最強魔族の俺が最弱の女勇者を鍛えるワケ ~魔王軍二番手の冥王は人間界でもSランク冒険者のようです~

八神 凪

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第五章:陰湿な逃亡者

その88:追跡する冥王

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 「すぐ追いつけそうか?」
 「わたくしの鼻があれば追跡は可能ですが、馬車と一人の乗馬では速度が違います。早くても二、三日はかかるかと」
 「まさか馬を買っているとは思いませんでしたよ……」
 「女性の一人旅で馬無しは厳しいからルーンベル様はきちんとしてるにゃ」

 不安気なファムの背中を優しく撫でるミーヤ。
 メリーナとイザールは御者をつとめてくれている 

 さて、意外にも賭博場で稼いだ金はしっかり持っていたらしく、それなりにする馬を買って飛び出したようだ。
 確かに借金はヴェリナントの不正金による資産から支払われているので、あいつ自身の金はあの時点で相当額持っていたはずなのでそれは驚かない。

 どちらかと言えばルーンベルの性格の方が意外で、すでに逃げ出して来たのであれば残された娘達など見捨ててしまえばいいと思ったからだ。
 冷たいとファムには言われそうだが、対組織であれば一個人、特に人間の力など簡単に握りつぶされてしまうだろう。

 ルーンベルは国に助力を求めると言っていたが、『神霊の園』はその国の傘下。
 なにかしらで繋がっていてもおかしくはない。
 
 冷静に見えるが、その部分が見えていない気がする。
 
 「ルーンベルさん、捕まったりしないですよね……」

 ……いや、違うか。
 残して来た娘達が心配すぎて見えないのだろう。

 最近よく思うが、人間は自分のことよりも他人を気にする傾向にある。
 もちろん全然知らない相手は例外だが、友人や恋人には危険を犯してでも助けようとしたりするのだ
 ファムを心配していたザガート達やスパイクなどもそうだった。

 「……追いつけばいいだけだ、イザールの言う日数ならまだ間に合うだろう。後は手伝うかどうか話し合う」
 「はい……!」

 逆にこう言ってやれば安心するのも分かって来た。
 弱いから寄り合う。
 これは弱小魔族にも言えることだが、人間は本当の強者と寄り添えないのでこの種族が魔族より栄え、領地を獲得しているのは寄り添う力が強いのかもしれない。

 「ファム様は小さくてかわいいにゃー」
 「あはは、ミーヤさんくすぐったいですよー」

 人間のファムと獣人のミーヤがじゃれている。
 これが魔族だと知られたら、ファムはこの態度を保つだろうか?
 
 (ザガムは……あの人のようにはならないでね?)

 「む……」
 「ザガムさんどうしました? 酔っちゃいました?」
 「なんでもない」

 ………また、あの女だ。顔は分からない。……何故、俺の名を呼ぶのだ? 雰囲気はファムに似ているような気がするが――
 
 「む、ザガム様、魔物です。面倒ですが倒しておきましょう」
 「俺がやる」

 気晴らしに魔物を討伐する俺。
 
 その後、問題なく馬車は進み、陽が暮れるかどうかというころ、町に到着することが出来た。

 「ミーヤは馬車についてくれ。俺とファムはルーンベルと食料と水を買いだしするついでに、青い服装の女の情報を聞く。メリーナも頼めるか? イザールはルーンベルの匂いを引き続き調査だ」
 「もちろんでございます」
 「はぁい♪」
 「匂い、ですか?」
 「気にするな。お前は俺といくぞ」
 「宿は?」
 「馬を休ませたらすぐに出る。休むのは交代でいいだろう。<ヒーリング>」
 
 馬が動けなくなるのは困るため回復魔法をかけて足を癒しておく。
 後は水と食料を与えて少し休ませればもう少しもつだろう。
 
 「夜になればあいつも休むだろう。そこで摑まえるぞ」
 「あは、なんだかんだでルーンベルさんのこと心配なんですね!」
 「……お前が騒ぐからな。時間が惜しい、行くぞ」
 「はい!」

