最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

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第五章:陰湿な逃亡者

その87:冥王と勇者は考える

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 ‟急に出て行っちゃってごめん。
 だけど、自由の身になったしお金は置いていくから勘弁してね?
 多分あんた達のことだから協力してくれると思うけど、やっぱり出ていくことにしたわ。
 ザガムにはあの国……いえ、『神霊の園』をぶっ壊して欲しかったけど、ファムに影響があるのは良くないから止めておくわね。
 二人とも仲良くやりなさいよ? 後、追いかけて来ないでいいから。

 ……短い間だったけど楽しかったわ、酷いことしないでくれてありがとう”

 「……ルーンベル=ヨーム、か」
 「どどどど、どうしましょうザガムさん!?」
 「どうしようもなにも、追いかけないでと書いている以上追わないのが礼儀ではないか」
 「ええ、追わないんですか!?」
 「頼まれたわけじゃない。それに、あいつは俺達の奴隷でもなくなった、好きにさせるしかあるまい」

 俺が手紙をテーブルに置きながらファムに目を合わせると、明らかに不貞腐れた顔で見てくる。
 何か言おうとしたところでファムが先に口を開いた。

 「もー! どうしてそう冷めているんですか! 一緒に暮らしていたのに! 心配じゃないんですか?」
 「……それは」

 どうだろうか?
 俺としては苦手な女性が一人減った、という部分では喜ばしい。
 だが、ファムの言うように急に居なくなったことに違和感を覚えているのは確かだ。たった数十日という期間だが――

 「うるさいのが居なくなって清々したとも言えるし、静かすぎるような気もする……ううむ……」
 「もうザガムさんったら。寂しいんですよ、それ」
 「……寂しい?」
 
 俺が首を傾げるとファムは微笑みながら頷く。
 
 「こう、虚しさみたいなのが心にあるんじゃないですか? ザガムさん、表情はあまり変わらないですけど」
 「寂しい……寂しい、か」
 「私の時にはその顔のまま怒ってくれましたし、きっとそうなんじゃないかなって」
 「ザガム様が怒ってたんですかぁ?」
 「なんと……」

 ファムの言葉にメリーナとイザールが驚いた顔で俺を見て呟いていた。
 確かに寂しいというような思いは――

 (お母さん!)
 (ザガム、すぐ戻ってくるから大人しく待っていてね)

 「……っ」
 「ど、どうしたんですか!?」
 「なんでもない。寂しくなどあるものか、静かになった。それだけだ」
 「ザガムさん……。もういいです! 私一人でも追いかけます!」
 
 ふくれっ面で踵を返すファム。
 珍しく本気で怒っている……気がする。
 そんな彼女の手を掴んで俺は引き止めた。

 「待て、お前が行ったところでルーンベルが怒るかもしれないぞ」
 「そんなこと、ぜーったいありません! 相手は一大勢力ですよ、一人で不安だと思っているに決まっているじゃありませんか。ザガムさんだって、大魔王を倒すのに私の力が必要だって言ってたし……」
 「むう」

 そう言われては立つ瀬がない。
 なんと言おうか考えていると、イザールが柔和な笑みを浮かべながら俺に頭を下げる。
 
 「ザガム様、このイザールなら鼻が利きますので、追いかけては如何でしょうか? このままだと花嫁のファム様が旅立ってしまいますぞ。もしそこでなにかあれば大魔王さ……大魔王を倒すことは難しくなるのでは?」
 「そうですよぉ♪ 恩を売ってルーンベル様を手籠めにしちゃいましょう♪」
 「それはダメだろう」

 メリーナが楽しそうに不穏なことを言いだしたので窘めると、ファムが上目遣いをし、涙目で俺の袖を掴んでいた。
 
 「ザガムさん……」
 「……」

 確かにファムが居なくなるのは困る……か?
 恐らく困らないのだが、ここで屋敷に居ても目的が無くなってしまう。
 ……仕方あるまい。

 「……行くか。ルーンベルのやつも嫁候補だしな」
 「ザガムさん!! うんうん! 行きましょう! 負けませんけど!」
 
 満面の笑みで喜ぶファムは俺に正面から抱き着いてきたので、俺は発作が起きてしまう。

 「……離れろファム。とりあえずイザールは行くとして……メリーナ達はどうするか。国が相手なら居た方がいい気もするが……」
 「そうですねぇ話を聞く限り『神霊の園』は女の子がいる場所ですし、ミーヤちゃんとわたしは必要かもですねぇ」
 「となるとルックレスが留守番か。いや、あいつの能力は使える。全員で行けばいいか。屋敷を留守にすることをスパイクへ伝えて管理してもらうか」
 「さんせいー、です! それじゃルックレスさんとミーヤさんに声をかけてきますね!」

 即リビングから駆け出してこの場から消えるファム。
 
 「ふう……」
 「お疲れ様でございます。優しい娘ですな」
 「俺としては修行をしたいのだがな?」
 「いいじゃないですかぁ。大魔王様は逃げませんよ」
 「……まあな。では、馬車の手配からやるぞ――」

 俺達はすぐに旅立つ準備を整え、ギルドへ赴く――

 ◆ ◇ ◆

 「ねえ、ユースリア、変じゃないかな? 人間の国に来るのは久しぶりなんだよ」
 「白いスーツは良くお似合いですよメギストス様。……にしても本当に訪問なさるとは思いませんでした……」
 「そりゃああのザガムが笑ったんだよ? それに女性嫌いなのに嫁! これは挨拶をするしかないじゃあないか」
 「絶対からかう気ですよね」
 「まあね!」

 最悪だ、と私ははザガム達の屋敷近くを歩きながら眉間を抑える。
 決定後、本当にお土産と花束を用意してここまで来るとは思わなかったからだ。

 「会ったら攻撃されると思いますけど……」
 「そこはほら、嫁とかイザールが居るから巻き添えにならない配慮をするよあの子なら」

 嫌な予測だ。義理とはいえ親子なので、勝手知ったるというところかとユースリアは目を細める。
 
 「(だけどからかうだけならここまではしないわよね……笑ったことがそこまで重要なのかしら……? 確かにあの子笑わなかったから驚いたけど……)」

 考えても答えは出ない。
 そして見えてくる屋敷。

 「あれかな?」
 「……みたいですね」

 あの【霊王】兄妹は私が出入りしていることを言わないでいてくれた。それは助かったけど、ザガムの居場所は流石に言わざるを得なかったため、ノータイムでここまで来てしまった。

 「ん? 鍵がかかっている?」
 「すみませーん。……出かけているのかしら? 依頼、やってたし」
 「ギルドかい? なら待つとしよう――」

 メギストス様がそういった瞬間、見知った顔が声をかけてきた。

 「あれ、ユースリアさん?」
 「あ、あら、マイラ」

 それにニコラとレティが続いてくる。
 メギストス様がニヤリと笑いながら私に顔を向けてきたのでスッと顔を逸らしておく。

 「また随分なイケメンをお持ちで……。じゃなくて、彼氏ですか?」
 「違うわ」
 「力強い言葉!? そ、そうなんですね。えっと、ザガムやファムちゃんは昼過ぎに出発しましたよ? なんかグェラ神聖国に向かうらしくて、屋敷を空けるそうです」
 「え?」
 「え?」

 私とメギストス様は鍵のかかった屋敷の前できょとんすることになった。
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