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第二章:勇者
その18:傷だらけの少女
しおりを挟む「え、えへへ、ご、ごめんなさい……あ、あれ……」
俺とぶつかって尻もちをついた少女は、薄い水色の髪の毛を短く後ろに縛っていた、薄汚れていた。
服もボロボロで、防具らしきものは見当たらず全身傷だらけの包帯まみれ。
少女なので立ち去ろうと思ったのだが、どうにも力が入らないのかうまく経つことが出来ないらしい。
「……ほら、掴めば立てるか?」
「?」
「どうした?」
「い、いえ、なんでもありません! よっと……ありがとうございます」
「……」
「ど、どうしましたか!? すみません、私、汚いですよね……! ああ、手を拭きたいんですけどあいにくハンカチが……」
少女が立ち上がると、手のひらを見つめている俺の様子がおかしいと感じて慌ててポケットを探りだしたので声をかける。
「いや、なんでもない」
「そうですか……?」
……俺は女性が苦手だ、先ほど出会ったコギーくらい子供ならそれほど不快に思わないのだが、目の前の少女は十六歳……人間でいう成人は越えていると思う。
メギストスに取り巻いているサキュバスの娘やヴァンパイアの娘といった者が遊びで俺の手を握ったりすると、発汗したり顔が熱くなるといった不快感を催すのだがこの少女にはそれが無かったので不思議だと一瞬呆けてしまった。
まあ、それはともかくこの娘もなにやら急いでいるようなのでさっさと退散するに限る。
「歩けそうだな? それじゃ俺は行くぞ」
「あ、は、はい! ありがとうございま――」
しゃきっとして俺に礼を言おうとした少女は、その瞬間物凄い腹の音を出した。
「あ、あはは! しゅみません……お恥ずかしい限りで……そ、それじゃこれで!」
「待て」
「な、なんでしょう……?」
「俺は今から飯を食いに行くんだが……来るか?」
「……すみません。私、お金無いんですよ。まあこの格好を見て貰ったら分かると思いますけど」
困ったように笑う少女は腕を抑えながら俺から離れていき、ケガも痛むのだろうと推測される。
俺は少し考えた後、クリフの言葉を思い出して少女に言う。
「なら俺が奢ってやるから一緒に来い」
「い、いやいやいや!? ぶつかった人に奢ってもらうとかどんな当たり屋ですか私!?」
む、そういうものか? 魔族なら運が良かったとばかりに食いつくんだが。
仕方ない、メギストスの真似事などしたくはないが……
「気にするな。なんだったか……。そう、ナンパというやつだ。俺がお前と飯を食いたいだけだ」
「そ、そんな……私可愛くないですし、傷だらけだし……」
「食いたいのか、食いたくないのか?」
別にその辺の女性と比べて変だということは無いと思うがわざわざ言う必要も無いので、食事をしたいかどうかだけ問う。
「は、はい! 食べたいです!」
「よし、ではついてこい」
「い、いいのかな……」
少女は歩き出した俺に、困惑しながらついてくる。だが、ケガは見えないところに酷い部分があるのかよろよろとしていた。
これでは食事も難しいか? 俺は少し視線を動かし、丁度いい場所を見つけたので手を引いて移動し、少女を壁に押し付け覆い隠すように前に立つ。
「ひゃあああ……!? もしかして食べられるのは私だったりします!? やっぱりばっちゃの言うように都会は怖いところだべ……!」
「静かにしろ<ヒーリング>」
「オ、オラ、弱いけど、て、抵抗はすっからな! ……って、あれ?」
人通りの少ない路地ならと俺は少女に回復魔法をかけて傷を癒してやることにした。傷だらけの相手を目の前にして食う飯は美味しくないからな。
「これで大丈夫か?」
「……凄い、全然痛くなくなった……名のある回復師の方なんですか?」
「いや、Eランクの冒険者だ。今のは誰にも言うなよ?」
「あ、言いふらしたりしません、絶対に」
「それでいい、それじゃ行くぞ」
「ま、待ってくださいよう!」
これでゆっくり飯が食えるなと思いつつ、程なくしてレストランに到着し入り口を開けると元気のいい声が俺達に投げかけられる。
「いらっしゃい! 二人かい? 丁度忙しい時間は過ぎたから適当なところに座んなよ」
「承知した。……あそこでいいか」
窓際の端に目立たない場所があったので移動すると、正面に少女が座り、先ほど声をかけてきた恰幅のいい婦人がメニューが書かれた羊皮紙を持ってきた。
「ん? そっちの子、まさか……」
「……」
「なんだ?」
婦人が少女の顔を見た瞬間、訝しむような仕草を見せ、少女も顔を青くしてサッと伏せた。気になったので尋ねてみるが、
「……ま、いいさ。ゆっくりしていきな」
婦人は優しい顔で戻って行き、結局なんだったのは分からなかったが気にしても仕方がないので背に声をかけておく。
「ああ、そうさせてもらう。ほら、なんでもいいぞ。さっき依頼を終わらせて金を手に入れたから余裕だぞ」
「うん……。あ、は、はい」
「ハンバーグは無いか……仕方ない、アンクルバッファローのステーキにするか。お前は?」
「私は……パンとスープがあれば……」
ふむ、まあいきなり飯を奢ると言われて恐縮しないやつは居ないか。メギストスが声をかけた女は喜んで奢られていたんだが、ナンパとはそういうものじゃないのか……?
「遠慮しなくていい。俺が食べにくいから頼む」
「あはは、奢る人がそんなことを言うの初めて聞きましたよ! う、うーん……それじゃあ、同じものをお願いしていいですか?」
「もちろんだ。すまない、ステーキセットを二つと、ワインを頼む。お前、酒は?」
「私は飲んだことがないから大丈夫です!」
「なら、ぶどうジュースを」
「はいはい、少しお待ちくださいなっと。あんたー注文入ったよ!」
婦人は奥へ引っ込み、客の少ない店内は静かなもので注文を終えると不意にお互い喋らなくなったので空気が微妙になった。
クレフに自分のことで精いっぱいと言っておきながら食事を奢ろうとしているので嘘をついてしまったなと胸中で舌打ちをしながら、そういえばこの少女の名前も聞いていないことに気づく。
まあ、聞かなくても食事だけだからいいかと窓の外に目を向けると、少女が話しかけてきた。
「あの……治療、本当にありがとうございました。私も依頼をしていたんですけど、失敗しちゃって……。あ、私はファムって言います!」
「俺が気になっていただけだからラッキー程度に思っておけ。……俺はザガムだ」
「ザガムさんですね、覚えました!」
俺が名乗ると優しく微笑むファムを見て、随分傷だらけだったが、まだ駆け出しの冒険者ということか? 仲間も居ないで女一人は結構危険のような気がするな。
「あ、あの――」
「はい、お待ちどうさま!」
「食うか」
そんなことを考えているとファムが俺になにか言おうとしたが、料理が到着しそれが遮られた。ロクな話になりそうにないので助かったなと思いながら食事をすることにした。
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