老竜は死なず、ただ去る……こともなく人間の子を育てる

八神 凪

文字の大きさ
104 / 413

第104話 竜、山の裏側へ行ってみる

しおりを挟む
「そういえば最近山から下りることが多かったが、あちら側へ行ったことは無かったのう」
「あちら側ですか?」

 朝食中、ふとディランがそんなことを口にした。
 山に自宅と宿を建設しているドラゴン一家だが、実は反対側へ行ったことはまだなかったりする。
 そこまで生態系が変わるわけでも無いが、珍しい植物や木の実があったりする可能性は高い。
 ちなみにディラン達の家からはモルゲンロートの居る西側のクリニヒト王都が一望できる。反対側はロイヤード国方面で東側にあたる。
 北側に近いところでリヒトを発見し、南側もまだ足を踏み入れていない。そんな状況である。

「お天気もいいし、お弁当を作ってお散歩ですね♪」
「うむ。洗濯物干したら向こう側へ下山してみるかのう」

 特に火山というわけではないため危険はそれほどないキリマール山。
 魔物が居るものの、それはどこの山でも少なからずあるため特に気にしていない。
 ガルフ達も狩りのためやってくることがあるのは承知のとおりである。

「今日は散歩じゃな」
「あーい♪」
「うぉふ!」
「わん!」
「ぴよー」
「こけー」
「わほぉん……」

 散歩と聞いてリヒトやペットは喜び、相変わらずダルだけが残念そうに尻尾を垂らしていた。
 リヒトにミルクを与え、ペット達も餌を食べると準備をして自宅を後にする。
 
「ぴよぴー♪」
「あーい♪」

 ひよこ達は相変わらずリヒトのポケットに入れ、ジェニファーはできるだけアッシュウルフ達と一緒に歩く。
 疲れたらディランの肩下げカバンに入れるといういつもの布陣だ。

「下山までしてしまいますか?」
「そうじゃのう。村か町があるかもしれん。立ち入らずとも確認だけしておくのもアリじゃな」
「村だったら尋ねてみましょうよ」
「あーい♪」
「うーむ、お前がそういうなら考えなくもないぞい」

 トワイトはディランよりも交流を気にしないタイプなので村や町があれば立ち寄りたい。
 ディランはそうでもないが、妻が行きたいと言うのであれば渋々ながらも着いていく。

「里の時は協力していたけれど、ここだと勝手が違いますからねえ。リヒトは人間だし、もしかしたらなにか困った時に助けてくれるかもしれませんよ」
「ふむ」
「あーう?」

 確かにリヒトは人間の子供だとディランは納得する。里ではご近所づきあいというのもトワイトが主にやっていたので従うのが得策だろう。
 彼女に抱っこされているリヒトの頭を撫でてからディランは再び山頂を目指す。
 
「あーう」
「わん」
「ぴよー」
「今日は雲もないから下がよく見えるわい」

 そして山頂ではトワイトが干している間、ディランはリヒトと一緒に地上を見て待っていた。
 いつもは眼下に雲がかかっているが今日は絶景というべき光景が広がっており、ディランが満足気に頷く。

「リヒトも男の子じゃし、大きくなったら旅に出たりするのかのう。息子のハバラもすぐに外へ出て行ったからのう」
「うー? あーい♪」
「ぴよー♪」
「ぴよぴー♪」
「ぴよー♪」

 リヒトは旅に出るよりもひよこを可愛がる方がいいようで、ポケットからひよこを出して頬ずりをしていた。急に愛でられてびっくりしていたが、すぐに擦り寄っていた。

「ふむ、男らしくなるといいがのう」
「まあまあ、いいじゃありませんか。男の子でも可愛いものが好きでも」
「むう。やはりガルフのように男ならドラゴンという感じにならんか?」
「お父さんの姿を見て喜んでいたじゃありませんか。だから大丈夫ですよ、強い子になります。ね♪」
「あーい♪」
「うぉふ!」

 トワイトがリヒトの頬をつつくと、両手を広げて喜んでいた。ディランはまあいいかとリヒトの頭を撫でる。

「では行くか。麓から少し離れたところに村が見えたわい。そこを目指してみよう」
「ええ」
「わほぉん」
「あーい!」

 洗濯物を干し終えた一家は東側から山を下り始める。目が良いディランが見たという村へと向かうことにした。
 ダルは覚悟を決めて鳴き、リヒトが鼓舞するように声を上げた。
 しばらく歩いていると、西側にはあまり無い樹木が目立ってくる。日当たりの差で育成される木が違うようだと夫婦は思いながら下山していく。
 帰りが楽になるようにと、下山しながら道をならしているので時間はかかっている。
 
「お主らはこっち側に来たことがあるのかのう」
「わん?」

 特に魔物や動物に会うこと無く、てくてくと歩いていると、ふとディランがアッシュウルフ達の動きが軽快だと気づき、もしかしてと声をかけた。
 ルミナスが見上げて首を傾げていると、ダルがサッと前に出て一声上げる。

