである。
魔石とは言ってしまえば燃料であり、しかも高品質で低燃費な代物だ。
これを利用したランプは油を使ったものより何倍も明るく、また何倍も長持ちする上、危険はないというのだから、その重要性がよく分かるというものである。
他にも希少な鉱物や植物が見つかることもあり、一攫千金を目指すのであれば迷宮に潜るのが最も可能性が高いとまで言われるほどだ。
だが、同時に非常に危険な場所でもある。
単純に言ってしまえば、迷宮に出てくる魔物の方が外にいる魔物よりも強いのだ。
しかも、迷宮は奥深くへと繋がっており、現在その果てに辿り着いた者は一人もいないという。
奥に向かえば向かうほど魔物が強力になることもあり、死亡率も高い。
迷宮はこの世界に幾つか存在しているらしいが、その全てが国や冒険者ギルドによって管理され、資格を持たない者は入れないようになっている。
冒険者であれば自動的にその資格を持っているとみなされるが、迷宮ごとに推奨ランクが設定されており、余程無謀な者か腕に自信のある者でなければ、そのランクに達する前に行こうとはしないはずだ。
この街の近くにも迷宮はあるが、その危険度は高く、潜るのはDランク以上が推奨とされているはずだが――
「えっと……話の流れからしますと、もしかして今日行く場所というのは……?」
「察しがいいわね。ええ、迷宮ってわけよ」
あっけらかんと放たれた言葉に、反射的に思ったのは無謀という言葉だ。
だが堂々と立つその姿からは、自信が溢れているように感じられた。
決して過信には見えず、根拠ならばこの姿で十分だろうとでも言わんばかりである。
両脇の二人も同様であり、そこに疑問を挟むのは、きっと何よりも侮辱だ。
だがそれだけでは不安は拭いきれず、セーナは大丈夫なのかという言葉を飲み込む代わりに、別の不安を口にした。
「その、正直なところわたしも迷宮には興味がありますし、行けるのであればむしろ望むところではあります。ですが、行くことになるにしてもまだ先だろうと思っていたため、何の準備もしていないのですが……見ての通りの軽装ですし」
迷宮に興味があるのも、行けるのならば行きたいというのも本音だ。
迷宮で得たものはギルドでの換金が可能であり、その扱いは薬草や魔物の素材と同じなのである。
つまりは、ギルドへの貢献であり、冒険者としての実績となるのだ。
単純に迷宮の奥に進むだけでも実績になるし、その度合いは採集依頼や魔物討伐を行うよりも高い。
上のランクに早く上がれるということであり、そういうわけでセーナは出来れば行きたいと思っていたのだ。
が、先に述べたように、この街の近くにある迷宮はDランク推奨である。
Fランクのうちに行くことになるなど思うわけがなく、しばらく採集依頼を続けるつもりだったこともあり、まだ防具すらも揃えてはいない。
この状況で迷宮に行くのは、さすがに無謀どころではないだろう。
と、思ったのだが――
「そう……別にその程度なら問題ないわ」
「え? いえいえ、問題ありますよね? さすがに危険だと思いますし……何より、足を引っ張ってしまうでしょうし……」
自分の危険もそうだが、何よりも彼女達の足を確実に引っ張ってしまうことの方が問題だろう。
まあ傷ついたら癒せるので差し引きゼロとなるかもしれないが……パーティーとはそういうものではあるまい。
少なくとも、足を引っ張ることが分かっていながらそのままでいるというのは違うはずだ。
「言ったでしょ? だから、別に問題ないわよ。足を引っ張ったって構わないし、その程度のことであたし達はどうともならない。そもそもこの三人だけで迷宮に行くには十分だと思っていたもの。っていうか、そもそもあたし達の目的は最初から迷宮に行くことにあるのよ。そのためにパーティーを作ったし、そのために集まった。ギルドから、Fランクじゃせめて四人はいなくちゃ許可は出せないとか言われたからもう一人探したけど……正直言って誰でもよかったのね」
「まあ正直にそう言って探してたらお断りされまくっちゃったから、こうして今回は趣向を変えたわけだけどね」
「うっさいわね。混ぜっかえすんじゃないわよ。ま、だからそういうことだってわけ。有能であるならそれに越したことはなかったけど、あんたはただの数合わせなのよ。あんたが何したところであたし達が死ぬようなことはないわ。ああそれと、もちろんだからといってあんたを見捨てるってこともないわよ? ちゃんと死なないように守ってあげるわ」
「……その話を、何故今したんですか? 趣向を変えたというのでしたら、せめてそこまで言う必要はなかったと思うのですが」
それは純粋な疑問であった。
エルザの言うことがその通りだとしても、ここで明かす必要はない。