 ――俺達はまだ外に居る人間に話を聞いて回り、商店や飯屋を巡る。
 しかし情報は乏しく、この町をスルーした可能性は高いとファムが焦り始めていた。
 だが、青い服を着た魔法使いの情報を得るために一度立ち止まるはずだ。
 イザールに任せておけば追跡は可能だが、情報とすり合わせておくに越したことは無い。
 
 「ルーンベルさんも青い魔法使いの話も無いですねえ……」
 「この町には立ち寄らなかったか……?」
 「ん? お嬢ちゃん、今、青い服の女のことを言ったかい?」
 
 ようやく開店した酒場に入ってファムが口を開くと、カウンターに座っていた鎖帷子の男がこちらに話しかけて来た。

 「え? ご存じなんですか?」
 「ああ、目立つ格好だったからなあ。この町に二日ほど滞在していたよ」
 「どこへ向かったか分かるか?」
 「え? ああ、俺が持ち場についている門からだから、神聖国方面だな」

 好都合、というべきか?
 ルーンベルを知る者が居ればなおいいのだが――

 「すまない、もう一つ尋ねたいのだがシスター服を着た女がこの町に来なかったか? 同時に、今と同じく青い服の女のことを聞いていたかなど分かれば」
 「シスター服……いや、俺は記憶にないな……おい、誰か知っている奴はいねぇか?」

 鎖帷子の男がジョッキを掲げながら周囲の人間に声をかけると、聞き耳を立てていたらしい人間達がざわついていた。
 どうだ? そう思っていると、その中で若い男が立ち上がって口を開く。

 「ああ、俺知ってるよ。確か昼過ぎくらいにそういう女が馬に乗ってたぜ、おやっさんが昼飯交代に行っている間に、神聖国方面の門から出て行ったんだ。あんたの話からすると、青い服の女を追ったんじゃないか?」
 「美人な姉さんだったから俺も覚えているぜ。だけど、夜までにイシュラ街道を抜けてないと野盗が心配だなあ……」
 「あ、ありがとうございます! ザガムさん!」
 「助かる。これは礼だ、適当に分けてくれ」

 俺が一万ルピをテーブルに置いてファムと共に店を出て馬車へと戻る。
 途中、メリーナとイザールと合流。

 「ルーンベル様も少ない時間であちこち行ったのでしょう、匂いが散漫としておりましたが、こちらの方角にある門から出て行ったようです」
 「神聖国方面だな?」
 「さようでございます」
 「青い服の魔法使いはマジックアイテムを買っているらしいですよぅ。この町でいくつか購入しているのが目撃されています」
 「二人ともご苦労。すぐに動くぞ、街道に野盗が出るらしい」
 「承知」

 まだ時間は早い。
 馬も限界が来るはず……ここで追いつきたいところだが――

 「開けた道……ここから街道みたいですよ!」
 
 ファムの言う通り少しだけ整備された道になり、馬の速度が上がる。
 休憩したおかげか調子はいいようだ。
 そしてさらに進み、深夜とも呼べる時間に、それは起きた。

 (きゃぁぁぁぁぁぁ!?)
 
 「今のは……!?」
 「……む、悲鳴。これは……ルーンベル、か……?」

 その瞬間、彼女の顔がちらつき鼓動が高くなる。
 賊に襲われている光景がよぎり、頭が熱くなってきた。

 「ま、まさかルーンベルさん……」
 「先行する。野盗の規模が分らん、ファムは任せた、こいつになにかあったら――」
 「大丈夫ですよぅ♪ 大事なお嫁さんは守ります」
 「ですにゃ!」
 「ザガムさん……」
 「行くぞ」
 
 浮遊魔法を使い一気に加速する。
 魔族領から人間の町まで飛んだ時以来、久しぶりに全力を出した。

ファムを悲しませるなよ、ルーンベル。
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