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第四章:魔族領からの刺客
その78:天秤
しおりを挟むいつもより騒がしい暗い町の中を進み、俺は城へと辿り着く。
アンデッドと魔法生物であるゴーレムが混ざっていたとあの二人が言っていたのが、その後始末に追われているのが現状だ。
「すまない、国王に会いに来た。入ってもいいか?」
「うえ……臭い……。んあ? ちょっと取り込み中……って、あ、あなたは! か、確認してきますので少々――」
「いいよ、私が対応しよう」
城にも結構な数が侵入していたらしく、門は破られ、動かない屍が散乱していた。
吐きそうな顔をした兵士が好機とばかりに城へ戻ろうとしたところで、騎士団長のエイターが背後から現れて俺の横に並んだ。
「エイター様! お戻りになられたんですね、では申し訳ありませんがお願い遺体します!」
「はは、お願いいたしますだろう? それじゃ行こうかザガム殿」
「助かる」
アンデッド処理から逃れられると思っていた兵士は明らかに肩を落としてスコップを動かしていく。残念だが世の中こんなものだ。
「町では見かけなかったが、どこに居たんだ?」
「色々と残務処理をね。ギルドにも顔を出したけど、死屍累々って感じだったよ」
「ふむ、それは悪いことをしたな」
「ん? なにかあったのかい」
「ああ、ちょうどその話をしようと来たんだ」
エイターに案内され、謁見の間ではなく別室で待機するように言われてしばらく待つ。
「……遅いな」
待つこと数十分。
意外と来ないものだと首を傾げていると、その瞬間満身創痍の国王と大臣、それとエイターが入って来た。
「やあ、お待たせ。陛下も戦いに参加していてね、急に動いたから全身疲労が酷いみたいで」
「うおおおお……ザ、ザガム……遅くなったな……」
「陛下、ご無理をしないでと言いましたのに……」
「戦いに出ていたのか?」
あの怠慢な国王が戦いに参加していたとは少々驚いた。
俺が尋ねると、二人の肩を借りてソファに座ってから得意気に言う。
「そうだ! お前が王としての責務を果たせと言うから、最近鍛えておったのだよ! まあ、まだまだだが、スケルトンを一、二体倒せるくらいはやってやったわ」
「ほう、それは凄いな。あれからひと月程度しか経っていない。ふんぞり返っているだけだった男が頑張ったな」
「う、うむ。そう言われて悪い気はせんな」
照れる国王が少し気持ち悪いと思ったが、口には出さないでおく。
ただ、俺の言ったことを実践しているのは素直に褒めるべきだと思べきだ。
人間、魔族に限らず人から指摘されたことを受け入れるのはなかなか難しい。
俺もメギストスに突っかかるのはヤツが『人間に対して関せず』ということに納得できないからだしな。
「考え方が変わっただけでもいいと思う。ただ、訓練の最中なら自らの身を守る方を優先しろ。強くなるまでは前衛は騎士と兵士に任せておけばいい。ただ前に出ればいいというものでもない」
「なるほど……」
「適材適所というやつだな。部下をないがしろにしない意識があれば王にきちんと仕えてくれるものだ」
少なくとも、税や領地全体の安全を俺一人で見るのは不可能だ。そのために部下を使い、労いや金で感謝を表せば良いのである。
「まあ、それは続けて行けば良いだろう。それで今回の件だが、俺のせいだった」
「ん? どういうことだ?」
「大魔王の命を狙う俺を始末するために送り込まれた刺客というやつだ。一応死人は居なかったようだが、謝罪したい。すまなかった」
「なんと……」
頭を下げると大臣が呟く。
とりあえず刺客であることは嘘ではないし、アレを誤魔化すのは無理がある。
だが、一つ嘘を吐かねばならない。
「首謀者の魔族は俺が追い払ったからしばらくは安全だ。一応、町で戦っていた者達には回復魔法をかけておいた」
「そうか、ご苦労だった。その報告が話したいことか?」
