老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

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第79話 竜、出発をする

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「よし、では行くとしようかの」
「こけー!」
「「「ぴよー」」」

 出発当日。
 戸締りをした一家はロイヤード国へと向かうためてくてくと山を下りていく。
 整備して歩きやすくなった道を歩いて行き、村が見えてきたところでダルが鳴いた。

「わほぉん」
「む? どうした?」
「わん!」
「うぉふ」

 村に寄る予定はないのでそのまま貰った地図に沿って街道を歩いて行くつもりだ。
 しかし、アッシュウルフ達は村の方へと行きたいとディランに前足を乗せた。

「あの木彫りの狼さんに挨拶をするんじゃないかしら?」
「わん♪」
「そうみたいじゃな。少しだけ寄っていくか」

 トワイトの予想があっているとルミナスが鳴き、ディランは急がなくても大丈夫だからと村の入り口へ行くことにした。

「おや、ディランさん。お揃いでどうしたんですか」

 近づくといつもの門番が一家の顔をみると綻ばせて手を上げてきた。ディランも手を上げて挨拶をする。

「おはようさん。こやつらが用があるらしいのじゃ」
「ああ、なるほどね」
「「「わおーん」」」

 木彫りの前で遠吠えを始めた三頭を見て苦笑する門番。最近は家の中で飼われているのでここへ来ていないのである。

「おはようございます。リヒトもご挨拶をするんですよ」
「あーい」
「リヒト君もおはよう」
「あい♪」
「「「ぴよー」」」
「はは、お前たちも元気そうだな」

 トワイトに言われてリヒトが挨拶をし、ひよこ達もポケットから顔を出していた。
 門番が笑いながらひよこ達を労うと、そのままディランへ話を振る。

「村には入らないのかい?」
「うむ。このままロイヤード国へと向かうのじゃ」
「おお!? どうしてまた……」

 ごくりと喉を鳴らす門番。ディランはその疑問に答えた。

「以前、ロイヤード国の王がモルゲンロート殿ところへ行った際にウチにも来たのじゃ。その時の礼を兼ねて祭りに招待したいというから行くことにした」
「へえ、あちらの王様がいらっしゃったとは。まあ、陛下の覚えがいいディランさんなら納得だけど。なら数日は帰ってこないんだな」
「そうなりますね! また帰ってきたら寄りますね」
「ええ。またミルクなんかを用意しておくよう言っておきますよ」
「あーう」

 ディランの説明に理解を示した門番はトワイトとも世間話を少し交えていた。
 そこでリヒトが声を上げる。アッシュウルフ達が遠吠えを終えて戻って来たからだ。

「もうええのか?」
「わほぉん」
「では行くとするか」
「お、ちょっと待ってくれ。まさか歩いていくのか!?」
「そうじゃが?」

 普通に徒歩で行こうとしているのを見て、門番が慌てて止めた。馬車でも四、五日かかるため歩きだといつになるか分からないと説明する。

「まあ、ワシらは歩くのが速いしいけると思うぞい」
「そりゃディランさん達はアレだからいいけど、リヒト君は疲れるんじゃないかな……」
「抱っこしているから大丈夫と思いますけど」
「おねむになった時に寝かせてあげた方がいいと思いますよ? 馬と馬車、貸せると思いますから使ってください」
「それは助かるが――」
「あ! ディランさんとトワイトさんだ! おーい!」

 そう話をしていると、遠くからディラン達を呼ぶ声が聞こえて来た。声のする方へ視線を向けると、馬車の個室荷台の窓から顔を出して手を振るユリの姿があった。

「あら、ユリちゃん! おはようございます」
「おはようございます! 今、お家に行こうとしていたんですけど、会えて良かったです」
「あーい♪」
「おはよー♪」

 馬車が近くに止まるとトワイトが挨拶をし、ユリもリヒトと握手をしながら返していた。

「わほぉん」
「ダル達もおはよう!」
「わん!」
「うぉふ!」

 遠吠えをしていた三頭もユリに気が付き声をかける。そこへ御者と一緒に座っていたバーリオが口を開く。

「元気だなこいつら。ディラン殿、おはようございます」
「バーリオ殿か。おはようさん」
「今から向かうのでしょう? 恐らく今日だと思って早めに出たんですが、入れ違いにならなくて良かった」
「ふむ。お主達も行くのか」
「ええ。おはようございます」

 ヒューシも荷台から顔を出し、ディランが察する。
 見れば後ろにはまだ馬車が数台あり、騎士達が単体で馬に乗っている姿もちらほらあった。

「モルゲンロート殿も行くのかのう?」
「いえ、今回はヴァール様だけが行くことになっています。後ろの馬車に乗っていますね」
「おお、息子さんか。そりゃ心強いわい」
「では、荷台へ乗ってください。一緒に行きましょう」
「いいのですか?」
「もちろんです、トワイトさん。そのつもりで馬を連れてきましたからね」
「ありがたい。頼むぞい。ではまたじゃな」
「ああ、気を付けて」