言い方は悪いが、彼女達が本当に望む人が見つかるまで、セーナのことを騙していたところで問題はなかったはずなのだ。
「あんたが納得しそうにないから、面倒になってぶっちゃけたってだけよ。少なくともこれで余計な問答は必要なくなったでしょ?」
「その代わり、また迷宮に行けない可能性が出てきた。正直悪手」
「だからうっさいわよ! 邪魔すんじゃないわよあんた達! ま、とにかくそういうわけで……今の話を聞いて嫌だって言うんなら別にそれでもいいわよ。あたし達は次を探すだけだし」
「……いえ、分かりました。行きます」
「……へえ。ここまで言われてもやめないなんて、あんた物好きなのね」
「むしろそこまで言われたからこそ、引き下がれません。ただの数合わせではなく、足を引っ張るだけでもなく、しっかり役立つところをお見せしてみせますよ!」
セーナにだって、プライドの一つや二つあるのだ。
つまりエルザは昨日のセーナを見て数合わせ程度にしかならないと判断したのだろう。
だからぶっちゃけたのだ。
いや、昨日の様子から考えればそう思われても仕方ないような気もするが……それはそれである。
採集以外にも出来ることがあるのだということを、ちゃんと示してみせようではないか。
あとは……単純に気になるということもある。
多分エルザの言っていることは本音は本音に違いないのだろうが……それでも、やはり何となく昨日とは受ける印象が違う気がするのだ。
それは何故なのか気になり、確かめるためでもあった。
「……そ、なら期待しないでおくわ。ああ、そうそう、そこまで言うんなら一応確認しとくんだけど……あんたのクラスは?」
「わたしは治癒士です。ですから、怪我をしたりした時は任せてくださいね!」
本当は誰も怪我しないのが一番ではあるのだが、誰かが怪我しないと力が示せないのだから仕方があるまい。
そう思いつつ……ふと首を傾げたのは、三人が自分を見る目が僅かに変わったように見えたからだ。
ただしそれは、望ましい方向ではなく、冷たく、蔑みのようなものが含まれているものではあったが。
やはり誰かが傷つくことを望むような言葉を言ったのはまずかったのだろうか……と思いながらも、さらに首を傾げたのは、何となくその目に見覚えがあるような気がしたからだ。
最近というわけではなく、かといってずっと昔というわけでもないはずだが――
「……ああ、なるほど。あの時の、ですか」
不意に思い至り、口の中だけで言葉を転がす。
それは、セーナが冒険者になった日、冒険者の登録用紙を差し出した直後に受付嬢から向けられた目に似ていたのであった。
ただ疑問なのは、何故今その目を向けられたのか、ということである。
最初からそうであったのならば分かるのだが……まあ、考えても分かるものではないか。
どの道セーナに出来ることは、自分は役に立つのだということを示すことだけである。
その目がどんな意味を秘めたものなのだとしても、セーナがしっかり役立つということを理解すれば、きっと何かが変わるはずだ。
もっとも、これは半ば意地の話になるので、その後彼女達とパーティーを組むことになるかは分からないが……一先ずそれは後回しである。
セーナはまだ彼女達がどういう人達なのかも分かっていないのだ。
どうしてそんな目でセーナのことも見るのかも、エルザの態度の意味も、何も。
何をどうするにしても、まずはそれらを知って、理解してからの話だ。
だから、それらを知るためにも、セーナはエルザ達に挑むかの如く、真っ直ぐ見つめ返すのであった。
いつも以上に人の気配は乏しく、周囲にすら人影は少ない。
まだ多くの人が活動する前の時間帯であることを考えれば、当然のことではあるが。
さすがにエルザもまだ来てはいないだろう。
それを理解していながらも早く来てしまったのは、単に早くに目が覚めてしまったのと……目が冴えてしまい、それ以上寝ていられなかったからだ。
どうやら自分で思っていた以上に、誰かと共に行動するということに飢えていたらしい。
だがそのことを自覚しているからこそ、セーナは一度大きく深呼吸をした。
これから遊びに行くわけではないのだ。
失望させるわけにはいくまいと、気を引き締める。
「まあとはいえ、気を引き締めたところでしばらく待機なんですが」
エルザはどのぐらいの時間に来るつもりだろうか、と考えながら一先ずギルドの中に入って待つべく扉を開け――視界に映った光景に目を瞬いた。
ギルド職員以外にいないだろうと思っていたそこに、他の人影があったからだ。
自分と同じ年頃に見える少女が二人に、ローブを纏いフードを目深に被った人物が一人。
顔が見えないので断言は出来ないものの、おそらくはエルザであった。
