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第二章:勇者
その16:勇者を待つ冥王
しおりを挟む「町で騒動を起こすと罰金……ふむ、商人を恫喝といった行為はダメ……当然だな――」
Bランクパーティが立ち去った後、別のテーブルでギルドのルールを確認させてもらった俺は、頭に入れたので資料を返却して再び受付の男の下へ戻って声をかけた。
「助かる、これでこの町で過ごすことに問題は無さそうだ。それより、勇者の話を聞かせてくれるか?」
「……うーん」
俺が詰め寄ると男は渋い顔で唸り、ギルドカードと顔を交互に見ながらしばらく考えていたが、首を振ってこう答えた。
「ダメだ、悪いけど依頼について言うわけにはいかない。戻ってくるのを待っていてくれ」
「……そうか、無理を言ったな」
「いや、それより次は依頼の件だね、Eランクならこの辺りでどうだい?」
「金になればなんでもいい」
「そういえば君は一人かい? パーティメンバーが居ればDランク程度のなら紹介できるんだけど」
「一人だ。故郷を出たばかりで知り合いも居ないしな。勇者に依頼をしたいがためここに来たのだ」
「おいおい、無茶をする……」
受付の男は周囲を気にしながら依頼をいくつか出してくれ、その中に報酬が良かった‟ファングボア”一頭の納品が目を引いたのでそれを選んだ。
「うん、この依頼は一頭丸々持って帰れば50000ルピだよ。荷車を貸してあげるから持ち変えれそうなら一頭。ダメそうなら金額は下がるけど部位ごとにバラして持って帰れば査定するから」
「分かった」
受領してもらい俺が席を立つと、依頼票を見ながら難しい顔をしていたオーラムがぼそりと口を開く。
「……勇者に会ったところで――」
「ん? なんだ」
「い、いや、なんでもないよ。早く戻ってくるといいね。裏に居る爺さんにこの紙を見せれば荷車を貸してくれる」
「……」
俺は片手を上げて挨拶をするとギルドを後にするため出口へ向かう。その間、談笑している人間達の視線は俺に向いていることに気づき、最後にぽつりと聞こえた『勇者に会ったところで』という言葉を頭に思い浮かべたところで外に出た。
「勇者は難しい人格なのか? 会ったところでEランクでは相手にされないとでも言いたげな感じだったな。あのBランクパーティは勇者より強いなどと言っていたが、流石にそれは自信過剰だろう」
どちらにしても会ってみなければわからないかと荷車を貸してもらうためギルドの裏へ回り、オーラムの言っていた爺さんが目に入ったので声をかける。
「すまない、荷車を貸してくれると聞いて来たんだが」
「ん? 見ない顔だな、新入りか?」
「ああ、昨日この町に着いた」
「ほう、いい面構えじゃねえか。ランクは高ぇのか?」
「残念だがこんなものだ」
爺さんにギルドカードを見せてやると、彼は目を細めて俺の顔と見比べて口を開いた。
「……ふうん、ワシの見立てなCランク以上はありそうじゃがなぁ」
「誉めても何も出ないぞ?」
「はっはっは、ストイックなヤツじゃ! おう、ジジイの目はまだ狂ってはおらんつもりじゃが、まあええ。荷車じゃなそこにあるのを持っていけ」
爺さんは顎に手を当てて並んでいる荷車を指指して笑う。
「しっかり手入れされているな、いい仕事だと思う」
「誉めてもなんも出りゃせんぞ!? 面白い男じゃ、ワシはクレフという。お主は?」
「ザガムだ。すまないが借りていくぞ」
いい仕事というのは嘘じゃなく、車輪も台ものもしっかり磨き抜かれていてメンテナンスは完璧。引いた感覚はとても軽かった。
爺さんに見送られて町の外に出ると、少し歩いた先にある森の中へと足を踏み入れる。
「静かだな」
俺の引く荷車の音が静かな森に響く。
冒険者も多い王都だから依頼で魔物の駆逐が出来ているのだろう、魔物の気配はかなり薄い。
まだ森も浅い場所なので目的の魔物を探すためさらに奥へ進む。
そんな中、俺は勇者のことについて考えていた。
「仮に勇者の性格が最悪で、多額の報酬を要求したり無理難題を吹っ掛けてくる場合は厄介だな。自分より弱い人間の頼みを聞かないとなるとランクを上げていく必要も出てくるか」
勇者の話はメギストスに聞いていて昔ヤツが見たことのある勇者は『正義の英雄』というものだったらしく、人に優しい強者だったそうだ。
当時の【王】は悪逆非道で勇者に散々な目に合わされたと言っていた。
だけど、勇者も人間。
先に挙げた『能力の低い』勇者も居たのだから性格も悪いやつがなってもおかしくないとはメギストスの弁だ。
「む、勇者が弱いという可能性も考えられるのか? いや、長期間かかるような依頼を受けているんだからそれはないか……?」
目下問題は金になりそうなのでファングボアを一頭を目指し森を突き進む。
これで勇者が使い物にならなかったらアホだなと思っていると、二時間ほど彷徨ったところで目標の魔物を見つけることができた。
「さて、悪いが俺の金になってもらうぞ。せめて一撃で終わらせてやるからな」
人間は『家畜』といって食べるために動物の牛や豚などを飼育しているという。それでも魔物の肉が美味しいので、今回のファングボアも肉が高値で取引されるのだそうだ。
「こっちだ!」
「ブモ……!」
それはともかく俺は倒すため石を投げてきのこを食べていたファングボアをこちらに気づかせ、すぐに駆け出す。
視認させずに飛び掛かった場合、その場で頭を振って暴れ出すから牙で怪我をすることが多い。しかし気づかせてから突撃すると向こうも突進してくるので御しやすいのだ。
「ブモォォォ!」
「少しだけ力を解放して……ハッ!!」
「ブ……!?」
目論見通り突進してきたファングボアを避け、すぐに腹へ拳を叩き込むと、一瞬ビクンと体を震わせた後、その場に崩れ落ちた。
「我ながら上出来だ」
なるべく傷つけないように倒す方がいいと言っていたので、心臓に外から衝撃を与えて一撃で絶命させてやったのだが力の加減を間違えると貫いてしまうから意外と難しい。
まあ、これで依頼は達成できたので帰って昼飯でも食いながら勇者を待つかと、ファングボアを荷台に乗せてまた二時間かけて町へと戻っていくのだった。
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