 バーリオの言葉にディランが素直に礼を言い、馬の首を撫でてやっていた。
 門番に挨拶をして、そのまま荷台へ乗り込む一家。

「あれ、ダル達は乗らないの?」
「わほぉん」
「わん」
「うぉふ」
「たまの散歩をするみたいじゃな。魔物への牽制になっていいかもしれん」
「(うーん、ディランさん達が居る時点で寄ってこない気がするなあ)」

 ゆっくりと馬車が進み出すと、アッシュウルフ達がてくてくと馬車の横について歩き出す。

「あー」
「今日はお外みたいね。後で撫でてあげましょう」
「あい♪」
「私も撫でるー!」

 窓の外に顔を向けてアッシュウルフ達を見るリヒトにトワイトが声をかけた。
 ユリも構いたいと元気よく声を上げていた。
 そこでディランが首を傾げながらヒューシに尋ねる。

「ふむ、ガルフやレイカは居らんのか?」
「そういえばトーニャとリーナちゃんも姿が見えなかったわ」
「ああ、今回は僕とユリだけ来ています。ガルフ達は依頼を優先して残ってもらいました」
「そうそう。全員が断るのも申し訳ないしね。だから陛下じゃなくて王子様なの」
「なるほどねえ」

 二人の説明にトワイトが頬に手を当てて納得する。
 今回はみんな一緒ではないことに少々残念そうなトワイトへディランが言う。

「まあ、そういうこともあろう。土産の一つでも持って帰ってやろう」
「そうですね。お祭りだからみんな一緒だと良かったんですけど」
「あー?」
「こけ」
「ぴよ」

 トワイトの頬に手を当てて首を傾げるリヒトにジェニファーがカバンから顔を出して鳴き、ひよこ達も鳴いていた。
 
「ああ、悲しかったりするわけじゃないから大丈夫よ♪ ありがとう」
「あーい♪」
「それにしても立派な馬車でいいのかしら?」

 馬車で連れて行ってもらっていいのかと口にすると、ヒューシが頷いてから話し出す。

「陛下がせめての手助けといって貸してくれたんですよ。先日、招待状をもらった後でバーリオ様が屋敷に来てその時にお話をしてくれまして」
「私達もどうしようかなって思ってたんですよ。ハリヤー一頭しかいないから」
「確かにのう。ワシらみたいに歩いて行くしかなくなるか」
「やっぱり歩いて行くつもりだったんだ……途中で町があるけど、長いですよ」

 空を飛べれば速いが、それはできないので歩きだと口にすると、ヒューシとユリは呆れていた。

「まあいくつか町を経由しないといけないからディランさん達なら歩きでもいけそうだけど」
「うむ。身体を鍛えておかんといざという時に困るぞい」
「あー……僕もアッシュウルフ達と少し歩くかなあ」
「いいかも? 休憩した後やってみようか」

 そんな会話をしながら天気のいい街道を馬車が進む。
 たまに運動を挟みつつ、いくつかの町で休憩をしつつ、日が暮れてから宿で一晩泊まることになった。

「ふう、長旅になると座っているだけなのも辛いですね。私もヒューシ殿のように運動をするべきか」
「王子は危ないことをしないでいただけると……」
「ははは! そうかい?」

 町についてから一番いい部屋に案内されているヴァールが、バーリオにそう言われていた。当のヒューシはかなり疲れたようで、よろよろと歩いて行く。

「や、やめておいたほうがいいです……あいつら遊びながら歩くから体力の消耗が……」
「あー……」

 ヒューシがそう告げると、ヴァールが苦笑していた。
 
「まあ、きつかったよねー。町に入れなかったのは残念だったわ」
「あーう……」
「ぴよー……」
「明日また会えるから今日はお母さんと一緒に寝ましょうね」

 アッシュウルフ達は町の中へ入れてもらえず、ディランと野営をすることになった。
 バーリオもルールはルールと申し訳ないとディランに謝っていた。『テイマー証も作っておけばよかった』と言っていた。
 そんな経緯もあって分かれたためリヒトはご不満だったのである。

◆ ◇ ◆

「ふむ、焼けたぞ」
「わほぉん」
「わん!」
「うぉふ!」

 ディランはアッシュウルフ達に囲まれて町の外で焚火をしていた。
 テントが一つあればなんとかなると、荷物の中から出して広げたのである。

「たまにはこういうのもいいのう。昔を思い出すわい」
「わほぉん?」
「まあ、昔の話じゃ。さて、食ったら寝るぞい。まだまだかかるらしいからのう」
「うぉふ!」

 ディラン達は星空の下、ゆっくりとした時間を過ごすのであった。
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