しかしそこで首を傾げたのは、もう来ているとは思っていなかったということもあるが、それ以上にそのすぐ近くにいる二人の少女は誰だろうと思ったからだ。
距離の取り方や立ち位置などから考えるに、まさか偶然同じ場所にいるということはあるまい。
まあ、考えても分かることではないし、本人に聞けばいい話だ。
そのまま近寄っていくと、セーナは口を開いた。
「おはようございます、エルザさん。すみません、お待たせしてしまったみたいで」
「……ええ、おはよう。別にいいわよ、単にあたし達が早く来すぎただけだし。っていうか、あんたも十分早いじゃない」
「えっと、まあ、偶然早くに目が覚めてしまいまして。それよりも、今、達、と言いましたよね?」
ということは、やはり偶然一緒にいるわけではなく、しかも文脈から判断するに意図があって共に来たということだ。
まあ何となく関係性の予想は付くものの――
「……まあ、多分大体考えてる通りでしょうね。紹介するわ。あたしのパーティーメンバーのユリアとヘレーネよ」
予想通りの相手にやはりと思いつつも、紹介と言われながらも、その二人からの挨拶はなかった。
というか、二人がセーナに向けてきている目は、どう見ても友好的とは言い難いものである。
いや、それどころか、まるで敵を見ているかのような冷たい目であった。
エルザのパーティーメンバーということは、セーナともパーティーメンバーとなる可能性のある人達だということで、それを考えれば見定めようとしているのかもしれないが……それにしては、少し負の方向に傾きすぎているような気がする。
とはいえ、この二人とは会うのは初めてだ。
街中ですれ違ったことすらないだろう。
そう言ってしまえるのは、二人が纏っている雰囲気が独特のものだからであった。
二人はエルザを挟んで左右に立っているのだが、そのうちの右隣の方はそこにいるだけで目を引くほどの存在感を放っている。
黒髪が印象的なその姿は、見た目だけはセーナと同年代のように見えるのに、纏っている雰囲気が熟練のそれだ。
セーナの知っている中で最も近いのは、上の姉であるアルマだが……それも、あくまでも近いだけである。
おそらく並べば、姉ですらその存在感を塗り潰されてしまうだろう。
それほどの存在感を持つ人物であった。
そしてエルザの左隣に立つ人物は、それとは真逆だ。
水色の髪を持ち平坦な表情を浮かべているその姿は、奇妙なほどに印象が薄いのである。
まるでそこに誰もいないようであり……だがだからこそ、目立つ。
あまりにも希薄すぎて、逆に浮いてしまうのだ。
こんな二人を目にしたら忘れるわけがなく……必然的に恨みなども買っていないはずである。
いや、巡り巡ってということであれば有り得なくはないが……まあ、どんな目で見られていようとも、とりあえずは挨拶をすべきだろう。
「えっと……初めて、セーナです。……その?」
こちらから挨拶しても当然のように反応はなく、どうしたものか迷った末にエルザへと視線を向けた。
それで、結局のところこれはどういう意図があることなのか。
向けた視線からそんなセーナの心中を察したのか、エルザは小さく息を吐き出すとその口を開いた。
「予定を変更して、パーティーでの行動を見て……いえ、一緒に行動してもらおうと思ったのよ。二人に来てもらったのは、そういうわけ。あんたも早めにこっちのパーティーがどういうものか確認が出来て、一石二鳥でしょ」
「……昨日の予定では、それはエルザさんがいつもやってることを確認した後で、という話ではありませんでしたか?」
「そうなんだけど……考えてみたら、あたしのいつもってのは、パーティーでの行動になるのよね。あたし一人で何をしたところで、逆にそれはいつも通りにはならない気がしたのよ」
「……なるほど?」
一理あると言えば一理ある話ではあった。
少なくとも、矛盾などはない。
だが何となく取り繕っているように見えるのは気のせいだろうか。
というか、昨日よりもエルザの声と態度が硬い気もするのだが……昨日の話をパーティーの間でしたら何かがあったのかもしれない。
まあ何にせよ、問題があるかと言えば特にはない。
昨日少しの間とはいえ一緒にいて、少なくともエルザは悪い人ではないのだろうと思っているからだ。
猫被りをされていたら分からないが、その疑念は何をしたところで一日や二日程度で消えてなくなることはないだろう。
である以上は、断る理由はなかった。
「分かりました。わたしは構いませんから、問題ないかと思います」
「……そ。ってわけだけど?」
「ボクの意見は既に言った通りだよ。それで良いっていうなら、ボクは異論はないさ。その方が手っ取り早いのは確かだしね」
