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第二章:勇者
その19:すれ違う冥王
しおりを挟む無言で料理を口にするファムをたまに見ながら食事を続ける俺。
見た目はユースリアに勝るとも劣らないくらい容姿で、美人というよりは可愛いという印象を受ける。
「……? なにか?」
「……なんでもない。それより依頼が失敗と言っていたな」
「はい……北の方にゴブリンが巣を作っていて、討伐して欲しいという依頼だったんですけど、数が多くて戦いにもならず、捕まりそうになったところ逃げ出してきました……」
ゴブリン討伐とはまた難易度の高い依頼をやっていたものだと俺は目を細める。
奴らは群れているので数が多く、身長は低いがそれなりに知能があるため人間一人で対処するには相当厳しいはずだ。
魔族領内でも村を襲う群れなどがあれば駆逐することもあるくらい厄介な存在である。
繁殖力も高く、ファムが捕まっていれば死ぬまで子を産まされ続けるだろう。不思議なのは必ず生まれてくる子はゴブリンになるという。
……いや、そんなことはどうでもいい。
それより食事も満足にできていないような彼女が達成できるとは思えないくらいゴブリンという種族は厄介なのだ。
アレイヤは『相応の依頼』を請け負わせると言っていたがどうなっているのか。
「ジャイアントアントの討伐のような簡単なものからするといい。Eランクの俺でも達成できたからな」
「そう、ですね……」
ファムは青い顔をしながら肉を口に運び、ゆっくりと咀嚼して飲み込む。そこからは食べ終わるまでお互い無言のままだった。
ワインを飲み終わるのを待ってもらい、三千ルピを支払って外に出るとファムは笑顔で俺に向き直り深々と頭を下げた。
「ザガムさん、ありがとうございました! 傷を癒してもらった上に食事まで……お礼をしたいところなんですけど、私にできそうなことが無くて……」
「気にしなくていい、俺が勝手にやったことだ。食事もナンパだったしな」
「あは、そうでしたね。それじゃ、ギルドへ行きます。失敗でも報告はしなければいけないので……」
「奇遇だな、俺もギルドに用があるんだ」
「そうなんですか? ……でも、やっぱりここでお別れです。私と一緒に居たらザガムさんまで――」
「なんだ?」
「あ、いえ、なんでも! そ、それじゃごちそうさまでした!!」
止める間もなくファムはダッシュで走り去り、姿が見えなくなった。元気になったことを喜ぶべきだが、去り際の言葉も気になる。
だが――
「こっちからわざわざ関わる必要もないな。さて、勇者が帰っているといいが」
食後の散歩がてらゆっくりを町を散見しながらギルドを目指す。
「防衛はまあまあだな……」
流石に王都というだけあって城壁と城壁の距離が相当ある。
空を飛べる俺なら上空からの魔法で一網打尽にできるだろうが、攻城戦になれば攻める側は覚悟をしなければならないと思う。
「商店が並ぶ場所と住む場所は分けているのか、買い物に不便のような気もするが……?」
そんなことを考えながら歩いていると、気づけばギルドに到着していたのでオーラムに一度挨拶をしておこうと受付へ向かう。
「ザガムさん、もう帰って来たんだ? 納品場所は分かったのかい」
「ああ、クレフが教えてくれた」
「へえ、あの人が」
オーラムはびっくりした顔で目を大きくするが、すぐに笑顔に戻り、俺に尋ねてくる。
「依頼が終わったらなんで……って、そうか。勇者を探しているんだったっけ。さっき戻ってきたよ」
「本当か、どこに居る?」
「あー、生憎もう帰っちゃったんだ」
「場所を教えてくれれば俺から向かう」
「いやいや、それはダメだよ。そういうのを僕達から教えるわけにはいかないんだ」
「どうしてだ」
俺がオーラムに詰め寄って尋ねると、『なに言ってるんだ』という顔で少し怒っているような口調で返してくる。
「住処をほいほい教えるギルドがどこにいるんだよ。もしザガムさんが『彼女』に恨みがあって、危害をくわえようとしていたり、暗殺者だったらどうする? 死人に口なしとは言うけど、死亡事件に情報を提供した事実があったら僕達にも責任がついてまわる」
「……なるほど」
俺は城に居を構えていたから誰でも居場所を知っている。なのでその考えは頭になかった。言われてみればアジトの場所をぺらぺらと話すやつなんて信用できない。
「一応、本人が伝えてもいいという場合はその限りではないですが、仰せつかっていませんのでお引き取りください」
「……分かった。邪魔をしたな」
機会はまだあるため無理を言っても仕方ない。
俺は明日の朝にでも出直そうと踵を返し、歩こうとした瞬間背後からオーラムに声をかけられる」
「明日の朝、なるべく早めにここへ来れば会えると思います。少しだけ引き留めときますから」
「分かった、助かる」
ギルドを出ると俺は宿に向けて歩き出す。
「早めに起きねばなるまい、今日はもう休むか」
特にやることもないので俺はさっさと寝ることに決め、翌朝へ備えることにした。
ついに勇者と対面か……大魔王をも倒せる力を持つ人間、楽しみだ。
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