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第三章:堕落した聖女
その56:冥王と勇者と聖女見習い
しおりを挟む「というわけで予期せぬことだが今日からこの屋敷で一緒に住むことになった。これからよろしく頼む」
すっかり日が暮れた現在、メインで過ごす部屋の掃除を終えて一旦リビングへ集まる俺達。
何故か?
掃除中に色々と問題があったので、改めて話をする必要があると判断したからだ。
「はい! こんな大きな家に住めるなんて夢みたいです。家族を呼んでいいですか!?」
「ダメに決まっているだろう。修行は過酷だ、家族が引き止めに入ったら面倒だ」
「残念……でもザガムさんの修行って効率がいいですけど、厳しくは無いような……」
「それでもだ。それとファムはちゃんと自分の部屋を確保するようにな」
「え!?」
驚く理由が分からないが、こいつは俺の部屋が決まった後に寝室へパジャマやら着替えを置いたのだ。
「部屋はたくさんあるのだ、一人部屋の方が落ち着くだろう。俺は落ち着く」
「あうう……一緒に寝たいのに……」
「ダメだ」
「まあいいじゃないファムちゃん、後で潜り込めば」
「そうですね!」
何故そうまでして一緒に寝たいのか分からないが、女性というのは恋人ではない男と一緒に寝るのは嫌じゃないのか? 好きだったらいいのか? ……分からん。
ファム相手ならいつもの『発作』は出ないので気にはならないが釘は刺しておこう。
「鍵はかけるからな? そしてルーンベル」
「なーに?」
「お前、賭博場に一人で行くなよ? 自分の金でやる分にはいいが、酷いようなら俺で止めさせてもらう」
「う……」
「さっきの掃除用具代で、しれっと増やしてきたのは知っているぞ。荷物はないはずなのになにか持っていたな」
「大変申し訳ございませんでしたぁぁぁ!」
俺が渡した金額分はしっかり掃除用具を買っていたが、それプラス別の袋を持っていたのを見逃さなかった。
どういうことかと睨んでみると、即座に椅子から飛び降りて土下座をする。
「まあ、今回は見逃してやる。勝ったようだしな」
「よっと……まあ、基本的に大負けはしないのよこれでも? ……でもあんた達二人は真面目そうだからギャンブルはしないでね?」
「どの口が言うんですか!?」
「ああ、違う違う。ゲームは駆け引きが重要だけど、苦手そうじゃない? あっち向いてほいで9割負けていたザガムとファムちゃんじゃちょっとねえ」
「むう」
じゃんけんは五分だったんだがな。とは言わないでおこう、むなしくなりそうだ。
「とりあえずファムが向いていないのはなんとなく分かるので、あくまでもルーンベルが賭けごとを嗜みたい場合は監視役としてついていくだけなので心配あるまい」
「ザガムさん酷い!?」
「オッケー。……とりあえず一回は付き合ってもらうと思うわ」
「いいだろう」
話をそこで区切ると、ルーンベルが口を開いた。
「そういえばファムちゃん……」
「ファムでいいですよ、仲間ですし」
「ファムは前にザガムのお嫁さんとか言ってなかったっけ? なんでなの?」
「いい質問ですね! ザガムさん、大魔王討伐の前にお見合いをすることになっていたらしいんですけど、それが嫌で逃げて来たとか。それで助けられた私が候補として手を上げました! いひゃい!?」
端的過ぎて誤解を招きそうなので、ファムの頬を引っ張ってから続ける。
「……大魔王討伐に家の者が理解を示さなくてな、それでお見合いを押し付けて結婚させてしまえばと考えたのだろう。勇者が出現したという噂を聞きつけたので、協力を仰ぐのを誤魔化すため、嫁探しという名目で出て来たのだ」
「ふーん」
【冥王】も大変ねという目で俺を見るルーンベル。
すると、ルーンベルが俺に近づき耳元でこそこそと話し出す。
「(冥王の嫁に勇者ってどうなのよ? でもあの子候補なのよね?)」
「(ああ。結局人間の国は蹂躙される可能性があるから、あいつが黙っているとも思えんが)」
「よし……決めたわ!」
「なにをですか?」
