老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第360話 竜、双子たちと言い返す

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「ぼ、僕が人間の国に……」
「ええ。きっと気に入ると思うわ」
「あーい♪」
「あうー♪」
「ええ? おいでって?」

 まさかの提案にケイレブが目を丸くして驚いていた。そんな彼のズボンの裾をリヒトとライルが引っ張って笑っていた。

「いいじゃない。安全に外の世界を見れるチャンスかもしれないわ。島に住む黒竜に情報を伝える役とかしてもらえたらルーガスも助かるわよきっと」
「僕が……役に立つ……」
「無理にとは言わないからよく考えてみてね。それじゃあそろそろ朝ごはんにしましょうか」
「あーい!」
「あーう!」
「ぴぃー!」
「ケイレブも一緒に来るといいわ」
「あ、はい」
「アー」
「はは、器用に歩くんだね君は」

 そうして朝ごはんのためディラン達のところへ戻るトワイト達に、ケイレブもついてきた。

「お、戻ったか。米は炊けておるぞ」
「私達が焼き魚と卵焼きを作りました……!!」
「あ、上手ね!」
「美味しそう」
「こけー♪」
「ジェニファーさんの卵をいただきましたよ。ありがとう♪」

 人型に協力的な黒竜達がそれぞれの作業から今いる広場に集まり、朝食会が始まる。魚はドラゴン姿でごっそり漁をしてきたのでみんなにいきわたっている。
 今日はアジが大量であった。

「へえ……こんな感じで食べるんだ」
「む、新しい顔じゃな? ほれ、おにぎりじゃ」
「あ、ありがとうございます……!」
「あなた、この方は頭がいいみたいですよ」
「ほう、なにか仕事を覚えるか?」
「あ、あはは……」

 ディランがケイレブに気づき、おにぎりを手渡していた。トワイトが紹介すると、早速なにか仕事をやるかと告げる。
 ひとまず彼は愛想笑いで誤魔化していた。

「あーい♪」
「あーう♪」
「あ、もう果物を食べられるんですね」
「ぴぃー」
「一歳になったばかりなのだけど、よく食べてくれるの♪ あまり食べさせると糖分多くなるからまだまだミルクが主になるけれど」

 トワイトが口に桃を小さく切ったものを運び、双子が喜んでいた。
 エーナがルーナにミルクを飲ませながら感心していた。

「わほぉん♪」
「ダル君が生き生きとしだした……」
「わほぉん?」
「盗らないからね? 僕と一緒でのんびり屋さんだと思ったけどしっかりしているなあ」

 好物の桃が出されてダルは尻尾を振りながらかぶりついていた。アグレッシブなダルになり、ケイレブがぽかんと見ていると「あげないよ」とばかりにダルは前足で桃を自分のお腹近くに引き寄せていた。

「そちらはどうですか?」
「うむ。みなしっかりやってくれておる。新しいことなのにありがたいことじゃ」
「そりゃ、将来で俺達黒竜が生きるか死ぬか、みたいな話ならやるさ。むしろ迷惑をかけたのにここまでしてもらって申し訳ねえよ」
「そう思うなら子供たちのために作業せねばな。わしらは竜の里の経験があるし、同じドラゴンじゃから敵対せんなら協力はしたい」
「おお、ロクローさんの掘削能力はホント助かるからなあ」
「あたしゃ他の人間の国ってのも気になるわね」
「……」

 和気あいあいとした朝食風景に、ケイレブがおっかなびっくりした感じで見ていた。

「どうしたの? 話さないの?」
「あ、いえ……僕はその、手伝いをしていないので……」
「気にしなくていいぜ。ドガーラなんかは人型になるのが嫌で火山の麓に住処を移したらしいじゃないか。まあ、この姿も悪くないもんだ」
「お家もいいのができそうだ。家具ってやつができたら楽しそうだ」

 そんな彼に他の黒竜達が話しかけてきた。
 仲間には違いないので、人型で暮らすことを良しとしないと言ったとしても毛嫌いすることはなかった。
 ケイレブもその選択をしたのかと思っていたが、意外なことを口にする。

「そ、そうだね。僕はどっちでもいいんだけど……日向ぼっこはドラゴン姿の方がすきなんだよね。そしたらお前もこっち側だって向こうの仲間に入っているんだ……」
「ええー? そりゃハッキリ言え……ってお前じゃ難しいか」
「そうねえ。ケイレブ、大人しいから」
「うう……」

 他は作業が楽しいとか、食事が美味しくなる料理は必要だといったメリットを聞かされていた。
 そして少しずつまた作業に戻っていく彼等をケイレブは見送った。

「うぉふ!」
「わん!」
「ぴよー!」
「はいはい、お腹いっぱいになったわね♪」
「ぷひー♪」
「アー!」

 ペット達も食事を済ませてその場で毛づくろいなどを始めていた。食休みといったところだが、そこでリヒトが手をあげて声を出す。

「あーい!」
「またお散歩に行きたいの?」
「あう♪」
「もう少し休んでからじゃな。お腹が痛くなるぞい」
『……♪』
「あー♪」

 ディランが待てと言い、エレノアがダルを背にお座りしているリヒトのお腹を撫でていた。それが楽しいようでごろごろと転がる。

「そろそろドラゴンフルーツとか食べさせるかのう。ウチにも植えたいところじゃ」
「ああ、いいですね。実があれば種から育てられるし、竜の里に行ってみますか?」「ドラゴンフルーツなんてあるんだ……」
「あーい」

 すると――

「お、なんだあ? 姿をみねえと思ったらここにいたのかケイレブ」
「あ、ド、ドガーラ……」
「ん? ふん、あのフレイムドラゴンの仲間か。ケイレブ、人間の真似事などやめておけ。自由に生きるのが俺達ドラゴンだ。気楽に日光浴できるのもこの身体だからだぞ」

 ――その場にドガーラが現れた。あの時、ボルカノに負けた二体と一緒に大きな身体を揺らして

「あ、いや……」
「ボルカノにやられた奴じゃな。まあ、どっちでもええが、強制は良くない。こやつがいいと思った方を選ばせてやるのじゃ」
「どうだかな……そんなことをしてもしなくても、結局は他の地域にいかざるを得ない気がするがな」
「かもしれん」
「なに?」
「だけどなにもしなければ本当にこの前のように侵略をすることになるわ。その時、今回みたいに負けることだってある。次は黒龍族が全滅するかもしれないのよ?」
「……」
「……」

 たった一日で計画を台無しにされている身からすると、あり得なくはないため後ろに居た二体が複雑な顔をしていた。

「なら、それも含めてコイツ次第だろう。行くぞケイレブ」
「ぼ、僕は……」
「ん?」
「僕は……少し人間達の様子を見てみたい……国へ行ってどういった生活をしているのか……取り入れられていいことがあるならみんなに伝えたいよ」
「俺に逆らうのか……!」
「ひっ……!?」
「あーい!」
「あうー!」
「うぉふ!」
「お!? なんだチビども!? 騒ぐな!」

 ドガーラが顔を近づけてカッと恫喝する。
 委縮するケイレブだったが、リヒトとライル、それとペット達が立ちふさがり太鼓を鳴らしたり笛を吹いていた。

「ケイレブ君が選んだんだから口出しするなってところだと思いますよ」
「チッ……行くぞ」

 足元で騒ぐリヒト達に怒鳴るが怯みもしなかった。そこでエーナが真面目な顔で告げると、ドガーラ達は踵を返して退散した。

「あー!」
「あうー!」
「はいはい、もう行ったわよ。言い返して偉かったわね」
「あい!」
「はは……で、でもこれで彼等のところには戻れないかな……」
「話は聞かせてもらったわ! ならこっちでお仕事をすればいいじゃない」
「あら、シスちゃん」

 まだ収まらぬといった感じの二人だったが、トワイトが抱っこをして宥めていた。
 そこへシスが登場し、人型で生活すればいいと口にした。

「き、君は……人間?」
「そうよ。ドラゴンでも人型でも死ぬわけじゃないし、使いわければいいのよ。とりあえず東の国へ買い物にでもいきませんかトワイトさん?」
「そうね。行きましょうか」
「え!?」
「それじゃあ黒竜達に行ってくるわい」

 そうして一行は東の国へ行くことになった。
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