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第四章:魔族領からの刺客
その58:怒りのファムちゃん
しおりを挟むさて、昨日はファムとルーンベルが不調だったため休みを取って買い物に勤しんだ。
これは結構良かったらしく、買い物の途中からファムが終始笑顔だったので精神が安定したのだろう。ついでにルーンベルの調子も良かった。
「今ついでにって言った!?」
「なんのことだ?」
現在、俺は庭に居るのだが、ルーンベルが日光浴用のために買った外で横になるためのベッドらしきものを広げ、妙な黒い眼鏡をかけて横になっている。一人1万ルピ制限で買ったものだがあれで良かったのだろうか……?
ファムは靴と上着、それと下着に盾を購入していた。何故か下着を選ぶ時に俺に意見を求めてきたが断った。女性の下着など俺に分かるわけが無いし、見せるものじゃないから良し悪しがあるとも思えない。
そんな二人の買い物の中、俺は俺で欲しいものを買い、今はその設置をしているところだ。
「よし、これでいいだろう」
「ザガムさーん! ……うわ、なんですこれ!?」
「む、ファムか。昨日買った鉱石の塊を地面に差したところだ。これなら簡単には壊れないから全力で魔法を放っていい。こっちの木偶人形は剣の稽古をするが、下手に……いや、口で言うよりやってみた方がいいか」
「え? え?」
「珍しく饒舌ね」
いつの間にかルーンベルが黒い眼鏡を外しながら近づいて来ていたが、とりあえずファムに剣を握らせて木偶人形の前に立たせる。
「普通に打ち込んでいいんですか?」
「ああ」
「……それじゃ、やああああ!」
ファムが気合を入れて剣を振ると、小気味よく金属音が響き鎧が傾く。ファムが満足げに頷いていると、
「痛っ!? なにをするんですかルーンベルさん!」
「さっきから酷い風評被害!? 違うわ、その人形よ」
「え?」
鎧人形を叩いた瞬間、横から人形の反撃を受けてファムの顔に木剣がヒットしていた。
「それの人形は打ちどころによって反撃をしてくる仕様でな、ただ攻撃をするだけじゃなく防御も意識する必要がある。人間や魔物は黙って斬られてくれないからな。それに攻撃は最大の防御、特に対人戦は何度も戦う相手はそうそう居ないから初撃は特に大事だ」
「だけど、それを躱されたら反撃を受けるからしっかり避ける……ってことですね!」
「なるほどねー。というかザガムって不愛想なのに、こういうことはめちゃくちゃ喋るのね。じゃ、私はちょっと魔法を使わせてもらおうかな」
ルーンベルが呆れながら結構な硬度がある鉱石柱の前に立つ。そういえばゴーストやレイス相手以外が出来ないと金は稼げないから通常の魔法も使えるはずだが――
「<メガウインド>!」
「きゃあ!?」
「む」
鉱石柱が中級魔法に包まれ金属が掠れる音が響くと同時に、昨日買った服のスカートが舞い上がる。下着はストライプだった。これも昨日買ったものだろう。
そして――
「<メガファイア>! <サンダーボルト>!」
「わあ、ルーンベルさん凄いです!」
――次々に攻撃魔法を繰り出すルーンベルは中々のものだった。
ザガードのパーティに居る魔法使いのマイラと同じくらいの力はある。回復魔法は使えないが解毒や麻痺解除の魔法はできると言っていたか。
聖女見習いにしてはちぐはぐな力だが、これなら冒険者としてやっていけるだろう。
「ふう、これくらいでいいかな。いいじゃないこれ! ザガムも見せてよ、国の兵士と騎士団長を倒した実力ってやつを!」
「私もかっこいいザガムさんを見たいです!」
「俺か? まあ、どうせ今から撃つつもりだったから構わないが」
俺はルーンベルと交代して鉱石柱の前に立つ。
さて、あまり使わない魔法を撃って勘を取り戻しておくか……
「<ブラックスポット>」
「知らないけどカッコいい魔法です! ……うえ!?」
「おおおお……!?」
俺が魔法を放つと黒く小さい炎が鉱石柱に飛んでいく。着弾すると、そこを起点に炎が膨れ上がり爆発を起こした。
「む、いかん」
「はわー……」
「これは……」
やはりオリハルコンクラスのものじゃないと耐えられないか。
鉱石柱は真ん中から溶解し、ドスンという音と共に上半分が倒れた。
「勿体ない」
「買う時も思ったけど、よく持てるわねそれ。あーあ、めちゃくちゃねもう」