ファムが怖い顔をしていると、ルーンベルが腰に手を当てて言う。
「私もザガムの嫁候補になるの! あんたって貴族っぽいし、娶るのは多くてもいいはずよね(というか征服されたら奴隷なんて嫌だし、妻になるわ)」
「確かに法はないが……(本気か?)」
「なら決まり、そういうことだからよろしくねファム」
「ええー……独り占めできないのー……ザガムさんはそれでもいいんですか?」
「決めるのは俺だからな。二人とも候補から外れる可能性だってある」
「あ、そういえば……」
ファムがこの世の終わりみたいな顔をするので心苦しいが、大魔王を倒せるまでになればファムは脅威になる。始末も考えないといけないかもしれない。
……まあ、傍に置いておけば倒されることもないだろうが、人間の敵となる以上最終的には倒すべき相手になる。
「まあまあ、私達の魅力でそのうちにね♪」
「うーん、そうですね! 全然手を出してこなかったからなあ……」
「それはいい。まあ、今まで通りということで頼む」
「「はーい」」
相変わらず返事だけはいい二人に、ため息を吐く。
指針が決まったところでそういえばとファムがルーンベルへ質問を投げかけた。
「そうそう、聞きたかったんですけど、ルーンベルさんって聖女【見習い】なんですよね。どこかで修行をしていたんじゃないんですか?」
「……」
ファムの問いに、一瞬険しい顔を見せる。だがすぐに表情を戻して、笑いながら言う。
「あれよ、私ってすでに結構強いから修行が必要なくてねえ。お酒もないし、ギャンブルも無いから逃げて来たのよ!」
「そ、それはいいんですか……? 連れ戻されたりとか?」
「あははは、私みたいな堕落した女を追いかけるなんて多分、ないわ」
「そういうもんですか」
……と、ファムがへにゃりと笑うが、俺は見逃さなかった。ルーンベルの口調や口元は笑顔だったが、目は笑っていなかったことを。
【外典】と、いつか協力して欲しいことに関わるモノだろうか? まあ、今は聞かないでおいてやろう。
「それじゃ今日は少し豪勢に行くか。結成祝いとマイホーム祝いと行こう」
「やったぁ! ザガムさん大好き!」
「久しぶりのお酒ね、飲むわよ!! 愛してるわ!!」
現金な奴らだと思いつつ、俺達は陽が暮れた町へと繰り出していくのだった。
◆ ◇ ◆
――ザガム邸
「ああ……もう出奔されてからもう二週間近く……ザガム様はいったいどこへ!?」
「こんにちは。……まだ戻っていないの?」
「おお! これはユースリア様! はい……わたくしめが不甲斐ないばかりに……」
ザガムの屋敷を箒で掃きながら嘆いているイザールに、訪問してきたユースリアが声をかけた。
彼女は自領地を守りつつ足しげく通っていたが、いつも空振りであった。
「あの子ホント思いついたらやっちゃうから困るわね。大魔王様は6ヵ月戻って来なかったら【王】から外すと言っていたのよ、音沙汰もないの?」
「はい……【王】でなくなればこの屋敷も放棄しなければなりません。使用人たちも解雇……というより、ザガム様以外についていくものはおりませんから解散になるでしょうな」
イザールがハンカチで涙を拭うと、ユースリアが肩を揺らしながらため息を吐く。
しかし、今日という日に限って、この場に居たことを幸運に思う出来事が起きた。
「ぴー」
「おや? あれはホーミングピジョン?」
「珍しいわね。……ん? 手紙を持っているわ」
ユースリアが手を伸ばすと、鳩は嬉しそうに着地をする。ユースリアが手紙を取って読むと――
「あの子……! これは姉として見極めないといけないわ!!」
「あ、あの、ユースリア様? いかがなされました」
「ザガムの手紙で間違いないわ! でも、どこにいるかまでは書いていない……」
「なんと!? いえ、匂いとこの鳩が戻るのを追えば容易かと……」
「なるほど。……おっと」
「ぴー!?」
「あなたにはザガムのところまで案内してもらうわ、よろしくね?」
「ぴぴー……」
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