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第二章:勇者
その31:ちぐはぐな冥王
しおりを挟む「なんだ? 俺達は依頼を報告して金を手にしたいんだ、手短に頼むぞ」
「ちょ、ちょっと待ってってば。ルガード、ルガード!」
「あんまり揺らさない方が……」
ガクガクと男を揺らす赤い髪の女にファムが苦笑しながら止めようと声を上げたところで、ルガードという男が目を覚ます。そういえばそんな名前だった気がする。
「んあ? マイラ……? ここはどこ……って、そうだ、巨大ゴブリン!? ぐあ!?」
「落ち着いてルガード、色々終わっちゃったからその説明も含めて彼らの話を聞くわよ」
マイラと呼ばれた女は慌てふためくルガードの頭をはたいて落ち着かせる。中々気が強い娘だが、効果的だと感心していたところでルガードが口を開く。
「いてて……お、お前はEランク冒険者、か? それにファムじゃないか!? なんでここに……ゴブリン退治は僕達が引き受けたのに……」
「あ、それはさっきマイラさんに話しましたけど、私達は依頼をするため来ていたんです。そしたら遠くで爆発が見えたのでこちらへ来たんですよ」
「依頼? あんた、良くてEランクでしょ、なんの依頼を受けたのよ?」
緑髪の女が金髪の回復術師を支えながら口を尖らせて尋ねてくると、ファムは笑顔で返答する。
「スィートビーの討伐です! ザガムさんと修行がてら完了したんですよ!」
「え、マジで!? 陛下の嫌がらせはどうなったんだ!」
「あ、それもザガムさんが説得……でいいのかな? をしてくれまして、装備も頂くことができたんですよ」
「た、確かに剣と鎧があるわね……いやいや、そこじゃなくて、そいつってどこかのお偉いさん!? 陛下に意見できる人なんて王族くらいだと思うけど!?」
「偉くはない。知っての通りEランク冒険者だからな」
「……やっぱりそのフレーズ気に入っていますよね……? ま、まあ、きちんと話てくれた結果なのでもう嫌がらせとかはないと思いますよ!」
『絶対有り得ない』と言う時のユースリアみたいな顔で俺達を見る三人だが、事情は説明したのでもういいだろうとファムに声をかける。
「というわけだから、俺達は帰るぞ。そうか、依頼を受けたんだったか、そこのゴブリンロードが死んだからこの辺りはもうしばらくゴブリンは居なくなるはずだ、首を持っていけば報告できるか?」
「うわ……!? た、倒したのか……? Eランクが……?」
「そこは信じられないでしょうけど、私達が間違いなく倒したところを見たわ。そう、それよ! あんたEランクだとか言っているけど、本当は違うんでしょ? カードを見せなさい」
俺はファムにカードを渡してから継いでマイラに渡してもらう。
「どうぞ……」
「なんでファムちゃんが……」
「ええっと、女性が苦手だそうです」
「ふん、意味が解らないわね……本当にEランクだ……噓でしょ……しかもゴブリンロードだって言ってたわよね? Aランク数人でも手に余る相手なのに……」
「どう思っても構わないが、間違いなくギルド発行のカードだろう。では、行くぞ、ファム」
マイラからギルドカードを返してもらい、俺達は再び歩き出すと、ルガードが慌てて回り込んできた。
「そ、そういうわけにはいかない! ゴブリンロードなんて僕達で倒せる相手じゃないんだ、説明するためにも一緒に来てもらわないと……」
「……ふむ、ではゴブリンロードなんていなかった、というのはどうだ?」
「嘘はダメだ。僕はそういう冒険者に痛い目を見せられたことがあるからね。悪いけど、一緒に街まで戻ってくれ」
「……仕方ない」
俺が渋々頷くと、Bランクパーティ達はゴブリンの遺体から角を切り落とし、ロードの遺体と金髪回復術師を荷車に載せてから歩き出す。
「もう、ザガムさんお手伝ってくれたら良かったのに……」
「俺は面倒な報酬は必要無かったから帰る予定だったんだ、それを引き留めたのはあいつらだから手伝うことはない」
「そういうところは冷たいですよねー」
なにが不満なのかファムは珍しく口を尖らせてそんなことを言い、俺の横を歩く。
――道中、ルガードが勝手に話をしていたのを聞くところ、どうやらこのゴブリン討伐はファムが受けなくてもいいように、横から奪ったということらしい。
他にも国王のお触れでファムに嫌がらせをするように言われていたとも。だが、流石に大した実力もないファムにそんなことをさせられないとヤバイ依頼は高ランクパーティが受けていたそうだ。
先日、ファムが血だらけで戻ってきた日は間に合わず、真面目に早起きをするファムのいいところが裏目に出た様子である。
……さらに、勇者は死ねばいつ出てくるか分からないが別の人間に受けつがれると聞いた。つくづく、あの国王に威圧をかけておいてよかったと思う。
「……にしても、陛下がなあ……僕達でも恐れ多くて進言できないんだけど」
「確かに権力は厄介なものだ。しかし理不尽だと思うなら行動するしかない。ギルドの連中もお前達も、国王の顔色を伺ってとりあえず守るんじゃなく、冒険者全員で城に乗り込むくらいやれば良かったのだ。見たところ魔物退治は冒険者やギルドが一手に引き受けているのだ、お前達が依頼を受けず別の町や国へ移動すれば国王は相当困ることになると思うのだがな」
「……耳が痛いね。確かにそういわれれば抗議することはできた……」
「ザガムさん」
「ふう……まあ、権力というのは下の人間にとってみれば足枷になることが多いのは分かるから俺としても必要以上に責めたいとは思わないがな」
ファムが落ち込む三人を見てフォローして欲しいと小声で言うので、一応、それらしいことを言う。
実際、メギストスや俺といった権力者に逆らえないのは魔族の方が恐らく多い。
強者に従う方が楽、という者も居るが、たいてい【王】になる者は能力そのものが高いからだ。
「……そう考えると人間の王は力も無いのに何故王になれるのだろうか……?」
「え?」
「いや、なんでもない。そうだ、ついでに魔物の気配を察知する訓練でもしながら歩くか」
「あ、いいですね! どうやるんです?」
「ホント、あんた何者なんだよ……ゴブリンロードを倒すようなヤツ、Bランクパーティでも厳しいってのに。どう説明するかなあ」
「俺のことを言わなければ別になんでもいいぞ。罠を仕掛けて倒したとかで」
「簡単に言うなっての……」
ルガードはぶつぶつと悪態をつきながら荷台を引き、ゴブリンたちを倒した場所から数時間かけて俺達は町へと到着したのだった。
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