90 / 155
第五章:陰湿な逃亡者
その87:冥王と勇者は考える
しおりを挟む‟急に出て行っちゃってごめん。
だけど、自由の身になったしお金は置いていくから勘弁してね?
多分あんた達のことだから協力してくれると思うけど、やっぱり出ていくことにしたわ。
ザガムにはあの国……いえ、『神霊の園』をぶっ壊して欲しかったけど、ファムに影響があるのは良くないから止めておくわね。
二人とも仲良くやりなさいよ? 後、追いかけて来ないでいいから。
……短い間だったけど楽しかったわ、酷いことしないでくれてありがとう”
「……ルーンベル=ヨーム、か」
「どどどど、どうしましょうザガムさん!?」
「どうしようもなにも、追いかけないでと書いている以上追わないのが礼儀ではないか」
「ええ、追わないんですか!?」
「頼まれたわけじゃない。それに、あいつは俺達の奴隷でもなくなった、好きにさせるしかあるまい」
俺が手紙をテーブルに置きながらファムに目を合わせると、明らかに不貞腐れた顔で見てくる。
何か言おうとしたところでファムが先に口を開いた。
「もー! どうしてそう冷めているんですか! 一緒に暮らしていたのに! 心配じゃないんですか?」
「……それは」
どうだろうか?
俺としては苦手な女性が一人減った、という部分では喜ばしい。
だが、ファムの言うように急に居なくなったことに違和感を覚えているのは確かだ。たった数十日という期間だが――
「うるさいのが居なくなって清々したとも言えるし、静かすぎるような気もする……ううむ……」
「もうザガムさんったら。寂しいんですよ、それ」
「……寂しい?」
俺が首を傾げるとファムは微笑みながら頷く。
「こう、虚しさみたいなのが心にあるんじゃないですか? ザガムさん、表情はあまり変わらないですけど」
「寂しい……寂しい、か」
「私の時にはその顔のまま怒ってくれましたし、きっとそうなんじゃないかなって」
「ザガム様が怒ってたんですかぁ?」
「なんと……」
ファムの言葉にメリーナとイザールが驚いた顔で俺を見て呟いていた。
確かに寂しいというような思いは――
(お母さん!)
(ザガム、すぐ戻ってくるから大人しく待っていてね)
「……っ」
「ど、どうしたんですか!?」
「なんでもない。寂しくなどあるものか、静かになった。それだけだ」
「ザガムさん……。もういいです! 私一人でも追いかけます!」
ふくれっ面で踵を返すファム。
珍しく本気で怒っている……気がする。
そんな彼女の手を掴んで俺は引き止めた。
「待て、お前が行ったところでルーンベルが怒るかもしれないぞ」
「そんなこと、ぜーったいありません! 相手は一大勢力ですよ、一人で不安だと思っているに決まっているじゃありませんか。ザガムさんだって、大魔王を倒すのに私の力が必要だって言ってたし……」
「むう」
そう言われては立つ瀬がない。
なんと言おうか考えていると、イザールが柔和な笑みを浮かべながら俺に頭を下げる。
「ザガム様、このイザールなら鼻が利きますので、追いかけては如何でしょうか? このままだと花嫁のファム様が旅立ってしまいますぞ。もしそこでなにかあれば大魔王さ……大魔王を倒すことは難しくなるのでは?」
「そうですよぉ♪ 恩を売ってルーンベル様を手籠めにしちゃいましょう♪」
「それはダメだろう」
メリーナが楽しそうに不穏なことを言いだしたので窘めると、ファムが上目遣いをし、涙目で俺の袖を掴んでいた。
「ザガムさん……」
「……」
確かにファムが居なくなるのは困る……か?
