老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第362話 竜、時間の感覚が違う

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「驚かせてすまんのう。いつもここに降りておるのじゃ」
「ええっと、あなたはディラン様でお間違えないでしょうか……?」
「うむ。お主はノブヒコじゃったかの?」
「それは私の父ですね。私はタロウと申します。しかし、父より話は伺っております。たまにやってくる黄金の竜は歓迎せよと」
「ありゃ、ノブヒコはどうしたのじゃ?」

 石畳の上で変身を解いたディランの下へ白い衣装を着た神官らしき男がやってきた。名を尋ねると、ディランの知る人物ではなく息子だとのこと。
 しかしディランが稀にやってくることは知っているらしく、笑顔で歓迎すると口にした。そこでノブヒコの件を聞いてみた。

「父は三年前から床に伏しておりまして……」
「まあ。まだお若いでしょうに」
「そうですね。最後に竜神様がいらっしゃったのが二十年程前でしょうか? あの時、父は三十五でした」
「まあ俺達のたまには人間にするとなげえか」
「そうだね。長くはないんですか?」
「さすがにいきなり亡くなるようなことは――」

 ノブヒコは体の調子が悪いということで神官を交代したとのこと。
 ギーラが頭の後ろで手を組みながら二十年は人間にしちゃ長い期間だと言う。
 ケイレブが状態を尋ねると、タロウが説明しようとした。

 すると――

「おおおお! 竜神様ぁぁぁぁ!」
「親父!?」
「おお、ノブヒコか。久しぶりじゃのう」

 ――タロウが歳を取ったらこんな感じになりそうという男が、満面の笑みで走ってきた。
 タロウが驚き、ディランが片手を上げて挨拶をする。

「いやあ、お待ちしておりましたぞ! おや、奥さん以外もお揃いで? 赤ちゃんもいるのですな?」
「親父、病気は……?」
「ん? 今、治った。竜神様が来たのに寝ていられるか」
「ええー……」
「あーい♪」
「あーう♪」
「おお、元気なお子じゃ! 今日はどうされたのですかな?」

 ノブヒコが視線を動かし一行を見ていた。そしてリヒトとライルと握手をしてにっこりとほほ笑む。

「買い物じゃな。それとこの二人は黒竜族なのじゃが、人間の生活に慣れておらん。どういった生活をしているか見てもらおうと思ってきた」
「ほほう……黒竜族ですか。あまりいい噂は聞きませんが……」
「んだと?」
「あい」
「あう」
「ルーガス達が暴れていた時期があるからね……これは仕方ないよギーラ」
「むう……」

 ノブヒコの言葉にギーラが眉を上げるが、リヒトとライルが制止し、ケイレブが仕方ないと口にしていた。
 納得はしていなさそうだったが、暴れまわっていたのはその通りなのでギーラは口を噤んだ。

「これからは普通に暮らす予定ですよ。町を襲うこともなくなると思います」
「そうですか、トワイト様が言うなら大丈夫でしょうな。また帰りは寄ってくだされ。お茶でもご一緒したいところです」
「分かったぞい」
「このタロウは小さいころ会っていると思いますが、ジローとサブロウという息子もあの後に産まれましてな。紹介させてください」
「ええ、もちろん♪」
「あい!」
「あう!」
「では我々はこれで! 楽しんできてくだされ!」
「親父、元気じゃないか……とりあえずジローとサブロウに連絡を取っておくか……」

 黒竜族も暴れないと言うと、それはなによりだとノブヒコは笑っていた。
 そのまま一行を見送ってくれ、ディラン達は高い階段を降りていく。
 背後でタロウが呆れた様子で父に話しかけていたが、すぐに遠ざかった。

「わ、凄い階段!? 高いところにあるお家ね」
「これは社といってな。神が祀られていると考えられている東の国伝統の建物じゃ。だから高いところにある。クリニヒト王国などにも神官がおると思うがそれと似たようなもんじゃ」
「へえ、教会みたいなものね?」
「神なんているのかねえ……って、そういやあんたは神に遣わされたって言ってたか。見たことがあるのか?」
「リヒトにライル、肩に乗るのじゃ」
「あーい♪」
「あーう♪」
「いい眺めねえ」
『……♪』
『……♪』

 石造りの階段を降り始めると、シスがその高さに驚いていた。社と神官の説明をしているとまたギーラが質問を投げかけてきた。
 するとディランは双子を肩に乗せて景色を眺めさせていた。

「聞けよ!?」
「神のことは聞くな。アレは誰にも理解できん。話したところで意味が無いのじゃ」
「それはどういう……?」
「言葉通りじゃ。存在自体は知っているが、それがなんなのかはワシにもよく分からんからな。例えば……『@#$%』と聞いて理解できるか?」

 ギーラの質問は答えられ無いと返していた。一例を出したが、その瞬間、シスやケイレブ、ギーラが怪訝な顔になる。

「え? なんて……?」
「耳がおかしくなったかな……」
「いや、それで合っておる。頭で理解が出来ないということじゃな。何度聞いても恐らくわかるまい。分からんことを気にしても仕方がない。買い物を楽しもうぞ」
「お金は持ってきていますからね♪」
「あい!」
「うーん、なんだったんだろう……」
「ケイレブさんも耳が?」
「全然わからねえ……」

 耳がムズムズすると言った感じでケイレブ達が頭を振っていた。トワイトやリヒトは聞いていなかったといった感じで元気だった。

「あう!」
「む、どうしたのじゃライル?」
「うぉふ?」
「歩くの?」
「あい♪」

 そんなシスや黒竜達をよそに階段を降りていく。
 一番下へ降りたところで肩に乗っていたライルがディランの髪の毛をぽんぽんと叩いた。
 ヤクトとトワイトが首を傾げて歩くのかと問うと、リヒトが返事をした。

「あいー♪」
「あうー♪」
「わほぉん……」
「わん」
「アー」

 するとリヒトとライルはお互い手を繋いで歩き始めた。リヒトは空いた手にでんでん太鼓を持って振り回していた。

「はは、楽しそうでいいね。ダル君もこういう時はしゃきっと尻尾を立てるんだ」
「元気なチビ達だぜ」
「可愛いわね♪ それじゃどこに行くんですか?」
「昼飯まで適当に店を回るとしよう。ケイレブやギーラも気になったのがあったら足を止めていいからのう」
「わ、わかりました……」
「へへ、人間の町を歩くのは初めてだな」
「ぷひー!」
「あ、転ぶわよ子豚ちゃん」

 そして本格的に町の散策が始まった。
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