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第二章:勇者
その28:ファムの力
しおりを挟む「村の近くにも巣を作っていたことがあるんで怖くはないですけど、スィートビーって定期的に巣の場所を変えますよね?」
森を歩きながら横を歩くファムが緊張した面持ちで剣に手をかけたまま周囲をせわしなく見ていた。
「もう少しリラックスしろ。ガチガチになっていると、いざ襲われた時に身体が動かない」
「うう、そんなこと言われてもやっぱり怖いですよぅ」
「目で見ることも重要だが――」
「ひゃ!?」
俺は木の枝に絡みついていた‟ランススネーク”の頭を掴んで引きずり下ろし、そのまま握りつぶして絶命させる。
「こういう風に気配を感じて危機を回避することも重要だぞ。……こいつは売れるかな……?」
「おー、さすがザガムさん。私もそういう風になれますかね」
「その辺の冒険者程度ならそれほど難しくない」
「え! じゃあすぐにEランクに!」
「ああ、一年くらいでEランクを目指すぞ」
「一年……」
そこで明らかにガッカリした様子を見せるファムだが、ただの村娘が戦えるようになるにはそれくらいの修行が必要なので仕方がない。
ただし、ファムは『勇者』なので覚醒すればすぐに強くなる可能性は高いが。
……まあそうなるかどうかは分からないが、鍛えると言った以上、無茶をして死なないくらいにはしないと寝覚めが悪い。
「頑張ろうっと、ザガムさんが居るから安心して修行ができます! ……あ、この匂いは」
「近いな、行くぞ」
とりあえずランススネークを革袋に入れてさらに進むと、周囲に甘い匂いが漂ってきたので、スィートビーの巣が近くなってきたことが分かる。
「居ましたよ、ザガムさん!」
「剣を抜けファム、早速修行開始だ」
「は、はい!」
茂みに身を潜めてスィートビーの姿を確認したところでファムに剣を抜かせて戦闘準備をさせ、俺は一匹だけおびき寄せるため小石を投げて誘導する。
仲間を呼ぶ可能性があるが、一匹引いた後は気配を遮断するフルムーンケープをファムに被せればいいだろう。
「ブブブ……?」
「こ、こっちに来ましたよ……」
「一匹だけこっちにおびき寄せた、お前はあいつと戦うんだ。一匹ならそれほど危険もないだろう。ほら」
「わ……。あ、フルムーンケープ♪ これ可愛くて好きです! よ、よーし、いきますよ!」
さて、先日と違い装備は十分。俺がお手本を見せてもいいが、まずファムの動きを見ておくとしよう。まあ、剣を振るのは期待しておらず、持久力と瞬発力のチェックといったところだ。
「ブブブ!」
「い、一匹だけなら追い払ったことあるんだから! やっ!」
「ほう」
「ブブ!?」
先制を仕掛けたのはスィートビーだったが、木の棒を振るような大振りながらも怖がらずに胴体を狙い、反撃が来ると思っていなかったスィートビーが直前で舞い上がり回避すると、今度は針を突き出してファム目掛けて急降下を始める。
「や、やあ! わわ!?」
「ブッブブブー!」
「ひゃあああ、怖い怖い!?」
ファムは急降下してきた魔物の針を剣で受けてしまい派手に転ぶと、追撃を転がりながらなんとか回避していくのを見て俺は声をかける。
「ファム、転がりながらでいい。次に上を向いたら剣を真上に突き出せ」
「えええー!? ……う、上……上を向いた時に……!!」
ぶつぶつ言いながら剣を握る手に力を込め、二回転したところで勢いよく剣を突きだした。
「ブブ……!?」
「あ……」
「よし、いいカウンターだったぞ」
針がファムに届く前に剣で串刺しにされたスィートビーの目から光が消え、動かなくなるのを確認したところで剣から外して地面に転がす。
「まずは一匹、というところだな。……立てるか?」
「……ハッ!? はい! 立てます立てます! ありがとうございます……。でも本当に倒せたんですね……」
「そうだ。確かな一撃だったぞ」
「あは……えへへー……」
ファムは倒した獲物を見て顔を綻ばせて喜んでいた。まあ、かなり楽に倒せる魔物ではあるが、戦士において重要なのは度胸。
そしてその度胸をつけるためには成功体験があるとなお良く、自信に繋がるのだ。
「よーし、これならなんとかなるかも! 次、次いきましょうザガムさん!」
……まあ、あまり調子に乗られても困るんだがな。
「よし、ならここでアドバイスを一つやろう。スィートビーの攻撃手段は顎での噛みつきと針による一撃だが、狙うべきは針を使った攻撃だ」
「え? 顎の方が危なくないですか? ふわふわして当てにくそうですし」
「確かにその通りだが、倒すにはあの急降下を狙うのが一番いい。お前は剣で受けていたが、あれは一歩後ろに下がるだけで隙だらけになるんだ」
「あ、そっか! あのスピードだと急に方向は変えられないから……横斬りで真っ二つにできるんだ」
「そういうことだ。今日は二、三匹倒したら終了でいい」
「はい!」
ファムは気を良くしたようで、元気よく返事をする。
とりあえずスィートビーを一匹ずつおびき寄せてファムに倒させるということを繰り返すこと三回ほど行ったところで――
「はあ……はあ……つ、次……」
「もう終わりでいいぞ。よく頑張ったな」
「まだ行けますよ?」
「息が上がっているし、身体も限界だろう。緊張すると体力の減りは思ったより激しいんだ。無理をしてももたないから最初はこれくらいでいいんだ」
「ザガムさんがそう言うなら……」
少々物足りないといった感じだが無理をすると大けがに繋がることも多い。……俺も子供の頃やらかしたことがあるので引き際は肝心だ。
「よし、後は任せろ。ファムは瓶の準備を」
「はーい」
俺は指を鳴らすと一気に巣へ迫り、拳による一撃で眼を潰していく。
なるべく傷つけないで倒せば金になることは先日分かったので、急所狙いで確実に倒す。
「ふわあ……」
「頭を下げていろ、多分この巣はそれほど多くない。100匹ほど倒したら終わるはずだ」
そして――
「ザガムさん……凄すぎます……」
「今はお前しかいないから一気にやったが、Eランク冒険者はもっと時間をかけるものだからな」
「うん。その収納しているボックスはなんなんだろう」
「気にするな。慣れてくれ」
「もう、いいですけど……本当になんでEランクなんですか――」
ファムが蜜の瓶を俺の収納魔法に入れていると、かなり遠くで爆発音が聞こえてきた。
「今のは……」
「あの辺りって……ゴブリンの巣ですよ!?」
「あのBランク冒険者がファムの代わりに行ったゴブリン退治か。大層な口を利いていたからちゃんと退治してくれるだろうな」
「結構な数が居たからもしかしたら苦戦しているのかも……ザガムさん、救援に行きませんか!?」
「お前を馬鹿にしていた連中だぞ?」
「で、でも、人が死んじゃうかもしれないのはダメですよ! ザガムさんなら余裕で倒せるんですよね!」
「しかし……」
「ううー、いいです! 私だけでも行ってきますから!」
そう言って走り出したファムの背中を見て、俺はため息を吐きながら足を踏み出す。
「いきなり死なれたら困るのは俺も同じだ、仕方ない行くぞ」
「ザガムさん! って、ええー!?」
「しっかり掴まっていろよ」
俺はファムを抱えて空を飛ぶ。これの方が速いからな。
それにしても……ふむ、やはりファムに触れても発作は出ないな。まあ、今はそんなことどうでもいいか。
まだ上がる煙を目指して俺は移動を始めるのだった。
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