「いや、本題はここからだ。今後もこういった刺客が来るかもしれない、なので俺達はこの町を出て行こうと思う。短い間だったが屋敷を引き払う予定だ」
俺は一同にそう告げる。
メギストスにバレているのであれば今後もこちらへ【王】を送り込んでくる可能性は高い。ユースリアやマルクスあたりなら穏便に済ませることが出来るだろうが、【炎王】ヴァルカンはまずい。
メギストスが人間を攻撃するなと言っても俺が相手なら町を巻き込んで破壊するのも躊躇しない男なのでここに居座るのはデメリットしかないのだ。
「町についてはすまない、立ち去る前には一度スパイクに声をかけておく」
「ちょ、ちょっと待て!? 決断が早すぎるぞ!?」
「はは、もうちょっと私達にも考える時間が欲しいね?」
俺が立ち上がると、国王とエイターが慌てて引き留めてきた。
考えるも何もないと思うが……
「とりあえず話は分かった。だが、どこへ行くつもりだ? すでに追跡の手が入っていたらどの町でも危険じゃないのか?」
「それはある。だから適当な山中に身を潜めるつもりだ。修行をするのに場所は選ばん。金も幸いあるからな」
「……むう、まあそう慌てるな。ここでお前をはいそうですかと出て行ってもらっても困るのだ」
「なに?」
国王の渋い顔をしながらそんなことを言い、俺は訝しむ。するとエイターが軽く頷いてから口を開く。
「私から説明する。今の話はとても分かりやすいし、こちらのことを考えてくれているのが伝わってくる。だけどザガム殿がこの町を去った後、まだ居ると思っている魔族が攻めてきたらどうだろう? 私達も負けるつもりはないが、今回のように犠牲が無い状態で終われるとは思えない」
「ふむ」
一理ある。
魔族にも色々なタイプが居るから、先の兄妹のように無差別に襲うやつも居れば、俺が居ないと分かれば撤退するやつもいるだろう。
「では、俺がこの町で迎撃していた方がいいということか?」
「できればな。まあ無理にとは言わんが……」
「私としては勇者を手放したくありませんし、色々助かるので残って貰いたいですがね。……使用人も強いみたいですし?」
エイターがにこり笑い、俺は思考を巡らせる。
罰金のようなものを言うわけでもなく、むしろ残ってくれと言う。
……まあ、イルミス達はすぐに来ないだろうし、ファルクスが上手いこと言ってくれている可能性がある。少しは持つか。
「分かった。ではお言葉に甘えさせてもらおう、俺にできることがあれば言ってくれ」
「そうだねえ、とりあえずファムさんと一緒にまずはEランクから上がっておこうか。流石にあれだけ回復魔法を使って、Eランクというのはないかな」
「……考えておく」
「頼むよ、ファムさんもいい感じになってきたみたいだし」
扉に向かう俺に、エイターが手を振るのが目の端に入り、肩越しに手を上げて城を出た俺は休むため屋敷に帰路についた。
◆ ◇ ◆
「……行ったか?」
「ですな……。エイター殿、これで良かったんですか?」
「そうですね。最善策とは言えませんが、ザガム殿が冥王である限りメリットはあります。あの子供達も手練れと見るなら、ザガム殿は圧倒的でした。しばらくこちらに来る軍勢はいないかと」
「まあ、来てもザガムの性格上、あいつが相手をする、か」
「はい。どちらかと言えば私達の方が助けられるかもしれません」
「魔族同士、人間同士で争うか。目が覚めた私だから分かるが、力の差以外は愚かなことには変わりはないのかもな」
――エイターはザガムが冥王であることを報告し、性格上暴れることもなかろうとこのまま屋敷に住んでもらうことにした。
体が痛いという演技はザガムと会う前に三人で決めていて遅くなったからである。
もちろん、国側にもメリットはある。
その不穏な影が形となるまでもう少しまで迫っていた。
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