老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第359話 竜、気弱な奴もいる

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「むふー……やっぱり海岸沿いが暖かいなあ」
「あーい!」
「うぉふ!」
「ぷひ!」

 だらんと寝そべっている一体の黒竜が気持ちよさそうな顔をしていた。
 鼻を鳴らして呟いていたところへリヒト達がやってきた。

「うわあ!?」
「あーい?」
「うぉふ」

 顔に近づいて元気よく挨拶をすると、黒竜はびっくりして飛び上がった。
 そのままごろんごろんと横に転がり、あおむけで倒れた。

「あい♪」
「あ、ああ……人間の子供とアッシュウルフ、それに豚……?」
「うぉふ!」
「わん!」
「ぷひ」
「ふう、びっくりした。この島は僕達以外に住んでいるのは魔物くらいだからね。どうしたのかな?」

 黒竜は元の態勢に戻り、顔を地面につけてからリヒトに話しかけた。
 
「あーい! あい!」
「……うん、ごめんよ。わからないや……」
「うぉふ!」
「わんわん!」
「おう……!? 大きい声を出したらびっくりするからやめてね……」
「あーい」
『……!』

 リヒトが身振り手振りでなにかを説明するが、黒竜は困った顔で首を振る。
 そこでヤクトとルミナスが声をあげると、黒竜は後ずさりしていた。
 リヒトがぽかんとしているとまた元の位置に戻ってくる。

「君たちはルーガスを倒したドラゴン達の子供だね? 集会の話は聞いているよ」
「あーい♪」
「はは、鼻の先を撫でるなんて僕が怖くないのかい? おや、あっちにエーナさんと……お母さんかな?」
『……!』
「ひぃ、怖い人形!?」
「あい!」
「え、怖くないって……? ま、まあいいや。お母さんのところに戻ろうか……」

 ついてきたエレノアがお母さんと口にした黒竜の鼻先に飛び乗って挨拶をすると、また飛び上がった。
 のんびりしたいのか黒竜は親もとへ戻そうと口にする。

「よっと……」
「あーい♪」

 そこで黒竜は人型になった。どうやら変身できるタイプの個体だったようである。
 短い黒髪に猫背、困った顔をしている男の黒竜に、リヒトが手を上げて歓喜の声を上げる。

「うぉふ!」
「わん!」
「ぷひー!」
「だから大きな声はダメだって……!? それじゃあっちへ戻ろう?」
「あい」
「手を繋ぐの? ふふ、小さいねえ。君たちはこの子の護衛かな」
「うぉふ」

 黒竜と手を繋いでてくてくと歩いていく。
 困った顔をしている黒竜だったが、リヒトと手を繋いで歩くのは悪くないと考えているようである。
 そのままトワイトのところへ戻っていく。

「あーい!」
「あうー♪」
「ぴぃー♪」
「おかえりリヒト。あら、あたらしい方?」
「お、おはようございます」
「あ、ケイレブ君」
「おはようございますエーナさん……なんかこの子が僕のところに来て……」

 リヒトが元気よく戻ってくると、砂のお家を作っていたライルとルーナが笑顔でおかえりと言う。
 トワイトが頬に手を当てて首を傾げていると、エーナが名前を呼んだ。
 ケイレブは頭を掻きながら、愛想笑いを浮かべてリヒトを抱えて見せる。

「あい!」
「うふふ、遊んでもらっていたのね。ありがとうケイレブ君」

 抱っこされるとリヒトはドヤ顔で両手を空へ突き出していた。トワイトは遊んで貰っていたのだと思いお礼を口にする。

「い、いえ……」
「ほら、ウチの娘よ」
「ぴぃ!」
「あ、可愛い……ですねえ」

 そこでエーナがルーナを紹介すると、ケイレブはほっこりした顔で見ていた。
 リヒトを降ろしていると、エーナが彼について話し始める。
 
「ケイレブ君は人型にもなれるし、頭がいいんですよ。のんびりしているからドガーラさんやギーラとは仲が良くないんですけど」
「すぐに力試しをしようとか言うからね……あの二人……」
「うふふ、そうなのね。今回の人型になって暮らすのはどう思っているのかしら?」

 のんびりしたいケイレブは力比べを挑まれるなどされているのでドガーラやギーラは苦手らしい。
 そんな中、頭がいいということでトワイトは今回の件をどう思っているかを聞いていた。

「えっと、僕はいいと思っています。あっぱりドラゴン姿で島に居ると増えた時に住むところが無くなってしまうし、食べ物も段々少なくなる。だから自給自足で野菜などを人型で食べるとすれば、かなり消費も抑えられますし……ドラゴンの子供はなかなか生まれてこないから、すぐに島がいっぱいになることもありませんし……」
「だいたいお父さんと同じことを言っているわね。集会に居なかったのに、よく把握しているわ」
「ギーラから聞いたんで……」

 ケイレブは困った顔でそう言い、トワイトは笑顔で感心していた。また聞きでも理解しているあたり賢いというのは本当のようだ。

「あい」
「わほぉん……」
「あ、すごくのんびりしているアッシュウルフ……いいなあ、僕も隣に座るね」

 そこでリヒトがダルを紹介する。こののんびり黒竜を気に入ったようである。
 するとケイレブは目を細めてあくびをするダルの横に座った。

「わほぉん」
「ほわぁ、いい毛なみだねえ」
「くあ……」
「あーい……」
「うふふ、のんびり屋さんなのね」

 背中を撫でると手触りが心地よく、ケイレブは目を細めて撫でていた。
 ダルとリヒトは海を見ながらあくびをして日向ぼっこを続ける。
 トワイトは笑いながらその様子を見て和やかだと思っていた。

「アー!」
「うわあ!?」
「あーい♪」
「あら、グラソン」

 そこでグラソンが海から飛び出て来た。手を叩くリヒトに、動じないダル。
 ケイレブだけがびっくりしてひっくり返っていた。

「な、なんだこの生き物は……?」
「アー?」
「北の海に居るカイザーペンギンという魔物よ。ウチが気に入って住んでいるの」
「へえ……珍しいのが見られたなあ……」
「あなたは外の世界も見たいって言ってたものね」
「そうなの?」
「あ、はい……怖いから無理ですけど……」
「気が弱いのが残念ね」

 ケイレブは知識欲があるようで、どっきりしながらも、リヒトと挨拶を交わすグラソンをまじまじと見つめていた。

「外の世界ならクリニヒト王国に来るといいかもしれないわね。あそこの人間達はいい方ばかりだし」
「え!?」
「この島でやることが終わったら来てみる? ザミールさんと一緒に行商をするとあちこちにいけていいと思うけど」
「あーい♪」

 気弱な黒竜にトワイトはそんな提案をするのであった。 

 

 
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