「同感。早く終わらせるべき」
どちらがユリアでどちらがヘレーネなのかは分からないが、とりあえず二人とも異論はないようだ。
もっとも、異論があるのならば最初から付いてきていないとは思うのだが……不思議なやり取りに首を傾げていると、エルザが言葉を続けた。
「じゃ、そういうわけで、これからあたし達と一緒に行動してもらうわけだけど……ところであんた、迷宮って知ってる?」
「え? それはもちろん知っていますが……」
迷宮とは、何時如何なる者が作ったのかは判明していない、不可思議な遺跡のことである。
そこでしか手に入れることの出来ない物も多く、その最たる物が魔石だろう。
迷宮には魔物も出てくるのだが、その魔物を上手く倒すと魔石と呼ばれるものを落とすのである。
魔石とは言ってしまえば燃料であり、しかも高品質で低燃費な代物だ。
これを利用したランプは油を使ったものより何倍も明るく、また何倍も長持ちする上、危険はないというのだから、その重要性がよく分かるというものである。
他にも希少な鉱物や植物が見つかることもあり、一攫千金を目指すのであれば迷宮に潜るのが最も可能性が高いとまで言われるほどだ。
だが、同時に非常に危険な場所でもある。
単純に言ってしまえば、迷宮に出てくる魔物の方が外にいる魔物よりも強いのだ。
しかも、迷宮は奥深くへと繋がっており、現在その果てに辿り着いた者は一人もいないという。
奥に向かえば向かうほど魔物が強力になることもあり、死亡率も高い。
迷宮はこの世界に幾つか存在しているらしいが、その全てが国や冒険者ギルドによって管理され、資格を持たない者は入れないようになっている。
冒険者であれば自動的にその資格を持っているとみなされるが、迷宮ごとに推奨ランクが設定されており、余程無謀な者か腕に自信のある者でなければ、そのランクに達する前に行こうとはしないはずだ。
この街の近くにも迷宮はあるが、その危険度は高く、潜るのはDランク以上が推奨とされているはずだが――
「えっと……話の流れからしますと、もしかして今日行く場所というのは……?」
「察しがいいわね。ええ、迷宮ってわけよ」
あっけらかんと放たれた言葉に、反射的に思ったのは無謀という言葉だ。
だが堂々と立つその姿からは、自信が溢れているように感じられた。
決して過信には見えず、根拠ならばこの姿で十分だろうとでも言わんばかりである。
両脇の二人も同様であり、そこに疑問を挟むのは、きっと何よりも侮辱だ。
だがそれだけでは不安は拭いきれず、セーナは大丈夫なのかという言葉を飲み込む代わりに、別の不安を口にした。
「その、正直なところわたしも迷宮には興味がありますし、行けるのであればむしろ望むところではあります。ですが、行くことになるにしてもまだ先だろうと思っていたため、何の準備もしていないのですが……見ての通りの軽装ですし」
迷宮に興味があるのも、行けるのならば行きたいというのも本音だ。
迷宮で得たものはギルドでの換金が可能であり、その扱いは薬草や魔物の素材と同じなのである。
つまりは、ギルドへの貢献であり、冒険者としての実績となるのだ。
単純に迷宮の奥に進むだけでも実績になるし、その度合いは採集依頼や魔物討伐を行うよりも高い。
上のランクに早く上がれるということであり、そういうわけでセーナは出来れば行きたいと思っていたのだ。
が、先に述べたように、この街の近くにある迷宮はDランク推奨である。
Fランクのうちに行くことになるなど思うわけがなく、しばらく採集依頼を続けるつもりだったこともあり、まだ防具すらも揃えてはいない。
この状況で迷宮に行くのは、さすがに無謀どころではないだろう。
と、思ったのだが――
「そう……別にその程度なら問題ないわ」
「え? いえいえ、問題ありますよね? さすがに危険だと思いますし……何より、足を引っ張ってしまうでしょうし……」
自分の危険もそうだが、何よりも彼女達の足を確実に引っ張ってしまうことの方が問題だろう。
まあ傷ついたら癒せるので差し引きゼロとなるかもしれないが……パーティーとはそういうものではあるまい。
少なくとも、足を引っ張ることが分かっていながらそのままでいるというのは違うはずだ。
「言ったでしょ? だから、別に問題ないわよ。足を引っ張ったって構わないし、その程度のことであたし達はどうともならない。そもそもこの三人だけで迷宮に行くには十分だと思っていたもの。っていうか、そもそもあたし達の目的は最初から迷宮に行くことにあるのよ。そのためにパーティーを作ったし、そのために集まった。ギルドから、Fランクじゃせめて四人はいなくちゃ許可は出せないとか言われたからもう一人探したけど……正直言って誰でもよかったのね」
「まあ正直にそう言って探してたらお断りされまくっちゃったから、こうして今回は趣向を変えたわけだけどね」
「うっさいわね。混ぜっかえすんじゃないわよ。ま、だからそういうことだってわけ。有能であるならそれに越したことはなかったけど、あんたはただの数合わせなのよ。あんたが何したところであたし達が死ぬようなことはないわ。ああそれと、もちろんだからといってあんたを見捨てるってこともないわよ? ちゃんと死なないように守ってあげるわ」
「……その話を、何故今したんですか? 趣向を変えたというのでしたら、せめてそこまで言う必要はなかったと思うのですが」
それは純粋な疑問であった。
エルザの言うことがその通りだとしても、ここで明かす必要はない。
言い方は悪いが、彼女達が本当に望む人が見つかるまで、セーナのことを騙していたところで問題はなかったはずなのだ。
「あんたが納得しそうにないから、面倒になってぶっちゃけたってだけよ。少なくともこれで余計な問答は必要なくなったでしょ?」
「その代わり、また迷宮に行けない可能性が出てきた。正直悪手」
「だからうっさいわよ! 邪魔すんじゃないわよあんた達! ま、とにかくそういうわけで……今の話を聞いて嫌だって言うんなら別にそれでもいいわよ。あたし達は次を探すだけだし」
「……いえ、分かりました。行きます」
「……へえ。ここまで言われてもやめないなんて、あんた物好きなのね」
「むしろそこまで言われたからこそ、引き下がれません。ただの数合わせではなく、足を引っ張るだけでもなく、しっかり役立つところをお見せしてみせますよ!」
セーナにだって、プライドの一つや二つあるのだ。
つまりエルザは昨日のセーナを見て数合わせ程度にしかならないと判断したのだろう。
だからぶっちゃけたのだ。
いや、昨日の様子から考えればそう思われても仕方ないような気もするが……それはそれである。
採集以外にも出来ることがあるのだということを、ちゃんと示してみせようではないか。
あとは……単純に気になるということもある。
多分エルザの言っていることは本音は本音に違いないのだろうが……それでも、やはり何となく昨日とは受ける印象が違う気がするのだ。
それは何故なのか気になり、確かめるためでもあった。
「……そ、なら期待しないでおくわ。ああ、そうそう、そこまで言うんなら一応確認しとくんだけど……あんたのクラスは?」
「わたしは治癒士です。ですから、怪我をしたりした時は任せてくださいね!」
本当は誰も怪我しないのが一番ではあるのだが、誰かが怪我しないと力が示せないのだから仕方があるまい。
そう思いつつ……ふと首を傾げたのは、三人が自分を見る目が僅かに変わったように見えたからだ。
ただしそれは、望ましい方向ではなく、冷たく、蔑みのようなものが含まれているものではあったが。
やはり誰かが傷つくことを望むような言葉を言ったのはまずかったのだろうか……と思いながらも、さらに首を傾げたのは、何となくその目に見覚えがあるような気がしたからだ。
最近というわけではなく、かといってずっと昔というわけでもないはずだが――
「……ああ、なるほど。あの時の、ですか」
不意に思い至り、口の中だけで言葉を転がす。
それは、セーナが冒険者になった日、冒険者の登録用紙を差し出した直後に受付嬢から向けられた目に似ていたのであった。
ただ疑問なのは、何故今その目を向けられたのか、ということである。
最初からそうであったのならば分かるのだが……まあ、考えても分かるものではないか。
どの道セーナに出来ることは、自分は役に立つのだということを示すことだけである。
その目がどんな意味を秘めたものなのだとしても、セーナがしっかり役立つということを理解すれば、きっと何かが変わるはずだ。
もっとも、これは半ば意地の話になるので、その後彼女達とパーティーを組むことになるかは分からないが……一先ずそれは後回しである。
セーナはまだ彼女達がどういう人達なのかも分かっていないのだ。
どうしてそんな目でセーナのことも見るのかも、エルザの態度の意味も、何も。
何をどうするにしても、まずはそれらを知って、理解してからの話だ。
だから、それらを知るためにも、セーナはエルザ達に挑むかの如く、真っ直ぐ見つめ返すのであった。
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白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
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