「わほぉん」
「こけー」

 ダルが前足を上げてちょいちょいと前を指す。ルミナスの横に居たジェニファーが首を傾げていると、今度はヤクトが歩いている場所から外れていく。

「……うぉふ」
「どこかへ連れて行きたい感じかしら?」
「かもしれん。時間はあるし行ってみよう」

 ヤクトに続いてルミナス、ダルが前に出て夫婦を案内する。少しだけ岩肌が目立つ場所へやってくると、上手く草に隠れた洞穴の前で立ち止まる。

「ここは?」
「あーう?」
「……もしやお主らが住んでいた場所かのう」
「わほぉん……」

 ダルが尻尾を垂れ下げて中へ入っていき、続いてトワイトが追う。ヤクトとルミナスは入り口を警戒するようにして中へは来なかった。

 そして――

「まあ……」
「ふむ」
「わほぉん」

 ――洞穴の奥には白骨が、あった。形からして狼と思われるものが二頭分である。
 
 トワイトが悲しそうな顔になり、ディランはすぐに察した。恐らく、アッシュウルフ達の両親なのだろうと。

「骨に牙で穴を開けられた痕があるのう。他の魔物にやられたというところか」
「可哀想に……ダル、あなた達のご両親?」
「わほぉん」

 トワイトの言葉が通じたかは分からないが、肯定したようにも聞こえた。
 一頭は入り口付近、二頭目は奥に倒れていることを考えると餌を取りに行った際、なにかに襲われて息絶えたのだろう。

「……お主達の子供は立派に生きておるぞ」
「あなた、遺骨は回収してお家の庭に埋めて上げましょう」
「うむ」
「わほぉん……」
「あーう」
「あら、リヒト? ダルを撫でるの?」

 トワイトの提案で遺骨を連れて帰ることにした。そこで寂しく鳴くダルにリヒトが手を伸ばしていた。

「あーい♪」
「わほぉん♪」
「「「ぴよー♪」」」
「こけー♪」
「うふふ、今はいっぱい家族が居るって言っているわね、きっと」
「そうじゃのう」

 強く育たなくても優しいならいいかとディランは考えながらきれいに土を払って遺骨をカバンへ詰めていく。
 ジェニファーが入ることはできなくなったが、疲れたら肩にでも乗せるかと洞穴を出る。

「「ぐるぅうぅ……」」

 するとそこでルミナスとヤクトが唸りを上げているところに遭遇した。
しおりを挟む
感想 739

あなたにおすすめの小説

レベル1のフリはやめた。貸した力を全回収

ソラ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ち、ソラ。 彼はレベル1の無能として蔑まれ、魔王討伐を目前に「お前のようなゴミはいらない」と追放を言い渡される。 だが、傲慢な勇者たちは知らなかった。 自分たちが人間最高峰の力を維持できていたのは、すべてソラの規格外のステータスを『借りていた』からだということを。 「……わかった。貸していた力、すべて返してもらうよ」 契約解除。返還されたレベルは9999。 一瞬にして力を失い、ただの凡人へと転落しパニックに陥る勇者たち。 対するソラは、星を砕くほどの万能感を取り戻しながらも、淡々と宿を去る。 静かな隠居を望むソラだったが、路地裏で「才能なし」と虐げられていた少女ミィナを助けたことで、運命が変わり始める。 「借金の利息として、君を最強にしてあげよう」 これは、世界そのものにステータスを貸し付けていた最強の『貸与者』が、不条理な世界を再定義していく物語。 (本作品はAIを活用して構成・執筆しています)

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

【電子書籍化・1月末削除予定】余命一カ月の魔法使いは我儘に生きる

大森 樹
恋愛
【本編完結、番外編追加しています】 多くの方にお読みいただき感謝申し上げます。 感想たくさんいただき感謝致します。全て大切に読ませていただいております。 残念ですが、この度電子書籍化に伴い規約に基づき2026年1月末削除予定です。 よろしくお願いいたします。 ----------------------------------------------------------- 大魔法使いエルヴィは、最大の敵である魔女を倒した。 「お前は死の恐怖に怯えながら、この一カ月無様に生きるといい」 死に際に魔女から呪いをかけられたエルヴィは、自分の余命が一カ月しかないことを知る。 国王陛下から命を賭して魔女討伐をした褒美に『どんな我儘でも叶える』と言われたが……エルヴィのお願いはとんでもないことだった!? 「ユリウス・ラハティ様と恋人になりたいです!」 エルヴィは二十歳近く年上の騎士団長ユリウスにまさかの公開告白をしたが、彼は亡き妻を想い独身を貫いていた。しかし、王命により二人は強制的に一緒に暮らすことになって…… 常識が通じない真っ直ぐな魔法使いエルヴィ×常識的で大人な騎士団長のユリウスの期間限定(?)のラブストーリーです。 ※どんな形であれハッピーエンドになります。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました

iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。 両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。 両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。 しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。 魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。 自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。 一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。 初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。 恋人になりたいが、年上で雇い主。 もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。 そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。 そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。 レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか? 両片思いのすれ違いのお話です。

人質姫と忘れんぼ王子

雪野 結莉
恋愛
何故か、同じ親から生まれた姉妹のはずなのに、第二王女の私は冷遇され、第一王女のお姉様ばかりが可愛がられる。 やりたいことすらやらせてもらえず、諦めた人生を送っていたが、戦争に負けてお金の為に私は売られることとなった。 お姉様は悠々と今まで通りの生活を送るのに…。 初めて投稿します。 書きたいシーンがあり、そのために書き始めました。 初めての投稿のため、何度も改稿するかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします。 小説家になろう様にも掲載しております。 読んでくださった方が、表紙を作ってくださいました。 新○文庫風に作ったそうです。 気に入っています(╹◡╹)

前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~

高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。 先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。 先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。 普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。 「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」 たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。 そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。 はちみつ色の髪をした竜王曰く。 「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」 番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!

悲恋小説のヒロインに転生した。やってらんない!

よもぎ
ファンタジー
悲恋ものネット小説のヒロインに転生したフランシーヌはやってらんねー!と原作を破壊することにした。

処理中です...