最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

文字の大きさ
60 / 155
第四章:魔族領からの刺客

その58:怒りのファムちゃん

しおりを挟む

 さて、昨日はファムとルーンベルが不調だったため休みを取って買い物に勤しんだ。
 これは結構良かったらしく、買い物の途中からファムが終始笑顔だったので精神が安定したのだろう。ついでにルーンベルの調子も良かった。

 「今ついでにって言った!?」
 「なんのことだ?」

 現在、俺は庭に居るのだが、ルーンベルが日光浴用のために買った外で横になるためのベッドらしきものを広げ、妙な黒い眼鏡をかけて横になっている。一人1万ルピ制限で買ったものだがあれで良かったのだろうか……?

 ファムは靴と上着、それと下着に盾を購入していた。何故か下着を選ぶ時に俺に意見を求めてきたが断った。女性の下着など俺に分かるわけが無いし、見せるものじゃないから良し悪しがあるとも思えない。

 そんな二人の買い物の中、俺は俺で欲しいものを買い、今はその設置をしているところだ。

 「よし、これでいいだろう」
 「ザガムさーん! ……うわ、なんですこれ!?」
 「む、ファムか。昨日買った鉱石の塊を地面に差したところだ。これなら簡単には壊れないから全力で魔法を放っていい。こっちの木偶人形は剣の稽古をするが、下手に……いや、口で言うよりやってみた方がいいか」
 「え? え?」
 「珍しく饒舌ね」

 いつの間にかルーンベルが黒い眼鏡を外しながら近づいて来ていたが、とりあえずファムに剣を握らせて木偶人形の前に立たせる。

 「普通に打ち込んでいいんですか?」
 「ああ」
 「……それじゃ、やああああ!」

 ファムが気合を入れて剣を振ると、小気味よく金属音が響き鎧が傾く。ファムが満足げに頷いていると、

 「痛っ!? なにをするんですかルーンベルさん!」
 「さっきから酷い風評被害!? 違うわ、その人形よ」
 「え?」

 鎧人形を叩いた瞬間、横から人形の反撃を受けてファムの顔に木剣がヒットしていた。

 「それの人形は打ちどころによって反撃をしてくる仕様でな、ただ攻撃をするだけじゃなく防御も意識する必要がある。人間や魔物は黙って斬られてくれないからな。それに攻撃は最大の防御、特に対人戦は何度も戦う相手はそうそう居ないから初撃は特に大事だ」
 「だけど、それを躱されたら反撃を受けるからしっかり避ける……ってことですね!」
 「なるほどねー。というかザガムって不愛想なのに、こういうことはめちゃくちゃ喋るのね。じゃ、私はちょっと魔法を使わせてもらおうかな」
 
 ルーンベルが呆れながら結構な硬度がある鉱石柱の前に立つ。そういえばゴーストやレイス相手以外が出来ないと金は稼げないから通常の魔法も使えるはずだが――

 「<メガウインド>!」
 「きゃあ!?」
 「む」
 
 鉱石柱が中級魔法に包まれ金属が掠れる音が響くと同時に、昨日買った服のスカートが舞い上がる。下着はストライプだった。これも昨日買ったものだろう。
 
 そして――

 「<メガファイア>! <サンダーボルト>!」
 「わあ、ルーンベルさん凄いです!」
 
 ――次々に攻撃魔法を繰り出すルーンベルは中々のものだった。
 ザガードのパーティに居る魔法使いのマイラと同じくらいの力はある。回復魔法は使えないが解毒や麻痺解除の魔法はできると言っていたか。
 聖女見習いにしてはちぐはぐな力だが、これなら冒険者としてやっていけるだろう。

 「ふう、これくらいでいいかな。いいじゃないこれ! ザガムも見せてよ、国の兵士と騎士団長を倒した実力ってやつを!」
 「私もかっこいいザガムさんを見たいです!」
 「俺か? まあ、どうせ今から撃つつもりだったから構わないが」

 俺はルーンベルと交代して鉱石柱の前に立つ。
 さて、あまり使わない魔法を撃って勘を取り戻しておくか……

 「<ブラックスポット>」
 「知らないけどカッコいい魔法です! ……うえ!?」
 「おおおお……!?」

 俺が魔法を放つと黒く小さい炎が鉱石柱に飛んでいく。着弾すると、そこを起点に炎が膨れ上がり爆発を起こした。
 
 「む、いかん」
 「はわー……」
 「これは……」

 やはりオリハルコンクラスのものじゃないと耐えられないか。
 鉱石柱は真ん中から溶解し、ドスンという音と共に上半分が倒れた。

 「勿体ない」
 「買う時も思ったけど、よく持てるわねそれ。あーあ、めちゃくちゃねもう」
 「あはは、強すぎるのも考えもなんですかねえ。あれ? 鳩さん?」
 「これは……」
 「ぴー……」
 「可愛い! でも疲れていますね?」

