老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
12 / 413

第12話 竜、お金を稼ぐ

しおりを挟む
 喜びを露わにするディランとトワイト。
 すると冷静さを取り戻したザミールが咳払いをして二人へ話しかける。

「コホン。一番、安い金額を提示したのですがそれで喜ぶということは本当に手作りかつ、お金は度外視なんですね」
「お? 金貨十枚は結構高いじゃろ」
「ねえ?」
「あうー?」

 ザミールの言葉に首を傾げるディラン一家。
 お金の価値自体は知っているし、トワイトが編んだ完全手作りのため高くても銀貨五枚くらいだと考えていたため金貨十枚なら破格なのだ。
 しかし、ザミールはそう見えておらず、大きな声を上げた。

「これが! 金貨十枚は! あり得ません! このきめ細かい糸の織り込みに模様のセンス、そして大きさ! どんな機織りの道具を使ったらできるのやら……!」
「ふぁ……」
「こけ!」
「ぴよ!!」
「ああ、よしよし。ごめんなさい、大きな声を出すとリヒトが泣いてしまうわ。あと、絨毯は私が手で編んだものだけど……」
「代わるかのう。そやつは絨毯に興味あるみたいじゃし」

 興奮気味に捲し立てたため、リヒトがぐずり始めた。トワイトがあやしているとジェニファーやひよこが抗議の声を上げる。

「これは失礼しました。……って手編み!? これを!?」
「ふあああああああん!」
「こりゃ、声が大きいわい」
「あああ、す、すみませんすみません!」

◆ ◇ ◆

 いよいよ泣き出してしまったリヒトを落ち着かせるためディランとトワイトはその場を離れてあやすことにした。
 しばらくすると泣きつかれて寝てしまったので再びザミールとの話し合いに臨む。
 その間、村人が買い物をしていたので時間が無駄になるようなことは無かった。

「……えー、あれはあなたが一人で?」
「ええ。一人で編みましたよ♪」
「すげえな……」
「奥さん、才能ありすぎだろう……」

 買い物を終えた村人は帰らずにザミールと夫婦の話を聞こうと集まったままだった。ベンチに置いた絨毯を改めて見て感嘆の声を上げている。
 遠くから見ると羽を広げた立派なドラゴンが浮かび上がってくる。

「ドラゴンさん、かっこいいねー!」
「ええ。夫をモチーフにしたの♪」
「あれワシじゃったんかい」
「(のろけてる)」
「(奥さん可愛い)」

 村人たちが仲のいい夫婦だと微笑んでいると、ザミールがまた咳払いをして言う。

「では猶のこと安いものではありませんね!」
「でも安い方が商人はええんじゃないのか? 昔、そう聞いたことがあるぞ」
「旦那さん……確かに安く仕入れて高く売る、というのが商人のあるべき姿です。しかーし! 良いものは良いとして適正価格を算出するのもまた使命なのです!」
「声が大きいですよ」
「……すみません、つい」

 ディランとトワイトがザミールを諫めると小さくなる。
 とりあえず絨毯についてはひとまず金貨十枚で買い取ってくれ、もしもっと値がつけば差額を持ってくるとのことで収束した。

「おお、金貨十枚じゃ。これでしばらくミルクに困らんな」
「そうですね。ありがとうございます。ザミールさん。もう一枚持っていきますか?」
「まだあるの!?」

 そこでトワイトがディランの荷物からもう一枚絨毯を出してきてザミールが噴き出した。

「三枚作ったのじゃ。一日一枚いけるらしいぞい。ウチの婆さんは凄いんじゃ」
「一日一枚……このクオリティで……?」
「凄すぎる……」
「いやですよあなた」
「(かわいい)」
「(かわいい)」
「(かわいい)」

 自慢げにディランがトワイトの肩に手を置くと、村人たちが注目する。
 彼女はそれに気づくとリヒトを抱っこしたままディランの大きな背中の後ろに隠れた。

「三枚もこんな貴重品を持ち歩くのは怖いですね。ひとまず二枚はまた今度、ということでよろしいでしょうか?」
「もちろんじゃ。それでええのう?」
「私もそれでいいですよ」

 ディランの背中に居るトワイトが頷いたのでザミールがホッとしていた。そのまま笑顔で丁寧に絨毯を馬車に積み込んでいく。
 
「それじゃドガさんにミルクを分けてもらいましょう」
「じゃな。それにしても絨毯にこんな値がつくとはのう」
「トワイトさんの絨毯、センスいいもの。ウチにも一枚欲しいくらいよ」
「あら、それなら一枚……」
「ダメです! 市場価値を決めてからにしましょう」
「そう? お世話になっているからいいと思うんだけど……あ、そうだ」