恐らく困らないのだが、ここで屋敷に居ても目的が無くなってしまう。
……仕方あるまい。
「……行くか。ルーンベルのやつも嫁候補だしな」
「ザガムさん!! うんうん! 行きましょう! 負けませんけど!」
満面の笑みで喜ぶファムは俺に正面から抱き着いてきたので、俺は発作が起きてしまう。
「……離れろファム。とりあえずイザールは行くとして……メリーナ達はどうするか。国が相手なら居た方がいい気もするが……」
「そうですねぇ話を聞く限り『神霊の園』は女の子がいる場所ですし、ミーヤちゃんとわたしは必要かもですねぇ」
「となるとルックレスが留守番か。いや、あいつの能力は使える。全員で行けばいいか。屋敷を留守にすることをスパイクへ伝えて管理してもらうか」
「さんせいー、です! それじゃルックレスさんとミーヤさんに声をかけてきますね!」
即リビングから駆け出してこの場から消えるファム。
「ふう……」
「お疲れ様でございます。優しい娘ですな」
「俺としては修行をしたいのだがな?」
「いいじゃないですかぁ。大魔王様は逃げませんよ」
「……まあな。では、馬車の手配からやるぞ――」
俺達はすぐに旅立つ準備を整え、ギルドへ赴く――
◆ ◇ ◆
「ねえ、ユースリア、変じゃないかな? 人間の国に来るのは久しぶりなんだよ」
「白いスーツは良くお似合いですよメギストス様。……にしても本当に訪問なさるとは思いませんでした……」
「そりゃああのザガムが笑ったんだよ? それに女性嫌いなのに嫁! これは挨拶をするしかないじゃあないか」
「絶対からかう気ですよね」
「まあね!」
最悪だ、と私ははザガム達の屋敷近くを歩きながら眉間を抑える。
決定後、本当にお土産と花束を用意してここまで来るとは思わなかったからだ。
「会ったら攻撃されると思いますけど……」
「そこはほら、嫁とかイザールが居るから巻き添えにならない配慮をするよあの子なら」
嫌な予測だ。義理とはいえ親子なので、勝手知ったるというところかとユースリアは目を細める。
「(だけどからかうだけならここまではしないわよね……笑ったことがそこまで重要なのかしら……? 確かにあの子笑わなかったから驚いたけど……)」
考えても答えは出ない。
そして見えてくる屋敷。
「あれかな?」
「……みたいですね」
あの【霊王】兄妹は私が出入りしていることを言わないでいてくれた。それは助かったけど、ザガムの居場所は流石に言わざるを得なかったため、ノータイムでここまで来てしまった。
「ん? 鍵がかかっている?」
「すみませーん。……出かけているのかしら? 依頼、やってたし」
「ギルドかい? なら待つとしよう――」
メギストス様がそういった瞬間、見知った顔が声をかけてきた。
「あれ、ユースリアさん?」
「あ、あら、マイラ」
それにニコラとレティが続いてくる。
メギストス様がニヤリと笑いながら私に顔を向けてきたのでスッと顔を逸らしておく。
「また随分なイケメンをお持ちで……。じゃなくて、彼氏ですか?」
「違うわ」
「力強い言葉!? そ、そうなんですね。えっと、ザガムやファムちゃんは昼過ぎに出発しましたよ? なんかグェラ神聖国に向かうらしくて、屋敷を空けるそうです」
「え?」
「え?」
私とメギストス様は鍵のかかった屋敷の前できょとんすることになった。
0
あなたにおすすめの小説
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
異世界翻訳者の想定外な日々 ~静かに読書生活を送る筈が何故か家がハーレム化し金持ちになったあげく黒覆面の最強怪傑となってしまった~
於田縫紀
ファンタジー
図書館の奥である本に出合った時、俺は思い出す。『そうだ、俺はかつて日本人だった』と。
その本をつい翻訳してしまった事がきっかけで俺の人生設計は狂い始める。気がつけば美少女3人に囲まれつつ仕事に追われる毎日。そして時々俺は悩む。本当に俺はこんな暮らしをしてていいのだろうかと。ハーレム状態なのだろうか。単に便利に使われているだけなのだろうかと。
ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。
千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。
気付いたら、異世界に転生していた。
なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!?
物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です!
※この話は小説家になろう様へも掲載しています
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる