老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

第337話 人、竜と戦う

「ハァッ！」
「デランザ！」
【問題ない……！】

　ディラン達が追い付いたころ、ボルカノやドガーラや黒竜と戦闘を続けていた。
　空を飛ぶドガーラに対し、ウェリス達三人はデランザの背中に乗って攻撃を仕掛けていた。
　ドガーラの火球をデランザが急上昇をして回避し、続けて急降下をする。

「でりゃぁぁぁ！」
「甘いな！」
「こっちは六回攻撃なのよね！　＜フリーズランサー＞！」
「ゴガァァァ！」

　接敵した瞬間、デランザの頭の方へ移動していたウェリスの剣がドガーラを狙う。
　慣れない空での戦いのため大振りになったその攻撃を、ドガーラが回避した。
　だが、デランザの背にはシスにバルド、そして蛇とヤギの頭もついているため、最大六回の同時攻撃が可能なのだ。
　ヤギの口から炎が吐き出され、蛇が腕に絡みつく。シスの魔法が放たれ、バルドが蛇を伝って駆け出していった。

「ぬうん！」
「チッ……！　人間風情が！」
「ダメージは通るようだな。爺さんに感謝したいところだ」

　フリーズランサーで目くらましを食らったドガーラは、バルドの接近を許していた。彼は大剣を蛇に絡まれた腕の肩に振り下ろすと、刃が肩に食い込む。
　
「首を貰おうか」
「ぬかせ！」
「なんの……！　ぐぬ！？」
「シャァァ……！」

　続けて首を狙ったが空いた腕に振り払われてバルドは蛇の身体から落ちる。
　すぐに蛇は絡ませていた身体を腕から離して、バルドを回収すると背中へと戻った。

「やっぱりドラゴンは強いわね」
「ったく面倒くさいこった。だが、あのディラン爺さんほどの脅威は感じねえな」
【そうだな。やはりディラン殿はドラゴンの中でも上位の強さを持つと思う】
「……貴様等！　このドガーラを前に吠えたな！」
「うお！？　避けろデランザ！」
【当然だ！】

　大したことが無い。
　そう言われたドガーラは怒りを露わにし、角から雷を出す。
　デランザがひらりと回転しながらそれを回避する。

「きゃあ！？」
「うおわ！？　落ちるだろうが！？」
【しっかり掴まっていろ！　食らえ！】
「なに……！　ハァッ！！」
　
　回転しながら回避したので背中に乗っていたウェリスたちがさかさまになり落ちそうになった。
　しかしそこは蛇とヤギがフォローし、デランザはそのまま口から猛毒ブレスを吐き出す。

【やるな。しかし少しでも効果はあるのだぞ】
「鼻が……ふん、これくらいどうとでもなる。落ちろ……！！」
【そう簡単にさせると思うな。近づきさえすれば、それこそどうとでもなるのだ】
「＜ウインドガード＞！　これである程度逸らせるはずよ、デランザ突っ込んで！」
【承知した！】
「目障りな奴等だ、そろそろ死ぬがいい！」

　角から出る雷撃を避けながらデランザはドガーラの周囲を飛び回り隙を伺う。
　強者の余裕からか、足を止めて戦っているドガーラに比べてデランザは小回りが利き、手数も多い。
　ヒットアンドアウェイを繰り返していき、ウェリスとバルド、そしてデランザの攻撃で少しずつ、そして確実にダメージを与えていた。
　
「ガァァァァ！」
【……！　ガッ……！？】
「デランザぁ！！」

　猛るドガーラの一撃がデランザの顔面に直撃した顔の左半分が爪で切り裂かれ血しぶきを上げた。
　ウェリスが叫ぶも、デランザはそのままドガーラの顔のブレスを浴びせ、首に噛みついた。

「こいつ……！」
【構うな！　いけ！】
「おお！」
「とどめだ！」

　蛇の身体が橋渡しの役目を果たし、ウェリスが駆け出して行く。その後をバルドが追う。
　左腕でウェリスを落とそうとするが、その腕はバルドが切り払った。

「ぐ……！？　何故こうも容易く……！　その武器は一体なんだ……！」
「へっ、やたらと強いジジイドラゴンの爪で作った武器だぜ！　なんでドラゴン同士で争っているのか知らねえが、黒いドラゴン……特に赤黒いやつは俺の仇でな。それに属するんだろ？　ついでに殺しておいてやるぜ！」
「させるか！」
「うおっ！？」