 ファムが力なく笑って頬を掻いていると、俺が放ったホーミングピジョンが戻って来たところだ。肩に乗ったピジョンをファムがつついていると、入り口の門に気配がした。
 顔をそちらに向けると、その直後、まさかの声を耳にする――

 「ザガム! ここに居るんでしょ! 出てきなさい!」
 「……この声は?」
 「知り合い? ……あ、まさか――」

 ルーンベルは事情を察したようだ。俺は早足で門へと向かう。
 
 「何故こんなところに……」
 「あ、待ってくださいよー!」
 「二人はここに居ろ」

 手で制してその場に残して急ぐ。
 門に辿り着くと、見知った顔が居たが、まさか二人も居るとは思わなかった。

 「あ! 出てきた! ピジョンが逃げたけどやっぱりここだったわね」
 「ザガム様ぁぁぁぁ!」
 「ユースリアにイザール。なぜここに居るんだ……?」
 「話があったからよ。まったく、勝手に出て行ってこんな遠い国で屋敷を構えているなんて……帰るわよ」
 「断る。俺はこの通り元気だ、満足したならお引き取り願おう」
 「人間の国で生活など、大魔王様が怒りますぞ、ささ、わたくしも一緒に謝りますから……」

 ……【海王】ユースリアが不機嫌に、執事のイザールが半べそをかいて柵の向こうで声をかけてくる。
 
 「もう子供では無いんだ、俺がなにをしていようがいいだろう」
 「馬鹿、【王】が勝手な――」
 「他の人間に聞かれるだろう、黙れ」
 「……黙れ? ザガム、あなたのことを思って言っているのに――」
 「ユ、ユースリア様、お、落ち着いてくだされ!?」
 「む……!」

 その瞬間、ユースリアが柵に手をかけて引きちぎって中へ侵入してくる。
 戦うことは吝かではない、が、ここで騒ぎはマズイ。庭は二人が居る……どうする? 最善を考えていると、脇から大声を上げながらファムが走ってきた。

 「ザガムさんのことを知っているということは……ユースリアさんという方ですね! ザガムさんは渡しませんよ!」
 「! あなたが手紙にあった嫁候補の子かしら? どきなさい、ケガをしたくなければね」
 「嫌です。お引き取りください!」
 「はあ……」
 
 俺の前に出たファムをユースリアを押しのけようと手を伸ばすと、ファムがその手を掴んで押し返す。

 「お引き取りください……!」
 「ちょっと痛い目に合わせないといけないようね? ……!? この子……」
 「?」

 すぐにファムは転ばされると思っていたのだが、ユースリアが怪訝な顔でファムを押し返そうとする。だが、ファムは引かず、むしろユースリアが押し返されていた。

 「ぐぬぬぬ……!」
 「うぎぎぎ……!」
 
 両手を合わせて膠着状態に陥る二人。さて、どうするかと思っていると、ルーンベルが冷や汗をかきながら顎をぬぐう。

 「まずいわね……あのまま拮抗していたら、どちらかが力尽きるまであのまま」
 「ユースリアの方が強いはずだが、確かに手加減をしているようにも見えないな。ファムの力が上がっている?」
 「かもね。そこでこの戦いを終わらせる方法があるんだけど、聞いてみる?」
 「そうだな、早く片付けたい」
 「オッケー! ファムちゃん、こっち見て!」
 「ルーンベルさん、手伝ってください……よ……!?」

 ファムを呼んだルーンベルは俺の首筋に抱き着き唇にキスをしようとしてきた。それを見たファムは目を丸くして――

 「ダメ―!」
 「急に力が!? ふぐ……!?」
 「ユースリア様!?」
 「あ」

 「うわ!? なんだ!? 美人が壁にめり込んだぞ!?」

 ファムに押し切られたユースリアが派手に吹き飛ばされ正面の家の壁に叩きつけられていた。
 ……むう、ファムに一体何が? 手加減しているだろうが、まさか【王】に匹敵する力を出せるとは。

 「私が頑張っているのになに抜け駆けしてるんですか!」
 「侵入者を排除できたからいいじゃない♪」

 「……話を聞かせてもらうぞイザール」
 「は、はあ……それは恐らくこちらも同じかと……」
 「あ!? た、助けちゃうんですか!?」
 「一応、姉だからな」
 「「え!?」」

 俺はため息を吐きながらユースリアを背負い、イザールを連れて屋敷へと戻った。
 困ったことになったな……
しおりを挟む
感想 304

あなたにおすすめの小説

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~

於田縫紀
ファンタジー
 図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。  その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...