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第一章:旅立ち
その12:冥王は町を出て王都へ向かう
しおりを挟む「待たせたなザガム、お前の取り分だ!」
「助かる。……五枚か」
「その金額で間違いないぜ。命の恩人を騙したりしねえ、向こうの受付に聞いてくれても構わない」
「いや、そこは問題ない。お前達が居なければ、毛の価値を知ることができなかった。逆に価値がある割に、ジャイアントアントの報酬より枚数が少ないと思っただけだ」
「ああ、よく見ろ数が違うぞ」
俺に手渡された紙の束に書かれた数は1000ではなく10000と書かれていて、それが五枚。アレイヤから貰った六千五百ルピに比べると十倍近くあるということか。
ジャイアントアントの稼ぎより全然いい……
「なによそれ!? レッドアイの毛? え?」
「落ち着け、美人が変な顔になっているぞ」
「え? 美人? うふふ……じゃなくて、どういうことよバリー」
アレイヤが口を尖らせて俺ではなくバリーへと声をかけて事情を聞きだそうと受付から出てくる。
そんな彼女にバリーは大口を上げて笑いながら説明を始める。
「ああ、レッドアイの毛を刈ってくる依頼でしくじりそうになった時、彼に助けられたんだ。どうやったのか分からないけど、大量の毛を残していたから回収したってわけ」
「いやあ、凄い量だったわよね」
「運が良かったな」
俺が金をポケットにしまいながら相槌を入れると、アレイヤが腰に手を当てて顔を近づけて言う。
「『フッ、運が良かったな』……じゃないわよ。レッドアイって集団で襲ってくるからソロだと相当キツイんだけどね?」
「そう言われても刈ったしな。後、『フッ』とか言ってないし近づくな」
「大人しく刈られる訳ないでしょ魔物が。はあ……やっぱり実力を隠していない?」
「そんなことはないぞ、もしそうなら俺はもっと金を持っているはずだろう」
「まあ……」
納得してはいなさそうだが、俺が戦っているところを見ていないので適当に誤魔化しておく。
これだけあれば王都に行ってもなんとか食っていけそうなので夕飯を食ったら町を出る予定だからだ。
「ま、いいわ。とりあえず初依頼達成おめでとう♪ また明日、頼むわね」
「……ああ」
明日にはもう居ないが、わざわざ言う必要は無いと踵を返して歩き出すと、バリーが背後で俺に声をかけてきた。
「そうだ、折角知り合えたし飯でも一緒にどうだ? この後、空いてるか?」
「俺は食いたいものがあるんだが、その店でいいか?」
「いいわよ!」
「こら、絡むな」
ユニカが元気よく返事をして俺の腕を取ろうとしたので、俺は振りほどいてからさっさと歩き出し冒険者ギルドを出て行く。
「むー、全然振り向かない……私これでも結構モテるんだけど……」
「知るか。ついたぞ」
「ははは、ストイックだなザガムは。ああ、ここか、」
しばらく歩いて昨日の酒場に到着し、店構えを見てバリーの声色が明るいものに変わったのが分かった。
「ハンバーグが食いたくてな」
「ここのやつ美味しいもんねー。体調不良じゃなかったらニコも連れてきたんだけどなあ」
「ま、あいつは治ってからだな。報酬が結構手に入ったし今日は俺達だけで飲もうぜ! マスター、ビールだ!」
「おう、ちっと早いな? お、昨日の兄ちゃんもいるのか」
「今日は払えるぞ」
「へへ、やるじゃねえか。今は空いている、適当なところに座んな!」
カウンター席に近いテーブルに座り、マスターの持ってきたビールジョッキを掲げて声を上げる。
「「乾杯!」」
「乾杯」
「もうちょっと嬉しそうにすればいいのに……」
「くぅーうめぇ! 命があっただけじゃなく、ビールにまでありつけるとはな。改めて礼を言うぜ」
バリーがジョッキをテーブルに力強く置きながら笑いそんなことを言う。
「気にしなくていい。俺も結構な金が入った、これで王都に行ける」
「王都? あなた王都に行くの?」
「ああ」
「また珍しいな……なんか用があるのかよ」
「ああ」
「そればっかり! なにしに行くのよ?」
何故かユニカの機嫌が悪くなり、口を尖らせて尋ねてきた。まあ、話したところで害は無いか。
「勇者が居ると聞いて会いに行くところだ」
「そういえば最近そんな話を聞いたな。でも今回の勇者は運がねえ、よりによってブライネル王国に現れるとは」
「ん? この国になにかあるのか?」
「なに言ってるの。ここはブライネル王国じゃないわよ、お隣の国。あっちの国王って根性が悪いらしいの」
やはり女性はおしゃべりが好きなのか、ユースリアも酒が入るとやたら喋っていた気がするな。人間の【王】は根性が悪いと聞いて俺は『炎王』を思い出す。
部下や領民想いだが他の【王】……特に俺にやたら突っかかってくるやつで、あまり顔を合わせたくないやつだったな。
そんなことを考えていると、バリーがビールを飲み切り俺に指を向けて口を開く。
「税はこのオルソネリア公国より高いし、奴隷制度も残っているんだ、金回りは貴族だけいい。ただ、見栄っ張りだから『表向き』の街並みはキレイで、旅行客はそれなりに居るって感じだな。詐欺師も多いから気をつけろ、いつ出発するんだ?」
詐欺か、魔族にもそういうのを生業にしている口が立つ者が居るが、人間にも大胆なやつがいるのだな。
「忠告、感謝する。飯を食ったらすぐに発つつもりだ」
「はやっ!? 明日の朝とかじゃないんだ!?」
「ああ、早いところ勇者に会っておきたい」
「なんでそこまで……いや、詮索は野暮か、よしそれじゃ深酒はしないで、飯を食うか!」
「そうね、というかアレイヤさんガッカリするわよ?」
「俺は路銀を稼ぎたかっただけだからな、それに勇者を探していることは伝えていた」
「勇者ねえ……もうちょっとこの町で稼がない?」
何故かユニカが食い下がってくるが、俺は無言で首を振る。彼女は面白くないと呟いてから椅子に背を預けてビールをあおった。
そこで俺が注文したハンバーグがテーブルに置かれ、食事に取り掛かる。
「……うむ、やはり美味い。王都にもあるといいな」
「ははは、ハンバーグはこの国にしかない。向こうだとステーキだけだな」
「なんだと……」
「あ、なんかショック受けてる! あはは、面白いわね」
やはり人間の領地を奪った後はマスターを専属料理人にすべきだな。イザールにも食べてもらいたい。
――その後はバリーとユニカと共に他愛のない話をして食事を終えると、俺の分はバリーが支払ってくれた。
「マスター、ハンバーグ美味かった。また来た時は頼む」
「おう、結局自分じゃ払わなかったな! はっはっは!」
「今度来た時は払うさ」
「おお、頼もしいな。……死ぬなよ、お前みたいな若えやつが俺みたいな老いぼれより先に逝くのはしのびねえからな」
「……同感だ。世話になった」
礼を言うと歯を見せながら笑い、店の外まで見送ってくれる。そのまま俺は町の外に出ようと門へと向かう。
「行くのか」
「ああ、金は助かった改めて礼を言う」
「愛想が無い割に真面目だなあ。ま、気をつけて行けよ。隣の国をについて色々言ったが、この国も最近野盗なんかも増えているんだ、国がもうちょっと報酬を出してくれりゃ討伐もできるんだが……っと、お前には関係ないな、忘れてくれ」
「気を付けてね! また会えるかしら?」
俺は黙って頷き踵を返すとユニカがよくわからないことを言い出したので、足を止めて顔だけ振り返って返事をする。
「恐らくもう会うことはないと思うぞ。そっちも気を付けろよ」
「ふんだ! さっさと行っちゃえ!」
今度は振り返らずに片手を上げてすっかり暗くなった道を歩き、俺はやってきた門へと向かう。
「返しに来たぞ」
「んあ? ……おお、あんたか! 返しにってなにをだ?」
「金だ、少ないがこれを受け取ってくれ」
「おお、稼げたのか! 良かったな、いや300ルピくらいいいぜ」
「それでは俺の気が済まない、千ルピ程度だが」
俺がそう言うと、門番は肩を竦めてから金を受け取り口を開く。
「律儀なやつだ。ならありがたく受け取っておくよ」
「ハンバーグを教えてくれた礼もある、それじゃあな」
「っておい、どこ行くんだよ、こんな夜中に!?」
「勇者を探しにな。世話になった」
「やれやれ、野盗にやられたってのに本当に変な奴だな……」
門番が慌てるが、俺は片手を上げて町から出ていき、そのまま森の奥へと向かいレッドアイを探す。毛を少しでももっておけば売れるだろうと算段したからだ。
「……夜なら居るだろう。さあ、獲物はここだぞ」
――しかし、レッドアイどころか魔物一匹出ることは無かった。おかしい、夜は魔物が出やすいはずだが……
結局一時間ほど森をうろついてみたが静かなだったので諦めることにした。
「まあいいか、ブライネル王国にもギルドはあるだろうし、勇者が見つかるまでそこで稼ごう」
仕方なく俺は周囲を見渡し、慎重に空へ浮かび上がり町を見下ろす。たった一晩だったが色々と勉強をさせてもらったなと思う。
人間は弱いが、面白い知恵や思考をしているのが興味深く、他にも吸収して魔族に教えれば役に立つだろう。
「今は平和な時を過ごすがいい、大魔王を倒した暁には……」
……いや、あの町は俺が頂こう、奴隷にしてハンバーグが食えなくなるのは困るからな。
俺はそんなことを考えながら月夜の下を飛んでいく、町で出会った人間達を思い返しながら――
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