　至近距離でウェリス相手にブレスを吐く。だが、ディランの盾とシスの魔法でかなり緩和されていた。

「ええい……！」
「くらえ！」
「まだまだだ……！！」
「その角が邪魔だな！！　ぐあ！？」
「馬鹿が！」
「きゃ！？　こいつ！　＜ファイヤーボール＞！」

　ウェリスはジャンプし、雷撃を飛ばす角を狙う。剣がヒットすると少し欠けたのが見えた。
　いけると思った瞬間、放射状に雷撃を飛ばしウェリスは動きを止めた。
　そこへ角へシスのファイヤーボールが飛んでいき爆発する。

「ぐぬ……！　ならばキマイラごと地上へ叩きつけられろ！」
【うおおおお！】
「くたばれ！」
「うお！？」

　ドガーラの渾身の一撃がデランザの頭を殴りつける。
　デランザの身体が落下していく――

「なら貴様も落ちるのだな！」
「な……いつの間に！？」
「蛇の身体を斬るつもりだったか？　まだ俺が居るのにな！」

　蛇の身体を落とそうとしたドガーラの腕をバルドが大剣を突き刺した。
　ウェリスは痺れて震えながらも、ドガーラの顎を切り裂いた。

「うが！？」
「へへ……てめえが落としたデランザの重みに引っ張られて落ちな！」
「貴様等も落ちるというのに、正気か！？」
「ドラゴンは簡単に倒せないってのは分かっているからな……！」
「おのれ……雷撃を！　うお――」

　デランザから伸びている蛇の身体が巻き付いているため引っ張られて落下をする。
　本来なら踏ん張りもきくところだが角に傷がついているため自身にダメージを与えていた。
　そのままデランザと共に下へ落下していく。

「ちょっとデランザ！　なんとかならないの！？」
【ぬう……身体が動かん……しかし、我がクッションになるはずだからシスは大丈夫だろう】
「あんたは酷いことにならないかしら……！？」

　まだ死ぬわけにはいかない。
　シスは風魔法でなんとか速度を落とせないかと放つ。だが、地面はどんどん近づいてきた。
　目をつぶるシス。ぶつかると思った瞬間、どすんという音と共に大きくデランザが揺れた。

「おっと、大丈夫か？　倒したようだな」
「あ！　ボルカノさん……だっけ！」
「うむ。これだけの人間とデランザで倒したか、やるな。ほれ」
「うげえ……」
「ぐ……」
「ウェリス、バルド！」
「へへ……野郎、舐めやがって……」

　そしてドガーラの身体が地面に落ち、土煙を上げていた。動かないところを見ると気絶しているようだ。
　ウェリスとバルドもそのまま大の字になって意識を失った。

「流石にデランザでも手ひどくやられたな」
【……そっちはどうだ？　二体いたはずだが……】
「ああ、大丈夫だ。もう終わる」
「え？」

　巨大な身体を振るわせてデランザを心配するボルカノ。そこでシスが残り二体の黒竜が居たはずではと気づく。
　するとボルカノは顎でとある方向を指す。

「……す、すごい……」
「こいつらも若いな。空を飛んだくらいで有利だと思っているのがその証拠だ」

　視線の先には肩で息をしている黒竜が二体立っていた。すでに羽はボロボロであちこちから焼けた臭いと煙が上がっていた。

「さて、それじゃとりあえず拘束させてもらうぞ」
「ま、待て――」
「とぁぁぁぁ！」

　ボルカノは首をごきりと鳴らした後、一気に駆け出して行く。
　満身創痍の黒竜二体は慌てて声を上げるが、一体がボルカノの体当たりで大きく吹き飛び三回転ほど転がったあと、動かなくなった。
　
「お、おのれ！」
「やるか？　俺は一向に構わん……う！？」
「ど、どうしたの！？」
「こ、腰が……歳は取りたくないもんだ」
「チャンス……！」

　ボルカノがフラフラとしだし、黒竜の一体が好機と見て襲い掛かって来た。
　だが――

「ぐが……！？」
「あ、あれ？　急に倒れた……」

　――黒竜は目をぐるんとさせて大きな音を立てて倒れた。

「あんたなにやってんだい？　体調には気をつけろっていったろう」
「わ、黄色いドラゴン！？」
「アビーか！　お前、どこに居たんだ！」

　その攻撃はボルカノの妻、アビーだった。パライズドラゴンの彼女が爪を飛ばして麻痺させたようだ。

「……若い衆の動きが怪しいから里を出たフリをして近くにいたのよ。そしたらあんた達が来て若いドラゴンが飛び出して行ったから来たの」
「なるほどな。すぐ言ってくれれば良かったのに」
「後をつけていざという時に動けるようにしたのさ。とりあえず説明をしてよ」
「ああ――」

　ボルカノは周囲を見ながらアビーへと説明をするのだった。