 トワイトが頬に手を当ててそう呟くが、村人たちもよく知っているザミールが価値あるものだと言った時点でおいそれと頼めないと笑う。
 そこでディランの手にある袋に入った金貨を見てなにかを思いついた。

「羊毛を売ってもらえるって聞いたから買おうかしら。リヒトのお布団をいいものにしましょうよ」
「ワシはなんでも構わんぞい」
「旦那はやる気がねえなあ」

 トワイトがやることはなんでも肯定しているディランに、村人が苦笑していた。
 するとディランが口を尖らせてから言う。

「む、そんなことはないぞ? 木彫りの人形くらいは作れる」
「いや、そういう意味じゃ――」
「とあああ!」
「「おお!?」」
「あらあら♪」

 その辺に落ちていた木を物凄い速度で削り、やがてぴたりと止まる。
 そして出来上がったものを地面に置いた。

「……これは熊か?」
「熊だろう、な」
「熊だ」

 そこにはそこそこ立派な熊が居た。迫力があり、感嘆の声が方々から上がる。
 しかし、ディランは渋い顔をしてそっぽを向いた。

 「……狼じゃ!」
「「「えええー!?」」」
「これ狼なの!? 耳は丸いし身体が大きいよ!」
「はっはっは! こりゃ奥さんに軍配があがったなあ。いや、でも迫力はあるよこの狼」
「ええい、うるさいわい。ミルクと羊毛を買って帰るぞい」
「はいはい。ほら、みんな行くわよ」
「むにゃ……」
「こけ」
「ぴよー」

 顔を赤くして歩き出すディランに微笑みながらトワイトがついていく。
 その後は希望の品をお金と交換し、トワイトはホクホク顔で村を後にしていった。

「帰っちまったか」
「ああ。毎度驚かされるぜ。あ、俺は油を少しくれ」
「承知しました。キラービーの甲殻三枚でいいですよ」
「おう、相変わらず助かる」

 残された村人たちもザミールから品物を買う。
 油といった高価な品も魔物の素材と交換してくれるのが彼の商人としての矜持が見られる。

「あの夫婦、最近あの山に来たらしいけどいい人達だよな」
「奥さんの手先器用だし、美人だ。いいよなディランさん」
「……手先が器用、だけでは済みませんけどねえ……」

 村人たちの会話を聞いていたザミールがフッと笑う。

「どういうこった?」
「いえ……この絨毯の素材……これもただの糸じゃないんですよ。とても強力な魔力を帯びているんです」
「あ、だから高いって」

 ザミールはそれを聞いて頷いた。
 どう考えても一介の主婦が作れるものではないが、商人はそこにあるものが全てなのだ。疑う余地はない。
 
「では私はこれで。またあの夫婦が来たらここへ来る日程を教えておいてください」
「オッケー。そういや狼の木彫りは?」
「そこにあるよ。なんか愛嬌あるし村の入口にでも置いておくか」

 こうして行商人のザミールはまた王都へと戻って行った。厄介だが好奇心を刺激する絨毯と共に。
 そしてディランの彫った狼の彫刻は村の入口に置かれることになった。
 余談だがその日から村の近くで魔物を見ることがなくなったという――
 
しおりを挟む
感想 739

あなたにおすすめの小説

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

捨てられた聖女様

青の雀
恋愛
孤児として拾われたジェニファーは、5歳の時、聖女様に覚醒し、バルサン王家の庇護のもと、同い年の第1王子と婚約者になる。 成長するにつれ、王子は、公女様と浮名を流すようになり、国王陛下が早逝されたことをいいことに、婚約破棄されてしまう。 それというのも、公女様が自分こそが真の聖女でジェニファーは偽聖女だという噂を広められ、巡礼に行った先で、石やごみを投げられるなどの嫌がらせに遭う。 国境付近で、まるでゴミを投げ捨てるかのように捨てられたジェニファーは、隣国の貧乏国の王子様に拾われ、聖なる力を解放する。 一方、聖女様を追い出したバルサン国では、目に見えて衰退の一途をたどる。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は世界に1人のトリプルジョブに至る~

ぐうのすけ
ファンタジー
赤目達也(アカメタツヤ)は少女を育てる為に冒険者を辞めた。 そして時が流れ少女が高校の寮に住む事になり冒険者に復帰した。 30代になった達也は更なる力を手に入れておりバズり散らかす。 カクヨムで先行投稿中 タイトル名が少し違います。 魔眼の剣士、少女を育てる為冒険者を辞めるも暴れてバズり散らかした挙句少女の高校入学で号泣する~30代剣士は黒魔法と白魔法を覚え世界にただ1人のトリプルジョブに至る~ https://kakuyomu.jp/works/16818093076031328255

処理中です...