老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第385話 鬼、少し語る

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『誰かな? そこにいるのは分かっている』
「大人しく出てきた方がいいぜ?」
「くく、そう警戒しなくても大丈夫だ。我に攻撃の意思はない」
『……子供?』
「あーい!」
「あーう!」

 ソルが剣を抜き、ギーラが右手をドラゴンの爪へ変えてそれぞれ口を開く。
 するともやの中から少女が姿を現した。
 白い着物を羽織り、額から赤く短い角が二本出ていた。身長は成人男性のへそくらいのところに頭があるくら小さい。

「ようこそ、狭間の世界へ。歓迎するぞ小さい武者よ」
「あい」
「あう」
「ムシャ?」
「大陸では勇者とか呼ばれる者じゃな」

 リヒトとライルを見て武者と言う少女に聞き返すギーラ。すると少女はにっこりとほほ笑みながら勇者みたいなものだと答えた。

『リヒトとライルが……? いや、君は誰でここはどこなのだ。私とエレノアは魂だけの存在なのに、こうやって体がある』
『あなたも鬼のようですけど……まさか』
「そう、そのまさかじゃ。我は霧華という鬼じゃ。初代酒吞童子と言った方がわかりやすいかのう」
『やっぱり』

 勇者はともかく、少女の身元と場所についてソルが尋ねる。エレノアは薄々と感じていたようだが答え合わせが終わった形だ。

「こんなガキが酒吞童子? 代々長をやっている……いてえ!?」
「ふふん、我を舐めてはいかんぞ?」
「あーい」
「童子とは幼子のことでな。酒飲みの鬼じゃった我を見た人間がそう名付けたのだよ。とはいっても倒されるまでに八百年は生きていた鬼よ」

 ギーラが訝しんだ顔で霧華を指さすと、魔法のような弾で攻撃されて尻もちをついた。不敵に笑う彼女はどこからか扇子を取り出して広げると、話を続ける。

「さて、それはいいとして……ここは先ほども言ったが狭間の世界という。生者と死者が刹那に交わる空間と言えばいいかのう。剣を木から抜いてくれたおかげで能力《ちから》を使うことができたのじゃ」
『ということ、あのシミは君の?』
「そうじゃ。黄金竜と人間によって倒された我の遺体の痕だな。誰も抜けないから放置するしかなかったからこうなったわけじゃ」
『うーん』
「あーう?」

 ひとまず初代酒吞童子が何らかの力を使ってあの場にいた異国人を呼び寄せたという話だった。
 倒された後、そのまま剣が抜かれなかったため骨となり朽ち果ててシミになってしまったらしい。
 そこでエレノアが腕組みをして考え始める。ライルが見上げて首を傾げると、霧華に尋ねる。

『こうやって話している限り、悪い存在には見えません。なにか悪逆をやったのですか?』
「……そうじゃな。我は鬼の繁栄のためこの国を襲った」
「俺達と同じ感じか」
「そうなのか。やはり今でも変わっていないのだな」
『今でも?』

 黒竜たちと同じく人間と戦いディランと謎の人間に倒されたという。
 しかし、ギーラの言葉を聞いて意味深なことをつぶやく霧華。
 ソルが再度尋ねると、霧華は少し考えた後で口を開く。

「ああ。強大な力を持つ種族が増えると例外なくこういったことが起こる。その理由は土地が欲しいという形になるが、これは仕組まれている」
『え? 仕組まれている……?』
「そうだ。……我から詳しいことを伝えられないが、おかしいと思わないか? どこへ行っても黄金竜が解決を図っている事実が」
『……』

 黒竜、鬼、コレルの起こした事件。
 一歩間違えば大きな戦いになるであろうというのを、リヒトに憑いていたエレノアは認識していた。
 それは仕組まれたことだと霧華は言う。では誰が? その疑問は当然上がってくる。

「誰にだよ? 戦いを起こすことなんて、仕組んでできるものなのか?」
「……こんな話がある。地上で生き物が増えた結果、争いも増えた。そこで天ではとある策が行われた。地上に突如現れた黄金の竜は力をふるい、地上を静かにさせた――」
『それは……ディランさん、か……? 神から遣わされたと言っていた』

 昔話だよと霧華はソルの言葉を聞いて笑う。
 
「黄金竜はそういうことをするためだけに送り込まれた存在……らしいのう」
『……!? そんな馬鹿な……では、か――』
「おっと、それ以上は口にするんじゃないぞ? それを口にしていいのは黄金竜だけだ。消されるぞ」
『……』
「な、なんだ? 二人にはわかっているのか……?」
『ええ。だけど、私達はなにもしていないわ。だから消されるなんてことはなさそうだけど……。ギーラ君も純粋な個体だと思うし』

 やはり霧華の言うことは分からないと一行は驚愕の表情を見せた。理解をしているソルとエレノアは腑に落ちないと眉をひそめていた。

「アレがどういう基準で消すのを決めているかはわからんからのう。じゃが黄金竜も我の戦いから天とは袂を分かれた」
『ならやっぱりディランさんはディランさんか。良かった』
「知っているのだな? そっちの金髪の赤子から竜の気配がするのでそうではないかと思ったが、当たりじゃったようだな」
『ディランさんのことを話したかったのですか?』
「それはついでじゃ。我を剣の呪縛から解き放ってくれた礼をしたかった。ありがとうな」
「あい♪」
「あう♪」

 霧華は双子に笑いかけると、リヒトとライルは手を上げて挨拶をしていた。
 
『では私達も戻れるのですね。良かった……』
「もちろんじゃ。この御神木に宿っておるからいつでも来てくれ。しかし、土偶と埴輪では不憫な気もするのう」
『ははは、もう慣れました。体もありませんしね』
「それこそ天に願えばなんとかなるかもしれんが……まあ、それはいいだろう。最後に一つ。抜いた剣は黄金竜へ預けておけ」

 一家にお礼をしたかったという素直な気持ちで呼び、また来てくれれば木に触れれば話せるとのこと。
 お礼にソルとエレノアの身体もなんとかしたいと言うが、ソルは気にしないでいいと笑っていた。
 なにかできそうなことはあるかもしれないと言った後、霧華は最後にと神妙な顔になり剣の処遇について説明を始めた。
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