「あはは、強すぎるのも考えもなんですかねえ。あれ? 鳩さん?」
「これは……」
「ぴー……」
「可愛い! でも疲れていますね?」
ファムが力なく笑って頬を掻いていると、俺が放ったホーミングピジョンが戻って来たところだ。肩に乗ったピジョンをファムがつついていると、入り口の門に気配がした。
顔をそちらに向けると、その直後、まさかの声を耳にする――
「ザガム! ここに居るんでしょ! 出てきなさい!」
「……この声は?」
「知り合い? ……あ、まさか――」
ルーンベルは事情を察したようだ。俺は早足で門へと向かう。
「何故こんなところに……」
「あ、待ってくださいよー!」
「二人はここに居ろ」
手で制してその場に残して急ぐ。
門に辿り着くと、見知った顔が居たが、まさか二人も居るとは思わなかった。
「あ! 出てきた! ピジョンが逃げたけどやっぱりここだったわね」
「ザガム様ぁぁぁぁ!」
「ユースリアにイザール。なぜここに居るんだ……?」
「話があったからよ。まったく、勝手に出て行ってこんな遠い国で屋敷を構えているなんて……帰るわよ」
「断る。俺はこの通り元気だ、満足したならお引き取り願おう」
「人間の国で生活など、大魔王様が怒りますぞ、ささ、わたくしも一緒に謝りますから……」
……【海王】ユースリアが不機嫌に、執事のイザールが半べそをかいて柵の向こうで声をかけてくる。
「もう子供では無いんだ、俺がなにをしていようがいいだろう」
「馬鹿、【王】が勝手な――」
「他の人間に聞かれるだろう、黙れ」
「……黙れ? ザガム、あなたのことを思って言っているのに――」
「ユ、ユースリア様、お、落ち着いてくだされ!?」
「む……!」
その瞬間、ユースリアが柵に手をかけて引きちぎって中へ侵入してくる。
戦うことは吝かではない、が、ここで騒ぎはマズイ。庭は二人が居る……どうする? 最善を考えていると、脇から大声を上げながらファムが走ってきた。
「ザガムさんのことを知っているということは……ユースリアさんという方ですね! ザガムさんは渡しませんよ!」
「! あなたが手紙にあった嫁候補の子かしら? どきなさい、ケガをしたくなければね」
「嫌です。お引き取りください!」
「はあ……」
俺の前に出たファムをユースリアを押しのけようと手を伸ばすと、ファムがその手を掴んで押し返す。
「お引き取りください……!」
「ちょっと痛い目に合わせないといけないようね? ……!? この子……」
「?」
すぐにファムは転ばされると思っていたのだが、ユースリアが怪訝な顔でファムを押し返そうとする。だが、ファムは引かず、むしろユースリアが押し返されていた。
「ぐぬぬぬ……!」
「うぎぎぎ……!」
両手を合わせて膠着状態に陥る二人。さて、どうするかと思っていると、ルーンベルが冷や汗をかきながら顎をぬぐう。
「まずいわね……あのまま拮抗していたら、どちらかが力尽きるまであのまま」
「ユースリアの方が強いはずだが、確かに手加減をしているようにも見えないな。ファムの力が上がっている?」
「かもね。そこでこの戦いを終わらせる方法があるんだけど、聞いてみる?」
「そうだな、早く片付けたい」
「オッケー! ファムちゃん、こっち見て!」
「ルーンベルさん、手伝ってください……よ……!?」
ファムを呼んだルーンベルは俺の首筋に抱き着き唇にキスをしようとしてきた。それを見たファムは目を丸くして――
「ダメ―!」
「急に力が!? ふぐ……!?」
「ユースリア様!?」
「あ」
「うわ!? なんだ!? 美人が壁にめり込んだぞ!?」
ファムに押し切られたユースリアが派手に吹き飛ばされ正面の家の壁に叩きつけられていた。
……むう、ファムに一体何が? 手加減しているだろうが、まさか【王】に匹敵する力を出せるとは。
「私が頑張っているのになに抜け駆けしてるんですか!」
「侵入者を排除できたからいいじゃない♪」
「……話を聞かせてもらうぞイザール」
「は、はあ……それは恐らくこちらも同じかと……」
「あ!? た、助けちゃうんですか!?」
「一応、姉だからな」
「「え!?」」
俺はため息を吐きながらユースリアを背負い、イザールを連れて屋敷へと戻った。
困ったことになったな……
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